生活文化の中核に野球を置く! ファイターズが新球場に託す夢とは

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北海道日本ハム・ファイターズの新球場建設構想が29日、公表された。

地元北海道での関心は非常に高く、発表の日、球団事務所前は地元テレビ各社のカメラやアナウンサー、新聞記者たちでごった返したという。

ファンやメディアの関心は「新球場がどこに建てられるのか」に集中している。今回の発表はその疑問に直接答えていない。少し肩すかしを食らわすかのように、「新球場建設構想」つまり「夢」を語る内容になっている。

球場建設の候補地は現在、札幌市と千歳市のほぼ中間に位置する北広島市の『きたひろしま総合運動公園』と、札幌市が推薦した北海道大学構内と豊平区の学校法人八紘学園の所有地を含む敷地の計三ヵ所に絞られている。北広島の候補地は36ヘクタール以上と広いがアクセスが不便。新しい駅を作る必要もある。札幌市内の二カ所は、それぞれ10ヘクタール、13ヘクタールと広さが不十分、設計の自由度が低いなど一長一短だ。

球団が新球場の建設ビジョンを具体的に示したのは、新球場問題が「面積」を中心に語られ、新球場を作る一番の目的と離れたところに関心が移っている違和感を解消し、「こんな夢のある球場を、こんな強い情熱で作りたい!」という明確なメッセージをファンや道民に伝えたかったからだという。

発表されたビジョンを見ると、いままでの球場のイメージと、ファイターズが作ろうとしている新球場は大きく違う。すでに東北楽天ゴールデンイーグルスや広島カープなどが提唱している「ボールパーク構想」をさらに進めた、もっと壮大な“街作り”、生活文化の中核に球場(野球)を置く発想が込められている。球団はこれを「選手のパフォーマンスが最大限活かされるスタジアムを核に、国際競争力を有するライブ・エンターテイメントタウンとして『“アジアNo.1”のボールパーク』を目指します」と表現している。

特徴的なのは、外野席の向こうが自由通路になっていて、その先にバーベキュー場、少年野球のグラウンドなどが配置され、自然公園の趣が広がっていること。球場に入るメインストリートはファッション性の高い一大ショッピングタウンとレストラン街。ディズニーランドのメインエントランス周辺を大人向けにデザインしたようなイメージだ。

球場内の施設も、世界に誇れるグレードを感じさせる。選手のロッカーはクリーンで開放的。コンディショニング用のプール、劇場的なミーティングルームも完備している。野球選手なら、「このチームに入りたい」と思うだろうし、「こんな素晴らしい球場でプレーできるなら、絶対プロ野球選手になりたい!」という強い意志をかきたてられるだろう。

球場の周りには、ホテル、レストランなども建設され、そこから試合が自由に観戦できる配置になっている。バーベキュー場は広島のマツダスタジアムにもあるが、ファイターズはキャンプ場も併設し、野球を見た後、北海道の星空を見上げてアウトドアで夜を過ごしてもらう構想も描いている。メイン球場隣に少年野球場を作るのは、ジュニアの育成、野球普及の願いを込めているのだろう。

野球少年の激減、野球人気の低迷が案じられる中、ファイターズは徹底して「夢のあるスタジアム」「野球の楽しみにあふれたボールパーク」を作ることで新しい野球の未来、野球を通した社会貢献や社会エネルギーの創出を思い描いている。それが発表された新球場建設構想から伝わってくる。

自前のスタジアム保有をするメリットとファン・サービスの充実

©共同通信

新球場を作る目的は、大きく集約すると二つある。

ひとつは球団の収益性を高める狙い。札幌ドームは“借家”だから、飲食や物品の収益は札幌ドーム(札幌市)に入る。球団は一部を受け取るに過ぎない。年間13億円と言われる賃貸料も支払わなければならない。持ち家になれば、収益は球団のものになる。2004年に札幌に移転してからすでに14年。地元ファンの支持を得て“人気球団”となったファイターズが自前の球場を持った場合の試算をすると、相当な増収増益、完全な黒字化が見込める。借家ゆえに多額の利益が消失するのはあまりにもったいない。昨年、横浜DeNAが横浜スタジアムを買収した意図もここにある。球団の赤字が親会社の広告宣伝費で補填されていた時代が長かった日本の球団も、独立採算を目指す方向に変わり始めた。その基本が自前のスタジアムを保有することだ。

もうひとつの目的は、ファン・サービスの充実と社会貢献の実現。収益が上がれば、ファン・サービスに還元できる。野球の普及に注ぐ資金も潤沢になる。思い通りの球場運営、演出、ファン・サービスができないジレンマを新球場建設によって解消する。球団が実質的に球団経営の主導権を握れる。例えば、人工芝の張替えを希望しても、判断するのは持ち主である札幌市。スタンドの椅子の大きさや素材についてファンから要望が寄せられても、いま球団ではすぐに対応できない。

「新球場を作り、収益を高めてもっと存分にファンに喜んでもらえる環境を整えたい。

少年たちが、300円とか500円とか、小遣いを握りしめて球場に応援しに来られる球場を作りたいんです」

球団関係者の一人はこのように球場建設の思いを語ってくれた。

構想に適う理想の建設候補地はどこに?

©北海道日本ハムファイターズ

そうなると、本当に求められる球場の候補地はどこだろう?

これだけ壮大なライブ・エンターテイメントタウン、新しいスポーツ・コミュニティが北海道のどこにあれば、日常的にファイターズ新球場が北海道の生活文化の活力源でありえるのか?

今回の新球場建設構想発表は、こうした問いかけも含んでいるように感じる。

ファイターズは、2018年3月までに建設予定地など一定の方向性を出したいとしている。現時点の状況から言えば、冒頭に記した三ヵ所に絞られた感がある。だが、筆者の取材によれば、ファイターズは必ずしもその三ヵ所に満足していない。もっと相応しい場所があるのではないか? そんな思いでまだ最終的な候補地を探し続けている。

例えば、東京で想定したらどこが候補地になるだろう?

都心を離れた郊外が現実的にも感じるが、都心から東へあるいは西へ、遠い場所にあったら「都民が一丸になって応援する球団」「都民全員の心のよりどころ」といった感覚が持てるだろうか? ある時期、都心から都下に離れた私立大学がいままた都心に回帰して人気を復活させているように、都心に作る選択肢もある。築地市場跡地に巨人が球場を作る噂が流れたことがある。それも歓迎すべき一案だと思う。あるいは、日比谷公園、代々木公園の中に球場が出来たらどうだろう? まさに神宮球場や東京ドームの立地がその先例。誰もが行きやすく、試合前後、野球以外の楽しみとも連動できる。

そういう場所が札幌市内にはないだろうか?

筆者世代には巨人が毎年試合を行っていた「札幌円山球場」の名前に馴染みがあるが、北海道の人たちには、昭和55年までアマチュア野球の殿堂として親しまれていた中島球場がもっと身近な存在だった。中島球場は札幌駅の南。大通公園、すすきのの先にある中島公園の中にあった。そこにこの新球場(ライブ・エンターテインメント・タウン)ができたら、新しい札幌の新名所になり、街と一体になって活気づくのは容易に想像できる。

そこを復活させようと呼びかけたら、賛否両論、大変な議論になるかもしれない。なにしろ野球場はいま“迷惑施設”とされ、反対運動が推進側を上回る形勢にある。だからこそ、これだけ素晴らしい“社会的意義”を持つ構想を旗頭に、“野球の底力”を訴えるチャレンジもあってよいのではないだろうか。

ファイターズは本気で「夢のボールパーク・タウン」を作ろうとしている。札幌そして北海道の活性化の一翼を担う、大人も子どもも元気になるパワースポットにしよう、だから、札幌のど真ん中こそふさわしいじゃないか! そんな議論が湧き上がり、市民たちが喧々囂々の論議を交わすのもまた、新球場を推進するひとつの意義だと思う。

<了>

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小林信也

1956年生まれ。作家・スポーツライター。人間の物語を中心に、新しいスポーツの未来を提唱し創造し続ける。雑誌ポパイ、ナンバーのスタッフを経て独立。選手やトレーナーのサポート、イベント・プロデュース、スポーツ用具の開発等を行い、実践的にスポーツ改革に一石を投じ続ける。テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『野球の真髄 なぜこのゲームに魅せられるのか』『長島茂雄語録』『越後の雪だるま ヨネックス創業者・米山稔物語』『YOSHIKI 蒼い血の微笑』『カツラ-の秘密》など多数。