文=河合拓
低調なパフォーマンスだった日本代表
試合後のヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、怒り心頭だった。このキリンチャレンジカップの位置づけは、11月に控えるブラジルとベルギーという世界有数の強豪国との連戦を前に、ロシアW杯に向けたチーム内の競争を活性化するための一戦だ。しかし、日本代表のプレーは低調だった。ニュージーランド戦から先発を9人変更して臨んだチームは、序盤に機能して2ゴールを先制する。だが、その後はロシアW杯北中米カリブ海予選で敗退した相手に苦しめられ、一度は2-3と逆転まで許した。
アディショナルタイムの同点ゴールで引き分けたものの、指揮官は「このような選手たちを選んだ私の責任」と言いつつも、「多くのチャンスをつくり2-0にしてから、選手たちの頭の中で何が起きたのか分からない」、「長年監督を続けていますが、こんなに悪い試合を見たことがありません。本当に良くないゲームになりました。このような試合の後に、ワールドカップ本大会の話をすると、愚かな人間だと思われてしまう。そんな内容でした」と、不満をぶちまけた。さらに11月の対戦相手を引き合いに出し、「ブラジルとやっていたら3点ではなく、10失点してしまいます。そういったことを意識しないといけません」と、辛辣だった。
2-2で迎えた後半14分に、先制点を挙げたMF倉田秋との交代でピッチに立ったMF香川真司は、「1点が必要でしたし、前半の半ばくらいからペースがダウンしていたので、もう一つギアをアップしないといけませんでした。途中出場の選手も多かったですが、流れを変えるという気持ちでピッチに入りました」と、振り返った。
香川が起用されたのは4-3-3のインサイドハーフ。アンカーにMF遠藤航、インサイドハーフにMF井手口陽介が並ぶという初めての構成になった。「ボールを早く動かしていこうと声をかけました。僕たちがどんどんボールを受けて、後ろから組み立てていかないと、前に良い形でボールが入りません。それを徹底しながら、3ボランチがいるので、両サイドバックはできるだけ高い位置を取るように、ドルトムントと似ている感覚で(やることを)意識して入りました」と、自身が描いていたプレーのビジョンを語る。しかし、連係が噛み合わない場面もあり、思うように流れを引き寄せられない。
香川自身も「やっていて、すごく(ボールの)回りが悪いというか、みんなが攻撃的にいっている分、前に人数はいますが、コンビネーションであったり、連動性は、なかなかうまれていなかった。後ろからゲームをコントロールしながら前に進むっていう意味でも、なかなかできていなかったので、前の選手がタイミングを合わせづらかったのもあります。そういうところの課題は出たのではないかと思います」と、唇を噛んだ。
ボールを保持しながらも、引いた相手を崩しきれなかった日本は、逆に後半33分に逆転ゴールを決められてしまう。攻撃が機能しない日本には、この1点が重くのしかかった。
ドルトムントで培った4-3-3の感覚
©Getty Imagesそれでも後半アディショナルタイム、中盤から前線に飛び出して行った香川は、ゴール前で相手と競り合って倒される。このときボールは左から右へと流れていき、右サイドでボールを持ったDF酒井高徳がシュートを放った。ボールが飛ぶコース上にいた香川は、「良いところに(ボールが)来たので触った」と、咄嗟に反応。これがゴールに決まり、日本は土壇場で同点に追いついた。
「両サイドバックがあそこまで高い位置に来たところでビッグチャンスができました。それまで効果的なチャンスはうまれていなかったですし、あの場面が唯一、(原口)元気から車屋(紳太郎)に入って、うまく攻撃のリズムが乗って、早い連動性のある攻撃ができました。それ以外は、あまりリズムが生まれなかったかなと思います」と、得点の場面の連動性に手ごたえを口にし、その回数が少なかったことを悔しがった。
来年のW杯まで、日本代表チームが活動できる回数は限られている。その中で、選手たちは自身の存在をアピールしつつ、チームとしての連係も高めなければいけない。過去に2度、W杯出場を決めたチームでプレーしてきた香川は、11月10日に控えるブラジル戦、同14日のベルギー戦の重要性について「次の2試合は、本当に自分たちの現状がわかる2試合になると思います」と言い、「一人ひとりが、まずは自分自身のプレーの質を上げていかないといけない」と、課題を口にした。
同時に、W杯での勝利を目指す中で、自身が日本代表の中で大きな役割を担うことも自覚する。「僕に与えられたポジションであったり、課せられるモノは、大きくないといけないと思っています。その責任を感じるし、もっともっとこのチームに還元したい。ましてや4-3-3という布陣は、ドルトムントでも長くやっているので、すごく感じることがあります。もっともっとより良いものにするために、チームであったり、監督と徹底して話していかないと。そこを曖昧にしてしまうと、本当に痛い目にあうと思っているので。今回も監督とも話をしました。チームで感じたことを選手同士でも話をしますが、監督ともっとわかりあっていかないと。その温度差を、もっともっと詰めていかないといけないかなと感じています」
ドルトムントで体現している4-3-3の感覚を、日本代表でも感じられるように。自身2度目となるW杯に向けて、香川は新たなチャレンジに挑んでいる。
日本代表に足りない“ポジショナルプレー”とは何か? 五百蔵容×結城康平対談(1)
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