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様々な視点を取り入れて、構想を“民意”に近づける

―この構想をまとめるうえで、どのようなヒアリングを行ってきたのでしょうか?
「渋谷区の区議会議員や、都議会議員の一部にもヒアリングを行った結果、やはり防災拠点としての役割への期待が大きかったですね。災害時のトイレやシャワー、備蓄品などはもちろん備えなければいけないものですが、例えば仮設トイレが10個も代々木公園にいきなり置かれたら景観としても問題がありますよね。スタジアム内に十分な数を設置しておけば、非常時の際にはそこを開放すればいいですし、備蓄品も雨風に当たらず保存しておけます。安心・安全の拠点があるというのも、シビックプライドの醸成に寄与すると思います。」

―金山さんは、渋谷で子育てをする父親でもありますが、そうした視点は役立ちましたか。
「子育て視点と言う点では、僕だけでなく周りの“パパ友”にも話を聞きました。そこでは、代々木公園自体が子供の行きたい場所になれていないのでは、という意見が多かったのが印象的でした。遊具もないですし、大人のための公園になってしまっている。実際僕の子供に、どこの公園に行きたいか聞いて、代々木公園という答えが返ってきたことはないんです。すべての世代に開かれた場所であるために、スタジアムの周辺には遊具付きのあそび場を設けて、子供の居場所を作ってあげたいと思っています。」

―スタジアムだけでなく、その周辺施設も重要になるということですね。
「オープンなバスケコートや、宮下公園のようなスケートボードのできる設備の設置も考えています。そこに行けば誰もが気軽にスポーツにふれ、交流が生まれる場所であってほしいです。」

―未だPhase1ということですが、ここからさらに先に進めるためにどのようなことが必要でしょうか。
「お話しした周囲の意見というのは、まだ僕が直接話を聞ける範囲でごく定性的です。来年の春頃までには、都民を中心により多くの声を集めて意見を数値化したいです。このプロジェクトは渋谷区がやりたいことをやるものではなく、市民の総意で進めるべきと考えているので、反対意見が多いようであれば見直しも検討する可能性があります。」

―ハード面の壁もありますか。
「もちろん都市公園法や、条例に沿ったものにしていく必要はあります。ただ、そこに縛られすぎると、多目的使用が制限されてしまう。すると回転率が下がり、不採算の施設になってしまいます。都内にも、大声禁止や球技禁止の“何もできない公園”が多くありますよね。行政主体で進めていくと、そうしたケースに陥りやすいんです。」

民間ならではの視点で、ありきたりではないスタジアムを

―どのようにすればそうした事態は避けられるのでしょうか。
「その点が僕らに期待されている部分だと思います。民間の視点を取り入れて、守るべきところと壁を超えるべきところを見極める必要があります。元々区長の長谷部さんは、行政と企業をアイデアで結び付けて、街づくりを行ってきた実績のある方です。宮下公園のリニューアルでも、ナイキ社と組むことでスポーツビジネスの企業ならではの視点を取り入れました。また、街の公衆トイレの美化活動では、トイレのネーミングライツを企業に提案するという斬新なアイデアを採用しました。自分の会社の名前が書かれたトイレは、どこもきれいに保ちたいので、区の清掃員だけでなく、企業が自主的に清掃に入るようになったようです。新しいスタジアムの構想について僕たちも同様に、柔軟な発想を提案していきたい。そのために、今はまず理想を広げるところから議論を始めています。」

―具体的な完成はいつ頃を目指しているのでしょうか。
「まだ完成時期を見通せる段階ではない、というのが正直な答えです。そもそも、代々木公園自体は都の公園ですから、都市公園のありかたを都に提案し、認められる必要があります。来年は統一地方選がありますから、まず渋谷区民に対して民意を問うことになります。そこで区民からの賛同を得ることができれば、翌年の都知事選が都民の意見を尋ねる場となります。2020にはもちろん東京五輪もありますから、新国立競技場の活用方法も議題に上るでしょう。SCRAMBLE STADIUM SHIBUYA構想が具体化されるまでには、何重ものマイルストーンを経なければならないんです。」

―あくまで民意をベースに進めるということですね。
「スタジアム利用者の公開討論を行うのも、そうした意図があります。“行政が勝手にやってること”という意識では、この構想のコンセプトは実現しません。みんながやりたいことを行政が形にする、というフローに沿って進めることが重要です。しかも、その民意には今はまだ選挙権を持たない子供たちも含まれるべきだと考えています。このスタジアムが形になるころにようやく選挙権を持つようになる年代の声を取り入れて、今後の構想を練り上げていくつもりです。」

行政と民間企業が手を取り合い、市民の声が反映されたスタジアムの実現。そのために今は広く意見を集め、理想を広げる段階だと金山さんは話す。過去2回行われたSCRAMBLE STADIUMのイベントはその言葉通り、いずれも開かれた討論の場となり、プロジェクトの風通しのよさを感じさせた。しかし一方で、様々なステークホルダーの理想を両立させる難しさをも公に示していた。“あったらいいな”の会話は楽しい。今後はその風呂敷をどう畳むかに注目が集まる。理想を広げた分だけ、構想が具体化されるごとに反映が見送られる意見もあるだろう。全意見の最大公約数的を目指すのも一つだが、スタジアムはその完成がゴールではない。出来上がったものを愛されるスタジアムに育てていくのも同様に、構想に関わる者たちの役割だ。

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