圧倒的強さを見せたパ・リーグ王者のドラフト戦略

いよいよ、クライマックスが近づいてきた。2017年のプロ野球。10月22日に、パ・リーグ王者の福岡ソフトバンクホークスがクライマックスシリーズ・ファイナルステージで東北楽天ゴールデンイーグルスを下し、日本シリーズ進出を決めた。そこから遅れること2日、セ・リーグではレギュラーシーズン3位からファイナルステージへと勝ち上がったDeNAベイスターズが、1敗のあとの4連勝でリーグ王者の広島東洋カープを粉砕。まさかの下克上で、ソフトバンクと日本シリーズを戦うこととなった。

両リーグの代表が激突する日本シリーズは10月28日、ソフトバンクの本拠地ヤフオクドームで開幕する。が、その直前に、プロ野球界にはもう1つ、要注目のビッグイベントが控えている。10月26日。球界の話題が、それ一色となる日。そう「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」である。

今年のドラフト会議で、最大の注目は早稲田実業高の清宮幸太郎内野手と、そして、その清宮を巡る各球団の駆け引きだ。はたして何球団が競合するのか、どこが交渉権を獲得するのか。清宮を回避し、他球団を出し抜いて、好素材を1本釣りする球団はあるのか。広島は広陵高・中村奨成捕手の1位指名を公言している。ドラフト会議まであとわずか。最後の最後まで、12球団、スカウトの間での腹の探り合いは続いていく。

各球団、今季の戦いや編成を分析し、チームにとって今足りない部分、将来的に必要となる部分を洗い出していき、指名選手は絞り込まれていく。今年、ドラフトで必要なのは即戦力なのか、将来性なのか。思惑は12球団、それぞれで変わってくる。

今季、驚異の94勝をマークし、パ・リーグで独走Vを果たしたソフトバンク。他球団を凌駕する選手層を誇り、常勝軍団としての道を着々と歩んでいるパ・リーグ王者は、ここ数年、他球団とは、明らかに異なる路線での指名方針を貫いてきている。

2014年は、早稲田大の有原航平、済美高の安楽智大が人気を集める中で、ドラフト1位に単独指名で盛岡大附高の松本裕樹投手を指名。2位に春江工高の栗原陵矢捕手、3位に九州国際大付高の古澤勝吾内野手、4位に大分商業高の笠谷俊介投手を指名。5位で中央大の島袋洋奨投手を指名した。

翌2015年。1位でアマチュアナンバーワン投手の呼び声高かった岐阜商業高の高橋純平投手を指名。3球団競合となったが、工藤公康監督がクジを当てた。2位には日大三島高の小澤怜史投手、3位に豊橋中央高の谷川原健太捕手、4位は帝京三高の茶谷健太内野手、5位が初芝橋本高の黒瀬健太内野手、6位は大分商高の川瀬晃内野手と6人を指名した。

昨年、2016年はドラフト1位で創価大の田中正義投手を指名し、5球団競合の末に、またも工藤監督がクジ引きを当てた。2位に江陵高の古谷優人投手、3位に秀岳館高の九鬼隆平捕手、4位で青森山田高の三森大貴内野手を獲得。4人で支配下の指名を終えている。

2014年以降の指名は15名中13名が高校生

ここ3年間、ソフトバンクは徹底した高校生中心の指名を行なってきている。15人中13人が高校生だ。2014年の島袋は沖縄・興南高時代から動向を追ってきた選手であり、昨年の田中は他を凌駕する能力を持ち、かつ将来性もあるとして、ドラフト1位の基本方針である「その年の1番良い選手」に則っての指名だった。2位以下はそれこそ将来性重視。すぐに戦力になる必要は全くもってない。プロの世界に耐えうるだけの体を1年、2年かけて作り上げ、そこから実戦経験を積ませて、入団から4年、5年後に1軍の戦力となることを思い描いている。

これは今、戦力がそれだけ充実しているからこそ行えるドラフト指名方針である。現に、ソフトバンクの1軍の主力クラスの多くは20歳台中盤から後半。年齢的な衰えが出そうな30歳台中盤の選手は、投手では和田毅と守護神のサファテ(衰えるどころか凄みを増しているが…)、野手では内川聖一、松田宣浩くらいである。上林誠知や甲斐拓也、石川柊太といった若い力も着実に成長してきており、充実度は右肩上がりといっていい。

ソフトバンクの今の強さは、過去のドラフトによるところも大きい。現在の主力を見ると、2007年の高校生ドラフト1位が岩嵜翔(市立船橋高)、3位が中村晃(帝京高)、2009年の1位が今宮健太(明豊高)、2010年の2位が柳田悠岐(広島経済大)、2011年の1位が武田翔太(宮崎日大高)、5位が嘉弥真新也(JX-ENEOS)、2012年の1位は東浜巨(亜細亜大)、2013年の2位が森唯斗(三菱自動車倉敷オーシャンズ)、4位が上林誠知(仙台育英高)である。

上記のように、ある1年のドラフト指名選手全員が活躍することは、ほぼあり得ない。逆に1人も日の目を見ないままに終わる年は、大いにあり得る。ここ10年、即戦力とはいかなくても、入団後の数年以内に、各年の指名選手が1人、2人と1軍の主力へと育っているのだが、12球団を見渡せば、これは決して当たり前のことではない。

こうやって着々と土台を固め、例えば2010年の細川亨、内川や2013年の中田賢、鶴岡慎也のようなFA補強、そして外国人獲得によって戦力を整備。向こう3年、5年は戦える戦力層を構築し、若手育成へと舵を切った。現に外国人補強はあれど、2014年以降、ソフトバンクはFA市場には手を出していない。自前での育成で、1軍へ戦力を供給するようになっている。こうしたチーム作りは一朝一夕で出来るものではなく、長期的スパンでチーム編成を捉えてきたからこそ、このサイクルが出来上がっているのだろう。

今季もソフトバンクは圧倒的な強さを見せて、パ・リーグを制した。先に記したように、主力に20歳台の選手が多く、大きな穴は見当たらない。目下の課題は松田、内川の後継者育成。それも、来季いきなり直面する問題ではなく、3年先、5年先のことである。だとすれば、今年も自ずと、指名の路線は見えてくる。25日には王貞治球団会長が、ドラフト1位での清宮指名を明言。今年も将来性重視、高校生中心で攻めてくるはずだ。

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VictorySportsNews編集部