スポーツが文化として根付くチャンスを活かせるか?

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、日本のスポーツ界が盛り上がっていくことは間違いないでしょう。国も、現状5.5兆円の国内スポーツ市場を2025年までに15兆円とすることを目標に掲げています。
 
 そうした時代状況を踏まえて、私は“スポーツビジネスの第一人者”となることに意味があると考え、ベイスターズの球団社長を退任後、野球以外のスポーツ界からいただいたオファーをいくつかお受けすることにしました(そもそも野球界からはオファーが一切ありませんでした)。
 
 現在、スポーツ関連の肩書としては「Jリーグ特任理事」、「日本ラグビー・フットボール協会特任理事」、「明治大学学長特任補佐兼スポーツアドミニストレーター(Athletic Director)」、さらにスポーツビジネスをテーマにしたサロン「Number Sports Business College」の学長としても活動しています。
 
 さまざまな競技界の現状や、それぞれが抱えている課題などに対する理解度が深まるにつれ、正直なところ懸念と疑念を強めています。このままではオリンピック開催に向けての日本のスポーツ界の盛り上がりは“ブーム”に終わってしまうのではないか。2020年以降もスポーツが“文化”として根付いていく稀有なチャンスを逃してしまうのではないか、という危機感です。

ラグビーW杯、成功の定義は?

 スポーツをビジネスとして育てる=産業化するには、興行のエンターテイメント化が不可欠ですが、それがいまできているとは言い難く、かつこちらも不可欠な経営者が決定的に不足しています。また業界として閉鎖的で、スポーツ経営層が育たず、他業界との人材の流動性に乏しくスポーツ人材にも乏しく、いわゆる“タコツボ化”してしまっています。
 
 私がベイスターズの球団社長を務めている間に感じていた球界の問題点は、実は日本のスポーツ界全体にもそっくりそのまま言えることだったのです。各競技界の現実に触れたり、関係者と言葉を交わしたりしていく中で、ポテンシャルの大きさに魅力を感じることも多々あります。ただ、いまの延長線上でそのポテンシャルが花開くかと問われれば、厳しいと答えざるを得ません。
 
 たとえばラグビー界はいま、日本で開催される2019年ワールドカップに向けて準備を進めています。世界のラグビーファンは数百万人規模と言われており、これを機に2019年以降のラグビー熱につなげる目線が希薄で、ワールドカップ単体での成功目線が強く、何が目的だか成功の定義だか分からなくなっています。「ワールドカップにもたくさんのラグビーファンが海外から押し寄せる。だから集客は問題ない」と、成功の定義を“インバウンド“に頼った経済効果や刹那の集客で見ている節もあります。
 
 しかし、本当にそうでしょうか。イギリスなど先進国からは多くのファンが日本にやってくるでしょうし、人気カードのチケットの売れ行きは問題ないとは思いますが、ラグビーワールドカップの特徴は一定数の小国(または地域)も参加するという点です。
 
 まだ予選の最中ですが、たとえばフィジー(人口約90万人)やサモア(同約20万人)、トンガ(同約11万人)など、経済的にも裕福とは言い難い国どうしのカードも確実に満員になるのか? しっかりとシミュレーションしたうえで策を練っておく必要があるように思います。
 
 1年後の2020年東京オリンピックでセブンス(7人制ラグビー)があるから、注目度の継続性は担保できるという見方もあるようですが、同じラグビーとはいえ、15人制とセブンスは目にした時の印象がかなり異なります。テニスのダブルスがとシングルが全然違うもののように、サーフィンのロングボードとショートボードが全然違うもののように、一緒くたにすべきものなのでしょうか。オリンピックがあるから大丈夫、と楽観するのは危険です。

W杯は「裾野を広げる絶好のチャンス」と捉えるべき

 また、ワールドカップという世界的な一大イベントを開催することは、日本のラグビー界の裾野を広げる絶好のチャンスだという認識をもっておくことが重要です。実はこれが一番重要なことだと私は思います。
 
 ラグビーをやってみたいという子どもが増える。
 ラグビーの試合をもっと見たいというファンが増える。
 試合会場となったスタジアムが、その地方におけるラグビーの聖地になる。
 ワールドカップが行われた地域のラグビー熱が続いていく。
 ワールドカップで活躍した選手とともにトップリーグが継続的な人気を獲得する。
 ジャパン(日本代表)の試合がワールドカップの後も注目を浴び続ける。
 スーパーラグビーに参戦しているサンウルブスが強くなる。
 
 「ブームで終わらせない。」
 南アフリカでの五郎丸人気と南ア戦がブームで終わってしまったように、同じ過ちを繰り返さない。
 ラグビーに正しく触れる、接触する、継続的な興味につなげる。最大の、見えている最後の機会を最大限に生かさなくてはならない。


 そんな状況をつくり、日本ラグビー界が将来に向けて飛躍するためのジャンプ台にしなければなりません。しかし、現状は大会をつつがなくやり遂げることに重きが置かれ、大会後も含めた長期的ビジョンが描けていないのではないかと感じます。
 
 ワールドカップの開催運営は組織委員会の仕事ですが、組織委員会は大会の終了とともに解散する組織であり、ほとんど各関係先からの出向者によって構成されています。“大会の成功”に終始せず、その後のラグビー界の発展にも目を向けて策を講じるべきはラグビー協会ということになるのでしょう。ですが、ブームではなく文化にするための武器、ノウハウを持ち合わせていない印象を受けます。
 
 私はラグビー協会の特任理事という立場から、できうる限りの提言を行っていきたいと考えてはいるものの、あくまで社外取締役的な立場に過ぎず、できることは限られています。さまざまな意見の中から何を選びとり、判断し、実行に移すのか。それを決めるのは、協会の中の人々です。
 
 本番はもう2年後に迫っています。日本ラグビー界の未来のために、たずさわるすべての人たちが危機感を共有し準備を進めていくことが大切だと思います。

第三回に続く

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2011年の社長就任当初、24億の赤字を抱えていたベイスターズは、いかにして5億円超の黒字化に成功したのか――。その実績と経験をもとに「再現性のある経営メソッド」「組織再生の成功法則」「スポーツビジネスとは何か」が凝縮された1冊。

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日比野恭三

1981年、宮崎県生まれ。PR代理店勤務などを経て、2010年から6年間『Sports Graphic Number』編集部に所属。現在はフリーランスのライター・編集者として、野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを取材対象に活動中。