文=手嶋真彦

提携大学による「アンダーアーマー・カップ」構想

 アメリカの大手スポーツ用品ブランド、アンダーアーマーと、日本の各大学とのパートナーシップ契約は、16年4月の関東学院大学を皮切りに、同年11月の筑波大学が続き、17年4月の近畿大学で3例目となった。関東学院大学の松本直樹(写真左)には、「アンダーアーマー・カップ」の創設というアイデアがある。イメージしているのは競技横断的で、多種目に渡る交流戦だ。

「本学の金沢文庫キャンパスですと、サッカー、ラグビー、野球の試合の同時進行や、体育館もありますから屋内競技も可能です。(アンダーアーマーの日本総代理店である株式会社)ドームさんをハブにして、3大学の持ち回りで、定期的な交流戦をお祭りのように継続開催していく。そんなイベントが地域を巻き込みつつ、大学全体の活性化に繋がれば面白いのかなと」

 関東学院大学がこの4月に新設したスポーツ振興課の課長であり、運動部改革の実務で先頭に立つ松本は、見通しをこう語る。

「まずは各種のリスク管理や会計の透明化といった、これまではほぼ手付かずだった部分の整理を進めていかなければなりません。その上で取り組みたいのが、卒業生や教職員を含めた学内のロイヤルティ醸成です。本学の場合、愛校心が弱い印象は否めません。スポーツをいわばフックにして、自分の大学をもっと好きになってもらう。そのひとつのきっかけが――」

 アンダーアーマー・カップというわけだ。関東学院大学の副学長で、スポーツを軸とした大学改革の旗を振る小山嚴也(よしなり/写真右)は、「戦略的」という言葉を随所にちりばめる。

「これまでは結果的に、無自覚的に各運動部が学生を育ててきたとすれば、これからは戦略的に、意識的にスポーツの価値を活用していきます」

 そんな戦略のひとつに、関東学院大学の近未来のセールスポイントとなりえる新しい形の文武両道がある。

「特進クラスは学業に励み、スポーツクラスは競技に専念し、学校全体で文武両道という従来の形ではありません。運動部員の授業出席を義務付ける程度のレベルにも止まりません」

 小山が思い描くのは、PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング=問題解決型学習)やアクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)そのものとなるスポーツの活用だ。

「文科省が求める"生きる力"や"確かな学力"の素材は、運動部やスポーツの世界にふんだんにあるわけです。さあ勉強しなさいと教室に行かせなくても、競技生活自体がPBLやアクティブ・ラーニングに十分繋がるでしょう。運動場で得られるのは卒業後も役立つ、まさしく生きる力です」

グループワークの授業では運動部員の混ざったグループがうまくいく

©手嶋真彦

松本直樹スポーツ振興課課長(左)、小山嚴也副学長(右)

 関東学院大学が導入を目指している別の構想に、「スポーツを学問の切り口とした科目群を用意する」(松本)スポーツ・インスティテュートという新制度がある。

「例えば組織論や戦略論でも、スポーツの世界に置き換えて学べば、運動部員の理解度は一般の学生より高くなります。競技経験と座学が繋がり、ピンと来る瞬間が訪れやすい」

 そう解説する小山がPBLやアクティブ・ラーニング、さらにはスポーツ・インスティテュートなどを通して実現しようとしているもの。それが「本当の意味での文武両道」なのだろう。「この制度は運動部の学生専用ではありません。高校までは部活動に励んでいた学生たちも少なくないわけですから」と補足する。

 同僚の教員が小山に教えてくれた、こんな話もある。

「グループワークの授業では、運動部員の混ざったグループがうまくいく傾向にあるそうです」

 そこから小山は、こんな期待を寄せている。

「こちらでちゃんとしたプログラムを用意してあげれば、教室では浮いていた学生アスリートが授業でも一目置かれるようになるかもしれない。かつては分断されていた一般の学生との距離が縮まり、じゃあ試合の応援に行ってみるかという流れが生まれるかもしれません」

 スポーツを切り口とする科目群に、例えば心理学や栄養学、社会学などを含めれば、運動部員の競技面のパフォーマンスにもプラスに働きうる。小山にはそんな目論見もある。

 4月中旬には金沢八景キャンパスの学内に、アンダーアーマーショップがオープンした。アルバイトとして勤務しているのは、関東学院大学の現役の学生だ。10月には現在の仮店舗をキャンパスの中心部に移転し、本格的な展開を進める。ウェアやグッズで得た収益をスポーツ活動だけでなく、教育研究活動に活用していく考えもあるそうだ。

 アンダーアーマーの日本総代理店である株式会社ドームが、関東学院大学の学生を対象とするインターンシップの受け入れ先となる計画も具体化しつつある。両者がパートナーシップで目指していくのは、「スポーツを通じた人材育成の強化」、「スポーツによる社会貢献や地域貢献」、「カレッジスポーツの競技水準の向上」、そして「スポーツを軸とした学校文化の発展」や「カレッジスポーツを軸とした日本の教育環境の改革」など。パートナーシップ契約に尽力した小山は、こう願う。

「アンダーアーマーさんとの提携は、大学だけでなく認定こども園から大学院まで、系列の高校や中学などを含めた関東学院という学校法人として結んだものです。運動部員のためだけのパートナーシップ契約ではないので、多くの学生さん、OB・OG、教職員が関わってくれるようになればいいなあと」

 小山には忘れられない光景がある。十数年前のアメリカ視察時に目の当たりにしたのは、オハイオ州立大学が所有する10万人収容のスタジアムだった。度肝を抜かれた。

「アメリカンフットボールの対抗戦か何かで、街全体がザワザワしていていたんです。街全体で大学のスポーツチームを応援していた、あの世界に一歩でも二歩でも近づいていきたい。似たような発想を持っていたのが、ドームの安田(秀一)社長でした」

 同じ峻険を別々のルートでアタックしていたふたりは、しかるべきタイミングで必然のように出会ったのかもしれない。日本の大学では初めてアンダーアーマーと、そしてドームと手を組んだ関東学院大学は、全国に781校存在する大学の先駆けとして、スポーツのポテンシャルを最大限に活用する独自の道を切り開こうとしている。
(文中敬称略)

手嶋真彦

著者プロフィール 手嶋真彦

1967年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、新聞記者、4年間のイタリア留学を経て、海外サッカー専門誌『ワールドサッカーダイジェスト』の編集長を5年間務めたのち独立。スポーツは万人に勇気や希望をもたらし、人々を結び付け、成長させる。スポーツで人生や社会はより豊かになる。そう信じ、競技者、指導者、運営者、組織・企業等を取材・発信する。サッカーのFIFAワールドカップは94年、98年、02年、06年大会を現地で観戦・取材した。