©新井賢一

つい最近まで「本業がない」って悩んでいたんです

――為末さんはいろいろな事業やプロジェクトをされていますが、中心になっているものは?

為末 自分の中での位置づけとして、「為末はメディアである」という感覚で捉えていますね。だから、今はいろいろなことをやっています、義足の『Xiborg(サイボーグ)』とか、合宿をやっている『R.project』とか、弊社の『侍』とか。それぞれのプロジェクトは強く関わっているものもある一方、「社長が別でやっていて、僕はただ関わっているだけ」みたいなケースも結構あるんです。

スポーツに近しい領域のもので、自分がバリューを出せそうなところを支援している感じです。「すごくたくさんやっていますね」って言われますけど、支援する立場のものが多くて。僕が主としてやっているものはあまりないです。でも、いろいろなものが生態系みたいに発展していったらいいなっていうイメージですね。

――その中で深く関わっているところは?

為末 意思決定する領域のような気がします。「この事業を進めていく」というより、ある事業をやることに対して「うちの会社が参画するか」「僕が参加すべきか」を考えるのが、いつもやっているところです。

どちらかと言うと、僕はあまりビジョナリーな人間ではないんですね。「未来がこうなるなら、こんなものが必要とされるんじゃないか」っていうところから考えています。スポーツじゃなきゃ、というわけもないんですが、自分がやってきたことなので。たとえば将来的に空き家が増えてくるなら、そこで合宿をやったらいいなとか。

――「今のスタイルがいい」と確信できたのは、いつ頃からですか?

為末 本当に、つい最近です。実はこの1年、「本業がないじゃないか」とすごく悩んでいたんです。でも、孫(正義)さんが「テクノロジーのウォーレン・バフェット(※1)」になるとおっしゃっているのを聞き、そういうふうに割り切っちゃうといいのかなと思えました。関わっている企業の株式は、少額ですが持っています。将来的に生態系みたいな感じでみんながスポーツで発展していけば、結果として自分も生き残っているんじゃないかと。なので、今はいろいろやる方向性で考えています。

――「職業:為末大」ということですね。

為末 それに近いかもしれません。もうちょっとスケールが大きいと本田(圭佑)さんですかね。彼が今何を考えられているかわからないですけど。僕は比較的テクノロジーが好きなので、スポーツとテクノロジーの領域をくくって、わかる範囲でやっています。でも、こういうビジネスってフローが小さくなるんです。日々入ってくるお金が。出資するということは、基本的に出ていくばかりじゃないですか。今うちの会社は、結局僕が半分くらいの売上を作っています。これではちょっといびつなので、弊社の事業を育てていきながら、僕が稼いでいる比率を20パーセントくらいにしたいと思っています。

――その中で核になっているものは、特にないということですか?

為末 『侍』という会社をやっていて、僕が100パーセントの株式を持っています。ここの事業には大きく関わってやっていますね。子どものかけっこスクールをやっている『TRAC(トラック)』、『新豊洲Brilliaランニングスタジアム』の運営、あとは電通さんとやっている『アスリートブレーンズ』とか。そこが主体ということになると思います。

©新井賢一

日本のスタジアムはめちゃくちゃ厳しい

――世間一般の食いつきは、何が一番よかったのでしょうか?

為末 この『新豊洲Brilliaランニングスタジアム』はよかったですね。びっくりしました。急に「オレがやったんだよ」って言いたくなっちゃう感じです(笑)。

――このランニングスタジアムを作ろうと思ったきっかけは?

為末 最初の入口は「TOYOSU会議」というお話をいただいたことです。2020年(東京オリンピック)に向けてわかりやすい形のものを作りたい、という話をしているときに、「こういうランニングスタジアムを作れないですか?」と話したところがスタートでした。

着想の根底にあるのは、海外のスタジアムです。海外は、地域の人が勝手に入って走れるんですよ。外国人の僕でも利用できる。日本のスタジアムは、めちゃくちゃ厳しいです。事前に予約しないといけないし、占領利用しちゃダメ、飲食ダメ……。なので「こうなればいいのにな」って思ったものがすべて実現できたら、と思っていました。

――ランニングスタジアムを作る上で大事にしたコンセプトは?

為末 風景ですね。といっても、建物の話ではありません。「こういう木がいい」とかは建築の方々にお任せしました。僕は、障害を持っていても、健常者でも、子どもでも、高齢者の人でも使えるもの、有名人がいても「写真撮ってください」とかがない、みんなが自然にいる風景をどう作るかにこだわりました。ですから、これからのほうが役割は大きくなると思っています。義足を使った選手が来やすいようにとか、バリアフリーにして障害者だけでなく高齢の方でも使いやすいようにするとか。これからたくさんの人を呼んで、いい風景を作ることが頑張りどころだと思っています。

現在、新豊洲Brilliaランニングスタジアムでは、夏休みの特別企画として、8月31日(木)に開催する小学生を対象とした「為末大監修 TRACかけっこ教室」の参加者を募集中。

https://sports.epark.jp/specials/2017summer/

【後編】パラリンピアンへの「力み」を無くしたい。為末大・スペシャルインタビュー

前編では「本業がない」ことへの悩みから、意思決定をする存在として自らを定義付けたこと、『新豊洲Brilliaランニングスタジアム』を立ち上げどんな人でも使える場を目指したことを伺った。後編では、その話をより掘り下げ、パラリンピアンに対する日本人の目線について言及している。(インタビュー=岩本義弘 写真=新井賢一)

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岩本義弘

サッカーキング統括編集長/(株)TSUBASA代表取締役/編集者/インタビュアー/スポーツコンサルタント&ジャーナリスト/サッカー解説者/(株)フロムワンにて『サッカーキング』『ワールドサッカーキング』など、各媒体の編集長を歴任。 国内外のサッカー選手への豊富なインタビュー経験を持つ。