軽量級を中心に90人の世界王者

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日本ボクシングコミッション(JBC)管轄下では白井義男に始まり、昨年12月にIBFスーパー・フェザー級王座を獲得した尾川堅一(帝拳)まで、実に90人の世界王者が誕生している。余談だが、JBCそのものが白井の世界挑戦に合わせて組織されたものだから、こちらの歴史も66年ということになる。

世界王者の分布を階級別に見てみよう。
■ミニマム級(約47.6キロ以下)=13人
■ライト・フライ級(約48.9キロ以下)=14人
■フライ級(約50.8キロ以下)=18人
■スーパー・フライ級(約52.1キロ以下)=15人
■バンタム級(約53.5キロ以下)=9人
■スーパー・バンタム級(約55.3キロ以下)=10人
となっている。これらを軽量級の括りとすると6階級で合計79人となる。

それより重い中軽量級カテゴリーとなると
■フェザー級(約57.1キロ以下)=6人
■スーパー・フェザー級(約58.9キロ以下)=10人
■ライト級(約61.2キロ以下)=5人
■スーパー・ライト級(約63.5キロ以下)=3人
4階級で合計24人と軽量級よりも大幅に王者数は減る。

さらに重い中重量級枠となると
■ウェルター級(約66.6キロ以下)=0
■スーパー・ウェルター級(約69.8キロ以下)=4人
■ミドル級(約72.5キロ以下)=2人
3階級で合計6人と急減する。

すべてを合わせると優に90を超えてしまうが、これは井岡一翔(井岡)や長谷川穂積(真正)のように、ひとりで複数階級を制覇した選手がいるためだ。

こうした数字からも分かるように、日本は軽量級で優秀な選手を数多く輩出している国であるといっていいだろう。メキシコをはじめとする中南米、フィリピンやタイなどとともに日本は軽量級マーケットの中心的な位置にいるといいえる。現役世界王者をみてもミニマム級=2人(山中竜也、京口紘人)、ライト・フライ級=2人(田口良一、拳四朗)、フライ級=2人(比嘉大吾、木村翔)、スーパー・フライ級=1人(井上尚弥)、スーパー・バンタム級=1人(岩佐亮佑)、スーパー・フェザー級=1人(尾川堅一)、ライト級=1人(ホルヘ・リナレス)、ミドル級=1人(村田諒太)となっており、やはり軽いクラスに世界王者が集中している。

実力勝ちで戴冠というケースが増えた

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日本のボクシング界が軽量級中心であることは昔もいまも変わらないが、諸外国と比べて各階級とも全体的な実力は確実に上がっているといっていいだろう。その証拠に以前は予想を覆して新王者になるケースが目立っていたが、近年は実力勝ちして戴冠を果たす選手が数多くいるのだ。

たとえば1971年(昭和46年)にスーパー・ウェルター級(当時の呼称はジュニア・ミドル級)王座を獲得した輪島功一(三迫)などは、奇襲を成功させた例として挙げることができる。実力で上回る相手に対し、工夫に工夫を重ねて攻略して戴冠を果たしたといっていいだろう。世界初挑戦時を振り返って輪島は「相手の方が実力は上なんだから、まともに戦ったら勝てない。だからやれることはなんでもやった」と話している。あらぬ方向を向いて相手の注意を逸らす「あっち向いてホイ」、さらに座ったような姿勢からジャンプしてパンチを繰り出す「カエル跳び」などの秘策がそれだ。

世界挑戦に失敗した場合でも、たとえば「ミスター・ノックアウト」と呼ばれたバンタム級王者のルーベン・オリバレス(メキシコ)に挑んだ金沢和良(アベ)のように、KO負け寸前から破れかぶれで立ち向かった例もあった。いわゆる玉砕である。こうした伝統が引き継がれてきたため、海外の選手や関係者の間では「日本のボクサーは技術力的には驚くほどのものはないが、気持ちが強い。勝負が見えても諦めないので怖い」といわれるようになっていったようだ。

しかし、80年代以降は日本の挑戦者が総合的な実力で相手を凌駕して世界王座をつかむケースが格段に増えた。これは階級の増加だけでなく、奇しくもIBF(1983年)、WBO(88年)の設立以降というタイミング、背景とも一致している。近年では内山高志(ワタナベ)や井岡一翔、そして井上尚弥(大橋)らが挑戦試合でも実力を誇示したうえで勝つべくして勝った典型例といえる。

ボディブローの技術レベルが格段にアップ

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日本のトップ選手たちが世界の舞台でもスピードやスキルでも上回って成果を出せるようになったといえるが、総じて大きな武器になっているのがボディブローだ。かつてボディブローというと日本の選手は世界戦で被弾する立場の方がはるかに多かった。エデル・ジョフレ(ブラジル)のボディブローを浴びて悶絶した青木勝利(三鷹)、センサク・ムアンスリン(タイ)にボディブローで倒されたガッツ石松(ヨネクラ)、アレクシス・アルゲリョ(ニカラグア)の左ボディブローを被弾して苦悶の表情をうかべながら10カウントを聞かされたロイヤル小林(国際)……大舞台で日本のトップ選手たちはボディブローに散々泣かされてきた。

しかし、近年は大きく様変わりしているといっていいだろう。90年前後からだけでも、大橋秀行(ヨネクラ)、辰吉丈一郎(大阪帝拳)が巧みなボディ打ちで世界制覇を成し遂げている。日本に初の世界ミドル級王座をもたらした竹原慎二(沖)も左のボディブローで王者から値千金のダウンを奪っている。21世紀に入ってからも佐藤修(協栄)、井岡一翔、内山高志、井上尚弥らがタイミング抜群のボディ打ちで勝負をつけた試合がある。山中慎介(帝拳)も左のボディストレートが巧みだった。つい最近では今年2月、比嘉大吾(白井・具志堅)が右ストレートのボディブローで2度目の防衛を果たしたばかりだ。選手個々の努力はもちろんのこと、指導陣の意識が上がり、同時に知識が格段に増えたことで底上げが成功しているといっていいだろう。

こうしたなか、このあと3月中旬から5下旬にかけて国内では下記のように数々の世界戦が予定されている。

<3月18日@神戸ポートピアホテル>
★WBOミニマム級タイトルマッチ 王者・山中竜也(真正)対モイセス・カジェロス(ベネズエラ)
★WBAライト・フライ級王座決定戦 カルロス・カニサレス(ニカラグア)対小西伶弥(真正)

<4月15日@横浜アリーナ>
★WBAミドル級タイトルマッチ 王者・村田諒太(帝拳)対エマヌエーレ・ブランダムラ(イタリア)
★WBCフライ級タイトルマッチ 王者・比嘉大吾(白井・具志堅)対クリストファー・ロサレス(ニカラグア)
★WBCライト・フライ級タイトルマッチ 王者・拳四朗(BMB)対ガニガン・ロペス(メキシコ)

<5月25日@東京・大田区総合体育館>
★WBAバンタム級タイトルマッチ ジェイミー・マクドネル(英)対井上尚弥(大橋)

ボディブローによる決着が考えられるカードもある。春の陣が楽しみだ。

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原功

1959年4月7日、埼玉県深谷市生まれ。82年にベースボール・マガジン社に入社し、『ボクシング・マガジン』の編集に携わる。88年から99年まで同誌編集長を務め、2001年にフリーのライターに。 以来、WOWOW『エキサイトマッチ』の構成を現在まで16年間担当。著書に『名勝負の真実・日本編』『名勝負の真実・世界編』『タツキ』など。現在は専門サイト『ボクシングモバイル』の編集長を務める。