序盤の快進撃を生んだ打線の大爆発

プロ野球は、オールスター・ゲームを終え、いよいよ後半戦に突入する。
現在、パ・リーグ首位に立つ西武ライオンズは、開幕から一度も首位の座を明け渡すことなく前半戦を終えた。首位ターンは、2010年シーズン以来、8年ぶりである。「すべて選手の頑張り。野手陣、投手陣とも、好不調がありながらも、お互いに助け合って戦ったチーム力の結果」だと、辻発彦監督は現在の立ち位置を評価した。だが、その一方で、同指揮官、選手たちもみな「このまま、そう簡単にはいかない」と、誰一人として楽観視している者はない。というのも、ゲーム差を見ると、2位日本ハムとは2.5、さらに、3位ソフトバンクから5位ロッテまでが同率に並び6.5と、まさに拮抗状態。シーズンはまだ約半分も残っており、どこか1つのチームが大型連勝すれば、一気に形勢が変わるだけに、首位の余裕に浸る雰囲気など微塵もないのである。

スタートダッシュには、大成功した。
昨季メンバーから、野上亮磨(現・巨人)、牧田和久(サンディエゴ・パドレス:米)と、先発、中継ぎそれぞれの主力2投手が抜けたこともあり、「投手力が不安」が、開幕前の周囲からの評判だった。だが、その声を結果で打ち消した。3年連続開幕投手を務めた菊池雄星を先頭に、7戦目まではすべて先発投手に白星がつくという理想的な形で開幕8連勝。「先発投手が(課題)、と、オフシーズンに周りから言われて悔しかったので、本当に最高のスタートが切れた」と、エースも胸をなでおろした。
結果として、3、4月は19勝5敗。『14』という大きな貯金を作ったが、その快進撃の母体となっていたのが、打線の大爆発だった。4月を終えた時点で、打率ランキングのトップ10に秋山翔吾、山川穂高、森友哉、浅村栄斗、源田壮亮、外崎修汰の6選手が名を連ね、いずれも3割超え。チーム全体でも打率.293、159得点、24試合中15試合が二桁安打と、他チームからすれば、まさに脅威と言えた。毎試合のようにビッグイニングを作る超強力打線は、一見、最多安打日本記録保持者・秋山、長打が魅力の浅村、山川、森らによる派手さを連想させる。だが、その実は、「四球を選んだり、『なんとかして次打者にまわせば、後ろがなんとかしてくれる』の繋ぎの意識が、大量得点という結果として出ている」と、辻監督が力説する通り、根底には堅実さが徹底されていたからこその賜物なのだ。

しかし、「打線は水物」と言われる。5月に入ると、相手チームの対策もあり、驚異的に活発だった打線も、停滞期を迎えた。そこで浮き彫りになったのが、投手力の脆弱さだ。実は、首位を独走していた4月も、際立つ打線の好調さの一方で、防御率3.86(リーグ3位)、失点数100(リード3位タイ)と、不安要素は顔を出してはいた。それが、深刻な問題として本格的に表面化したのが、「左肩の機能低下」と診断された菊池の故障離脱だった。「エースが投げる試合だけは絶対負けられない」「雄星が投げる日は、先に点が取れれば勝てる」と、全幅の信頼を置ける絶対的エースを失った影響は決して小さくはなく、5月は10勝14敗と負け越した。

後半戦のカギを握る投手力

5月29日からはセ・パ交流戦が行われたが、6月1日、約1ヶ月ぶりのエースの復活がチームに光明をもたらした。菊池は3戦2勝0敗、防御率0.86で同大会トップの成績を記録。結果として、チームは18試合10勝8敗の6位だったが、「内容はあんまり良くなかったが、その中でも負け越さず、貯金を2つ作ったというのは大きい」と、プラスに捉えた。

交流戦後は、打線が活発さを取り戻し、首位でオールスター・ブレイクを迎えた。西武の1位での折り返しは、過去に14度あり、その最終順位を見ると、優勝11回、2位3回と、79%のV率を誇る。この高確率に、今回もぜひともあやかりたいところだが、そのために必要不可欠なのが、やはり投手力である。前半戦終了時点で4.64と、リーグワーストの防御率となっているが、果たしてどこまで立て直せるか。特に深刻なのが中継ぎ陣の不振で、勝利パターンの武隈祥太、ニール・ワグナー、増田達至の不調時期が5、6月に重なってしまい、リードを守りきれず、逆転された試合も何度かあった。そのため、いずれも前半戦終盤は二軍再調整を余儀なくされた。現在は、元々先発ローテーションを担っていたファビオ・カスティーヨを抑えに配置転換し、セットアッパーには5月に獲得したデュアンテ・ヒースを据えているが、防御率はそれぞれ4.62、3.60と、決して絶対的な安定感があるとは言い難い。その意味でも、武隈は間も無く一軍復帰が見込まれているが、増田、ワグナーの一刻も早い完全復調、大石達也、昨季の活躍で信頼を勝ち取った平井克典、野田昇吾らのさらなる安定感が強く望まれる。その可否こそ、優勝への必須条件だ。

だからこそ、指揮官は、彼らリリーフ陣の復調を待つ中で、「先発陣が1イニングでも長く、どこまで粘るというところが大事になってくる」と、ローテーション組のより一層の奮闘を最大ポイントに掲げる。エースはもちろん、十亀剣、多和田真三郎、榎田大樹、6月13日のデビューを果たした2年目の今井達也、さらには、二軍調整中だが状態を上げつつある高橋光成など、完投可能な先発投手は揃っている。菊池も、「(離脱する前の)序盤戦、僕が長い回を投げられなかった中で、中継ぎの人には本当に助けてもらって、おかげで勝たせてもらった。誰にでも、調子の良し悪しはある。今度は、僕が助けになる番です。とにかく1イニングでも長く投げて負担を軽くし、僕が投げる時は、少しでも休んでもらえるようにしたい」と、恩返しを固く誓う。

西武ライオンズは今年、本拠地を所沢に移転し40周年を迎えた。過去、10、20、30周年の節目の年は、いずれもリーグ制覇を果たしているだけに、今年にかかる期待は非常に高い。「今は首位ですが、パ・リーグは大混戦。Aクラスだって、まだまだわからない。ただ、我々はAクラスを目指しているわけではない。優勝を狙っている。選手も、その意識を常に強く持って戦うことが全て」だと、2年目監督。「だんだん残り試合が少なくなってくる。プレッシャーがかかっていく中で、その厳しい試合を選手がどういう気持ちで戦っていくかが、大きな経験になっていく。我がチームは、まだまだ経験が浅い。そういう経験を経て、優勝というところに辿り着ければ、素晴らしい、大きな力になる」。
辻監督が就任時から浸透させてきた、「常に、次の1点を奪いに行く。次の一点を与えない」野球を、投打合わせ、1試合1試合全員が徹底できるか。最重要ミッションとなる。

10年ぶりの栄冠を勝ち取るべく、いよいよ本格勝負の熱く、暑い、夏が始まる。

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上岡真里江

大阪生まれ。東京育ち。大東文化大学外国語学部中国語学科卒業。スポーツ紙データ収集アルバイト、雑誌編集アシスタント経験後、、横浜Fマリノス、ジュビロ磐田の公式ライターを経て、2007年より東京ヴェルディに密着。2011年からは、プロ野球・西武ライオンズでも取材。球団発刊『Lions magazine』、『週刊ベースボール』(ベースボール・マガジン社)、『文春野球』(文春オンライン)などで執筆・連載中。