「Jリーグにしてみれば、これ以上ない契約でしょう。でも1年210億円をペイするためには、100万人以上の契約が必要。Jリーグは地上波や衛星放送でも“数字”がとれるコンテンツではありません。J1だけならともかくJ2やJ3の試合も放送するわけですから、とてもビジネスとして成立するとは思えませんでした」(スポーツ紙記者)

ダゾーンの快進撃は止まらない。今シーズンからは読売ジャイアンツを除く、11球団のプロ野球の試合の放送も決定。Jリーグやプロ野球の人気選手を起用したCMを大々的に放送したことも話題になった。

「プロ野球の放映権料は、各球団との交渉になります。90年代をピークにプロ野球の放映権料も安くなったと言われていますが、それでも巨人戦だと1試合数千万円。ダゾーン側は『Jリーグよりは安かった』と言っていますが、プロ野球にもそれなりの金額の投資を行っていると思います」(同前)

ダゾーンで見ることができるスポーツのライブは、Jリーグ、プロ野球、メジャーリーグ、アメリカンフットボール、ゴルフ、総合格闘技、さらには日本のBリーグやVリーグまで年間10,000試合以上。ドコモユーザーや旧スポナビライブ契約者を優待する積極策で、すでに125万人以上の契約者を獲得しているという。しかし、その契約者数ではJリーグとプロ野球の放送権料もまかなえない。それでもダゾーンが投資を続けるのはなぜなのか? 

ある民放の関係者は、2020年に日本でサービスが開始される予定の「第5世代移動通信システム(5G)」により、放送の“常識”が変わることを見越しているのではないかと解説する。

「5Gが導入されると、スマホでも高画質の映像をタイムラグなしに観ることができます。つまり現在のテレビ放送とほぼ変わらない状態になるわけです。各放送局も様々なネット展開を考えており、例えば同時再送信やオンデマンドなど、これから先、放送と配信の垣根がなくなり、ダゾーンのようなサービスは一気に活気づく可能性があります」

確かに現状、回線容量、インフラの問題で、テレビと配信のクオリティの差は否めない。それが解消されるとしたら、配信業者が有利になることは間違いない。だが、日本の一般的な視聴者の感覚は、『スポーツはタダで観るもの』。
若者を中心に契約者は増えるだろうが、赤字を解消するところまで増えるのだろうか。その疑問に、ある代理店関係者が「あくまでも推測」と前置きしたうえで解説してくれた。

「いまラスベガスのカジノでは、バカラやルーレットよりライブ中継されているスポーツに賭けるスポーツベッティングが主流になりつつあります。単純な勝敗や点差だけでなく、目の前で起こるすべてのプレーがベットの対象になる。たとえば『大谷の次の打席の結果は?』とか『この試合で次にゴールを決めるのは誰か?』とか。このスポーツベッティングは、オンラインに発展し、世界的なビッグビジネスになるのは間違いない。恐らくダゾーンを運営するイギリスのパフォーム・グループが考えている最終的な“集金システム”は、これです。次々とスポーツのライブ中継をおさえているのは、ベッティングの対象を確保しているのではないかと思います」

ご存知のように日本でも今年カジノの建設を認めるIR推進法が成立。日本でも合法的にスポーツベッティングが行える日がくる可能性もある。そうなれば、1ヶ月1750円の契約料がバカバカしく思えるほどの大金が動くことになるだろう。

「海外から見れば、日本のスポーツ界は、時間に正確だし、クリーンで八百長などのリスクが少ない。ベッティングの対象としては、かなりいいコンテンツなんです。今年、電通はパフォーム・グループに対しておよそ450億円出資しています。スポーツの配信の契約料だけをアテにして、そこまでの投資はしないでしょう。電通もスポーツベッティングならじゅうぶんな利益が見込めると判断したのではないでしょうか」

キーワードは「5G」と「IR」。ダゾーンの莫大な投資は、果たして成功だったのか?その答えが見えるのは、もう少し先のことになりそうだ。


星野三千男