同じ演出の繰り返しが通用しない時代

©勝又寛晃

大橋 私は、母校(横浜高校)が野球の強豪校でもあるし、横浜ベイスターズのイベントにも個人的に時々行っているんです。川崎球場がガラガラだった時代も、池田さん時代に常に満員にしたことも、もちろん知っています。

池田 野球って、試合は平均3時間半ですけど、実際にボールが動いている時間は10分弱くらいしかないんです。そのため、お酒を飲みながら楽しめるんです。その特徴が、今の野球観戦にはより活かされました。

大橋 ボクシングはずっとリングを見張っていないといけないじゃないですか。世界戦が3連続だと観る側もたしかに疲れちゃいますよね。

池田 それはサッカーにも言えますね。実はサッカーも、プレーする子供が減っているらしくて、いま苦しんでいるんです。

大橋 野球が再逆転したもんなぁ。

池田 いや、野球も減っているんですよ。マイナー競技にどんどん流れていっているんです。

大橋 そうなんですか。ボクシングもマイナーだからいい流れなのかな?

池田 卓球の競技人口がいま30万人くらい。ボクシングはそれより少ないはずなのでマイナーといえると思います。今後は『3才から6才の子供をどうやって捕まえるか』の勝負になるでしょう。

大橋 その勝負に少子化が拍車をかける。SNSの発達で今は色々なマイナー競技が発信力を高めていますよね。あと『飽き』の早い時代になった。SNSの情報は回転が速すぎて、同じ演出の繰り返しがいっそう通用しづらいんです。変化を追っていくのが難しくなりました。

池田 野球も気を抜くとすぐにマンネリ化していきます。優勝時に起こったムーブメントが幻のようになる。ただ、ボクシングって熱量のすごいスポーツじゃないですか。いま携わっているラグビーもそうですけど、そういうスポーツほどファンが濃くて、新しいことへの反発が大きいと思います。

大橋 ボクシングファンは私たちの時代くらいがメインなので、昔ながらのファンは「入場曲もいらない」って言うくらい 、観方が洗練されています。それでも貫き通せばいいんですよ、新しい演出を。そうしないと今の若い年齢層が、次の時代に来てくれなくなる。

池田 ラスベガスのボクシング演出は照明からすごくないですか?

大橋 あっちはコア・ファンではない一般客からノリが違いますね。井上(尚弥)がカリフォルニアで試合したときもアメリカの客は楽しそうに観ていた。良い試合をすればウェービングもするし、目も肥えている。

池田 僕も1回、向こうで観てみたいんですよ。後楽園ホールには行きすぎているんで(笑)。

大橋 後楽園ホールの雰囲気は入って行きづらいですよね。私も中3の頃、初めて行ったときは、異常な世界観に面食らったな。

地上波からボクシングは消えるのか

©勝又寛晃

池田 後楽園ホールだけは、あの世界観を重んじていいと思うんです。「いざ出陣」という感じでチャンピオンと挑戦者がリングに入って、大きな一体感に包まれた中で戦い始める。野球で甲子園球場にベイスターズのハマスタのような派手な演出は必要ない。聖地の厳かなイメージを崩す必要がない。それに、後楽園ホールの入っているビルって、建ぺい率とかの事情で、建て替えができないんですよね。

大橋 そうなんです。大好きな人で埋まるのを基本にしてもいいかもしれないですね。それに、大きな会場でやる世界戦にはテレビ局のテコ入れで色々な演出が毎回試されています。

池田 大会場ではエンターテインメント性がもっと高まっていいと思いますね。ボクシングって生で観たら、多くの女性もみんな好きになりますよねー。ただそのために、例えば韓流スターを呼んだりしても、その人が出るイベントが終わったらそのファンはみんな帰ってしまいます。野球でも、韓流スターの始球式が終わったら、そのファンはみんな帰って、そこの席が空っぽになってしまいます。

大橋 熱が生まれないんですよね。ボクシングでも招待券をばら撒くようにして客席を埋めると、変な雰囲気になる。

池田 ファン以外の一般客を育てないと、やっぱり状況は変わってこない。

大橋 それに関して挙げたい例はドイツかな。あの国ではディフェンスやテクニカルな左ジャブが喜ばれています。

池田 リオデジャネイロ五輪のボクシングでは、ラウンド間のインターバル中に“キスカム”をしていました。

――会場のスクリーンに映されたカップルが、キスを誘われるゲームですね。

池田 ラテン国家のブラジルならではだと思います。神聖なイメージの強いオリンピックで、こんな演出もアリなんだってビックリしました。

大橋 観に行っている池田さんの情熱にもビックリだけどな(笑)。その土地に合った演出を入れていかないとですよね。

池田 ボクシング界の今後はどう変わってくると思いますか?

大橋 近い将来に地上波のボクシング中継がなくなる可能性はあります。大晦日のボクシング文化を仕掛けたテレビ東京さんが今年は退きました。看板選手だった内山高志君(元WBA世界スーパーフェザー級王座を11度防衛)が引退したことが分岐点です。1つ辞めると、どんどんなくなっていく。逆に、1つでも残っているとまだいいんですよ。深夜にあるレギュラー番組もフジテレビがなくなったら、全局なくなって、またそこから盛り返すのは難しい。

池田 有料コンテンツに料金を払って視聴する『ペイ・パー・ビュー制』が普及するほど日本のボクシングが育つといいですけどね。まだまだですね。日本は。

大橋 ペイ・パー・ビューはもっと早い段階でできると思ったけどダメですね。

井上尚弥を不動のカリスマに

©勝又寛晃

池田 僕はボクシングを観るためにWOWOWに加入しています。入れば、日本ではタダみたいな金額で海外の重要な試合を全部観られるけど、アメリカは1試合観るのに70ドル。約1万円かかります。

大橋 アメリカは人口も多いからマーケットも大きいんですよね。

池田 ただ、あっちは野球中継も1つにまとまっているんですよ。日本もまとまって観られるようにしたらいいじゃないって、ずっと言われているけど、親会社とかテレビ局とかの都合でできない。でも、まとまったらすごい放映権 料が急増します。Jリーグは2000億円になってます。

大橋 ボクシングもまとめるのは難しいですけど、2000億円はすごいな。常識を覆す力がありますね。

池田 1つにまとまっていない弱点として、ファンの僕ですら、たまに世界戦を見逃してしまいます。

大橋 それには世界王者が多くなったのもありますね。現役王者を全員言える人が少なくなった時代だけど、逆に多くないと民放の枠を確保できなくなる。世界戦をダブル、トリプルでできるから、大晦日に7年も連続でボクシング中継が成立してきた。

池田 一般との接点がもっと増えるといいんですけどね。昔のテレビ観戦は野球、プロレス、ボクシング!三種の神器。そこまでさかのぼらなくても、例えば90年代と比較しても、現代はエン ターテイメントや娯楽が増えた分、個々の接点が減ってしまわざるをえない。

大橋 ボクシングは衰退したんじゃなくて置いてかれちゃったのが現実なんです。これをひっくり返すのって、マニー・パッキャオ(フィリピン)みたいに無謀な挑戦を成功させていくか、国民的な知名度で抜きん出ている村田諒太(帝拳)がゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)に勝つか、日本人の世界ヘビー級王者誕生ですね。今の時代はそれでもあんまりかもしれない。

池田 そういえばラスベガスのボクシングはカジノと密接な関係ですよね。日本にもカジノができたら、状況は変わるんじゃないですか?

大橋 私が協会長だった時代に、具体案が進展したんだけど、いつの間にか風向きが変わっちゃってね。もちろんカジノと連携したら一気に変わります。

――ボクシングに情熱の絶えないお二方だけあって、さすが話は尽きませんが(笑)、ひとまずこのあたりでお開きにさせて頂きます。

大橋 楽しかった。私ね、池田さんの持論では著書にある“4本柱を5本柱にさせる方針”を参考にしていたんです。本来、柱は4本だけどあともう1本ってやつ。ジム経営で最後の5本目はセールス力になる。この課題をまだ克服できていなくて、井上を誰もが知っている国民的人気者にさせたい。

池田 魅力的な所属選手が他にも多いからできると思います。井上選手のことは国民的興味関心まで広まっていたひと時代前の、辰吉丈一郎さんの域まで意識させてほしいですよね。かっこいいし、不動のカリスマにしてください。

大橋 辰吉かぁ、またプレッシャーが大きくなったな(笑)。でも使命感を持って頑張りますよ!

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善理俊哉(せり・しゅんや)

著者プロフィール 善理俊哉(せり・しゅんや)

1981年埼玉県生まれ。中央大学在学中からライター活動始め、 ボクシングを中心に格闘技全般、五輪スポーツのほかに、海外渡航を生かした外国文化などを主に執筆。井上尚弥と父・真吾氏の自伝『真っすぐに生きる。』(扶桑社)を企画・構成。過去の連載には『GONG格闘技』(イースト・プレス社)での『村田諒太、黄金の問題児』などがある。