文=北條聡
ハイチ戦でハリルホジッチ監督が犯したミス
©Getty Images来年6月14日に開幕するロシア・ワールドカップまで、残り8カ月――。日本代表はこの先、いかなる強化プランをもって本大会に備えればいいのか。
先日、2試合の強化試合を行なった10月シリーズでは、さまざまな批判が渦巻いた。第一にマッチメークの問題だ。対戦相手はニュージーランドとハイチ。いずれもFIFA(国際サッカー連盟)ランキングでは日本よりも下位にある国である。本大会において、このクラスの相手と戦うケースは、まず考えられない。
だが、終わってみれば、ニュージーランド戦は2-1の僅差勝ち、ハイチ戦は3-3のドロー。このクラスの相手にも苦しめられるのが、いまの日本というわけだ。もっとも、この10月シリーズは現時点でベストと考えられるメンバーを中心に戦ったわけではない。
ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は出場機会の少なかった選手たちにチャンスを与えて「個々の力量を見極める」ことを大きな目的としていた。そのために、手ごろな相手を選び、各々が力を発揮しやすい環境を整える。今回のマッチメークには、そんな思惑があった。
だが、ある程度主力をそろえたニュージーランド戦はともかく、ハイチ戦の起用法は「乱暴」だった。何しろ先発メンバーのなかで主力と呼べるのは長友佑都と昌子源くらい。いくら(戦い方の)コンセプトを共有しているとはいえ、これでは連係も何もない。ただの寄せ集めである。そもそも日本には独りで球を奪う、または独りで点を取ってしまう「突出した個人」は、いない。
周囲と協力しながら、守り、攻める。そのなかで持ち味を生かす選手がほとんどだ。各ラインに一定数の主力を配し、最低限の組織力を担保したうえでテストしなければ、統一感に欠けるハイチ戦のような事態に陥るのも当然か。このあたりは指揮官の失策だろう。
もちろん、戦術的な課題も少なくなかった。その一つに相変わらず、引いて守る相手を崩せない――との指摘もある。まったくもって、その通りなのだが、おいそれと解決策を見いだせる類の話ではない。そもそも引いた相手を崩す力を持てるなら、いまの日本のような戦い方(堅守速攻)をベースにする道理がないからだ。
じゃあ、実際にそうした状況に陥ったら、どうするのか。そこは「個の力」か「セットプレー」と相場が決まっている。もっとも、日本に堅い守備ブロックを破壊できる「個の力」はないから、セットプレーに活路を見いだすほかない。これなら、日本にも準備できる。
2010年の南アフリカ・ワールドカップでベスト16入りを決めたデンマーク戦の勝因も2つのFK(直接)にあった。セットプレー絡みの得点はキッカーの力量に大きく依存する。しかし、アジア予選ではその手の人材が見当たらず、バックドアにはならなかった。
清武弘嗣や小林祐希といった有力キッカーをスタメンに組み込めるかどうか。今後、テストを繰り返す必要があるかもしれない。前線でターゲットになる選手がいれば、パワープレー(放り込み)も攻め手になるが、この分野においても吉田麻也以外、これという人材が不足している。だから余計にキッカーが重要になるわけだ。
それはそれとして、日本の喫緊の課題はオプションの確保よりも、むしろ監督の求めるスタイルで本当に勝ち負けに持っていけるかどうか、という本筋のところにある。本大会で対峙するレベルの相手と手合わせしていないからだ。そこで、11月シリーズ(ヨーロッパ遠征)がきわめて重要になってくる。
ブラジルとベルギーとの強化試合だ。どちらも本大会のグループステージでシードクラスに該当する強豪である。いったい、どこまで通じるのか。この2試合を通じて、日本の現在値(リアルな実力)が分かるだろう。
試される日本サッカー協会のマッチメーク力
©Getty Images本大会までに優先すべきテーマは、得点する力よりもむしろ、失点しない力だろう。日本が先に失点してしまえば、相手に引いて守れられてしまう恐れがある。そうさせないためにも、とにかく失点を避けるしかない。
強豪相手に押し込まれ、どこまで持ちこたえられるのか。攻撃の起点(球の回収地点)を下げられても、反撃(速攻が)できるのか。どちらの力も未知数だ。現状では、かなり難しいミッションだろう。
速攻は軽くみられがちだが、相手に押し込まれた状態から少ない手数でフィニッシュまで持ち込むのは至難の業だ。自陣にブロックを築いて守るにしても、中盤から前のゾーンで球を奪えなければ、効果的な速攻を仕掛けるのは難しい。球の回収地点が常に最終ラインでは前線までの距離が遠く、途中で球を失いかねない。
いかに高い位置で(中盤から前線にかけて)球を奪えるか。日本が狙いとする速攻がハマるかどうかは、それ次第と言ってもいい。監督の求める戦い方を貫くなら、そこを突き詰めていくしかないだろう。
出場機会の少ない選手たちの見極めという意味では、年内にもう一度、チャンスがある。12月に日本で開催される東アジアサッカー連盟(EAFF)主催の東アジアカップ(正式名称はEAFF-E1フットボールチャンピオンシップ)だ。韓国、中国、北朝鮮の3カ国と対戦する。だが、それ以上に重要なのは、同じ12月に行なわれるロシア大会のドロー(組分け抽選)だろう。
グループステージで戦う相手が決まり、対戦国の特徴などを踏まえながら、マッチングを進めることになるからだ。対戦国とよく似た特徴を持つ国々との試合を組めるかどうかが焦点になる。闇雲に超大国とばかり試合をしても、効率のいい強化とは言い難い。大敗に次ぐ大敗で、選手たちが自信を失っても困るわけだ。
あとはロシア遠征も選択肢に入れてもいい。4年前とは違い、プレ大会とも言うべきコンフェデレーションズカップに参加していない。その点を踏まえれば、キャンプ地などの視察も兼ねて、現地に赴くことには相応のメリットがある。思えば、第二次岡田ジャパンも本大会に先立って、南アフリカへの遠征を試みていた。
勝負は8カ月後だ。8年前にさかのぼれば、本田圭佑がオランダ遠征でエースの中村俊輔に噛みついていた頃である。この先、何が起きるか、まだまだ予測がつかない。とにかく、本番までにやるべきことを粛々と進めるだけだ。肝心の「やるべきこと」が、指揮官の頭の中でしかと整理されているのであれば――。
日本サッカーの重大な課題は、「抽象化できないこと」である。五百蔵容×結城康平対談(2)
10月10日のハイチ戦は、3-3と打ち合いの末引き分け。「相手がブラジルなら10失点している」と、ヴァイド・ハリルホジッチ監督も落胆を隠せない様子でした。試合内容を見ると、レギュラーの選手が出場しないと途端に約束事が見えづらくなり、適切なタイミングで適切なプレーができないシーンが散見されました。本対談で五百蔵容(いほろい・ただし)氏と結城康平氏が述べた「蓄積するヨーロッパと、そうでない日本」という趣旨の箇所は、はからずもハイチ戦で露呈してしまったようにも見えます。キーワードは「抽象化」です。(語り手:五百蔵容・結城康平 編集:澤山大輔[VICTORY編集部])
香川真司が思い描く日本代表のドルトムント化 「4-3-3は長くやっている」世代交代を求める声に待ったをかける長友佑都 「真司や圭佑が出ていたら…」ハリルホジッチ監督、退任を示唆?「プライベートで大きな問題」日本は、いつまで“メッシの卵”を見落とし続けるのか? 小俣よしのぶ(前編)