売上高はNPB球団クラス!? J史上最高額を更新した浦和
大手監査法人グループのデロイトトーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社は9月28日、Jリーグの全クラブが公表した財務情報などを基にクラブ経営を順位付けする「Jリーグマネジメント杯」の2017年度の結果を発表。浦和レッズが2年連続3度目の首位に輝いた。
「Jリーグマネジメント杯」で問われるのは以下の4項目だ。
①マーケティング(平均入場者数、スタジアム集客率、新規観戦者割合、客単価)
②経営効率(勝ち点1あたりのチーム人件費、勝ち点1あたりの入場料収入)
③経営戦略(売上高・チーム人件費率、SNSフォロワー数増減率、グッズ関連利益額)
④財務状況(売上高、売上高成長率、自己資本比率)
今年7月にJリーグが公表した財務情報を中心に、これらを数値化して判定するもので、浦和は①のマーケティングで8位、②の経営効率で6位だったものの、③の経営戦略と④の財務状況でトップとなり“タイトル”を獲得。ちなみに2位以下は川崎フロンターレ、鹿島アントラーズ、ジュビロ磐田、横浜Fマリノスと続き、J2の1位は名古屋グランパス、J3の1位は鹿児島ユナイテッドFCだった。
Jリーグが開示した2017年度の各クラブの経営情報によると、浦和レッズは営業収益で79億7100万円を計上。これは2007年度に同クラブが記録したJリーグ史上最高額を更新するもので、営業利益(5億5600万円)、当期純利益(3億3000万円)でもクラブの最高額を更新した。
ところで、このJリーグでは圧倒的な規模といえる約80億円の営業収益だが、具体的にはどの程度のものなのか、数字だけでは分かりにくいかも知れない。そこで、プロ野球と比較してみる。
7年連続の黒字経営を支える”2本柱”
プロ野球は経営情報を基本的に開示していないため、「会社四季報業界地図2017年版」(東洋経済新報社)による2015年度の推定値になるが、売り上げの規模としては最も少ないヤクルト・スワローズ(77億円)や次点のオリックス・バファローズ(82億円)と同程度となる。プロ野球で1、2位とされるソフトバンク、巨人はそれぞれ274億円、253億円と桁違いの売り上げ高を誇るが、年間143試合(主催は71~72試合)を戦い、最も少ないオリックスでも約163万人(2018年度、最多は巨人の約300万人)もの入場者数があるプロ野球球団の一部に匹敵する数字は、浦和レッズの好調な業績を表しているといえるだろう。
7年連続で黒字も達成している健全なクラブ経営を支えるのは、前述の「Jリーグマネジメント杯」の結果にも表れるように、リーグ随一の入場者数であり、そこから派生する大きな“2本柱”である「入場料収入」と「物販収入」だ。
2017年度の「広告料収入」は31億9300万円で神戸(33億5200万円)に次いで2位だが、「入場料収入」23億3700万円は2位のガンバ大阪(12億6600万円)に“ダブルスコア”近い差をつけてトップ。8億1300万円を計上する「物販収入」も、2位の鹿島アントラーズ(6億9900万円)を大きく上回っている。
一方で、観客動員数は浦和レッズが57万215人(1試合平均3万3542人)でトップながら、ガンバ大阪の41万2710人(同2万4277人)とは2倍の差はない。ホームスタジアムの規模やチケット単価の違いを考慮する必要はあるが、入場料単価(入場者1人あたりの入場料)として計算すると約4098円の浦和レッズに対して、ガンバ大阪は約3068円と差がある。つまり、割引販売や招待が少なく、定価にほぼ近い入場料が得られていることも、浦和レッズが高水準の「入場料収入」を維持している要因として考えられるわけだ。
浦和レッズの経営課題とは
「Jリーグ財務診断」の第1回で取り上げたヴィッセル神戸は、親会社の楽天の“支援”とみられる「広告料収入」が経営の大きな柱となっていた。ヴィッセル神戸の営業収益に対する「広告料収入」の割合は64%で、浦和レッズは40%。一方、「入場料収入」の営業収益に占める割合はヴィッセル神戸が10%で浦和レッズが29%となっている。浦和レッズがファン、サポーターに支えられたチームであることが、この数字からも見てとれる。
ただ、デロイトトーマツの「Jリーグマネジメント杯」では、新規観戦者割合に課題があるとも判定されている。浦和レッズが昨年末に公表した経営情報によると、2017年度のリーグ戦17試合の入場者数は3万3542人と前年比で3393人減少しており、入場料収入も前年度比で3800万円減っている。そこには荒天に見舞われる試合があったことや、優勝争いから脱落したことなどの理由もあるが、入場者数が2年連続で減少しているのは事実。クラブ側も「ホスピタリティの向上」や「マーケティング活動の本格化」を公式サイトで掲げるなど課題を認識している。逆に、さらなる経営強化の道筋が、そこにあるともいえる。
バルセロナ(スペイン)は、2017-18年の営業収益が世界のプロスポーツチームとして初めて10億ドル(約1130億円)を超えたことを先日、発表した。デロイトトーマツが毎年公表する世界のクラブの収入ランキング「フットボール・マネー・リーグ」の2018年版によると、30位のベンフィカ(ポルトガル)でも1億5760万ユーロ(約203億円)の営業収益があるという。それを考えると、まだまだ浦和レッズをはじめとしたJリーグのクラブとは大きな差があるのは事実だ。
ただ、スポーツ専門ストリーミング(動画配信)サービス「DAZN(ダ・ゾーン)」を運営する英パフォーム社とJリーグ結んだ10年総額2100億円の放映権契約により、各クラブへの「均等配分金」「理念強化配分金」が大幅に増額されている現状を踏まえると、浦和レッズが日本のクラブでは初となる営業収益100億円を達成するクラブになる可能性は十分にあり、浦和レッズの淵田敬三社長も「100億円が目標」と公言している。 “日本発のビッグクラブ”として、その存在感は大きくなっていきそうだ。
チーム人件費でも、大型補強を展開するヴィッセル神戸(31億400万円)に次ぐJ1で2位の26億4400万円を計上する浦和レッズ。優秀な選手や監督を獲得し、人気チームとして好成績を収め、営業収益を拡大する。そんな好循環にあるクラブ経営は、Jリーグにおける一つの理想型といえるかもしれない。