開幕前には「不安要素」の方が多かったが……

プロ野球も開幕から約2カ月が経過し、5月29日からは交流戦に突入した。

序盤戦を終え、各球団の戦力やシーズン中盤~終盤に向けての課題なども見え始めてきた。

セ・リーグはディフェンディングチャンピオンの広島が前評判どおり安定した戦いを見せ、2位阪神に4ゲーム差の首位で交流戦に突入。2位以下は混戦模様を呈しており、開幕前に多くの評論家が予想したとおりの展開となっている。

一方、パ・リーグの序盤戦は波乱含みだ。

昨季日本一で絶対的な優勝候補に挙げられていたソフトバンクは開幕から故障者が続出。いまいち波に乗れないまま、リーグ3位で交流戦に突入した。

圧倒的大本命が足踏みをする中、序盤のパ・リーグを牽引した球団がある。

それが、埼玉西武ライオンズだ。

開幕からいきなりの8連勝と抜群のスタートダッシュを決めると、4月終了時点で19勝5敗と実に貯金を14も確保。5月に入ると、その勢いにやや陰りは見られたが、それでも交流戦前の段階で27勝18敗と、リーグ首位をキープ。

シーズン序盤、パ・リーグの主役は間違いなく西武だった。

昨季は後半に怒涛の追い上げを見せ、レギュラーシーズン2位。それでも、開幕前の西武にはどちらかといえば「不安要素」の方が多かった。

先発ローテーションの一角として11勝を挙げた野上亮磨がFAで巨人に、先発、中継ぎ、抑えのどこでも任せることのできる、球界でも稀有なユーティリティーピッチャー・牧田和久がポスティングでサンディエゴ・パドレスに移籍。

オフシーズンには目立った補強もなく、戦力的には間違いなくダウンしている。それが、大方の見方だった。

開幕前、各球団の戦力について野球評論家の谷繁元信氏に話を聞く機会があったが、西武についてはこう評してくれた。

「打線は間違いなくリーグトップクラス。ハマれば強いが、投手陣の層を考えると、よほど打線が頑張らないと厳しいのではないか」

現時点で、その予想は的中している。

序盤の快進撃は、まさに打線が「ハマった」ことに起因するからだ。

交流戦前の時点で、西武のチーム打率は.279。これは、ソフトバンクの.261を2分近く上回り、パ・リーグのトップだ。
個人成績を見ても、パ・リーグの打率上位10傑の中に、西武の選手が4人(秋山翔吾、浅村栄斗、源田壮亮、森友哉)おり、さらに言えば11位に外崎修汰、13位には山川穂高がランクインしている。

中でも特筆したい存在が、森友哉と源田壮亮だ。

森友哉、源田壮亮が、好調の打線を牽引

森は今季、プロ入りから毎年叫ばれ続けてきた「捕手起用」に本格挑戦。開幕2戦目に先発マスクをかぶると、以降5月27日までにチーム最多の20試合で捕手として先発。指名打者との併用ながら、打順は主に5番を任されるなど、打線の軸として機能している。

昨季新人王の源田は、開幕から「2番遊撃」の定位置をがっちりとキープ。全試合出場を継続中だ。

2人の打撃成績は、以下の通り(※5月27日時点)。

森友哉 43試合 .284 4本塁打 25打点
源田壮亮 45試合 .293 0本塁打 28打点

打撃好調のふたりだが、ここで注目したいのが両選手のポジションだ。

前述のとおり、森は指名打者との併用ながら主に捕手、源田は遊撃手として試合に出場し続けている。

捕手と遊撃手は、野球の世界において比較的「守備」に比重が置かれるポジションだ。言い換えれば、多少打撃に難があっても、守備力が高ければ目を瞑ってもらえるポジションでもある。

実際に球界全体を見渡しても、「打てる捕手」「打てる遊撃手」の存在は貴重だ。

今の西武には、そんな貴重な存在がふたり、揃っている。

現役時代にヤクルトで活躍し、現在は富山GRNサンダーバーズ監督を務める伊藤智仁氏は以前、こんな話をしてくれた。

「やはり打てる捕手、打てる遊撃手がいるチームは強いですよ。例えば、ヤクルトが強かった時代には捕手に古田(敦也)さん、遊撃に池山(隆寛)さん、宮本(慎也)がいた。巨人もリーグ3連覇を達成したときには阿部慎之助、坂本勇人がチームの主軸を任されていた。味方であれば『いつでも、どこからでも点を取れる』という安心感が生まれるし、敵であれば『何点取ってもひっくり返されるかもしれない』という脅威になる。逆に、このポジションに打撃の良くない選手がいると、投手としてはアウトひとつ、もしくはふたつが計算できるので非常に楽になる」

「どこからでも点が取れる」というのは、実際に数字が証明している。

パ・リーグの打点ランキング(5月27日時点)を見ると、全試合1番で出場する秋山が5位(30打点)、源田が11位(28打点)にランクインしている。通常、1~2番の役目といえば塁に出て、ホームにかえってくる「チャンスメイク」が主となる。しかし、今季の西武は打線に目立った「穴」がないため、1~2番が走者をかえすシーンが他球団に比べて圧倒的に多い。これも、捕手と遊撃に打撃の良い選手を配置できているメリットになっている。

また、森が捕手ではなく指名打者として出場する際にマスクをかぶる炭谷銀仁朗も今季、出場数こそ少ない(スタメンマスクは森に次ぐ17試合)が打率.305と好調を維持。さらには「第3捕手」の岡田雅利も.310と、今季の西武「捕手」陣は総じて打撃が好調だ。これもまた、「穴のない打線」の形成に大きく貢献している。

リーグ最多のチーム盗塁数と、最少の犠打数

西武打線の強力さを象徴する数字は他にもある。それが、チーム盗塁数と犠打数だ。

西武のチーム盗塁数はリーグ最多の56、ひるがえって犠打数は同最少の20にとどまっている。

西武の指揮官である辻発彦監督は、決して「バントをしない」タイプの監督というわけではない。ただ、西武には源田壮亮(15盗塁、リーグ2位タイ)、金子侑司(15盗塁、同2位タイ)、外崎修汰(12盗塁、同5位タイ)といった走れる選手が多いため、「出塁=犠打で走者を送る」ことが決してファーストチョイスではない。状況に応じて、得点に最も直結する選択肢を選んだ結果が、リーグ最多の盗塁数と最少の犠打数という結果を生んでいるのだろう。

シーズン中盤から終盤にかけての課題は?

少なくとも打線の破壊力という意味では他球団を圧倒している今季の西武。しかし、シーズン中盤~終盤にかけて、盤石かといえば決してそうではない。

冒頭でも紹介した谷繁氏のコメントを見返してみよう。

「打線は間違いなくリーグトップクラス。ハマれば強いが、投手陣の層を考えると、よほど打線が頑張らないと厳しいのではないか」

そう、今季の西武は「ハマれば強い」。一方で、谷繁氏が危惧した「投手陣の層」にはやはり不安が残る。チーム防御率3.90はリーグ3位だが、これは先発投手陣の踏ん張りによるところが大きい。勝ち星が多ければ増えるはずのセーブは7(リーグ5位)、ホールドポイントは26(リーグ6位)と、やはり課題はリリーフ陣にあるといえる。

交流戦直前、西武は2位日本ハムとの直接対決3連戦で3連敗を喫し、1ゲーム差まで迫られている。

特に第2、3戦はともに延長戦にもつれる接戦を落としたものだったが、この2試合で守護神の増田達至は2試合連続で2イニングを投げ、ともに敗戦投手となっている。

優勝がかかるシーズン終盤ならまだしも、開幕2カ月時点で守護神に対してこういった起用をしなければならないあたり、苦しい台所事情が透けて見える。

背後に迫った日本ハムはもちろん、4.5ゲーム差の3位には自力で勝るソフトバンクも控えている。

強力打線を武器に、首位戦線にとどまることができるのか。課題となっている投手陣に、救世主は現れるのか――。

シーズンはまだ序盤を終えたばかり。「優勝争い」を論じるのは時期尚早だが、「ハマれば強い」西武が今後、どんな戦いを見せてくれるのか、注目していきたい。

(※注:本文中の成績はすべて5月27日時点のもの)

<了>

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花田雪

1983年生まれ。神奈川県出身。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行うなど、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆を手がける。