クラブとスタジアムの経営一体化の波

「今後Jリーグのクラブのスタジアムをどうしていくかは、ベルマーレだけではなく、Jリーグ全体の課題でしょうね」

横浜DeNAベイスターズ初代球団社長で絶対不可能といわれていた横浜スタジアムとの一体経営を実現した池田純氏は、誕生から25年を迎えたいま、「Jリーグには“経営的な構造改革”がより一層求められている」と言います。

「ベルマーレの本拠地がどこになるのかも大切ですが、それ以上に考えなければいけないのが、“クラブとスタジアムの一体経営化”の波です。スタジアムという場所を最大活用して、フランチャイズ、ホームタウンとの接点を強め、クラブが主体的に収入を得ていく方法を探る。Jリーグは経営のネクストステージの波を見据えるべき段階にきていると思います。野球界では数年前から球団と球場の一体経営を進めたことで、野球人気が高まり、一気に独立健全経営の機運が進みました。Jリーグも、世界レベルの選手の獲得や、より一層の人気獲得、その大前提となるクラブ経営の健全経営化などを考えると、一気に経営の構造改革が進んでいくことが期待されているでしょう」

池田氏は自身のプロ野球球団の経営経験を引き合いに、クラブとスタジアムの経営一体化の重要性をこう指摘します。

「公表されているJクラブの収支構造を見てみると、スポンサーからの広告料収入の割合がかなり高くなっていると私は考えます。入場料収入とグッズ収入の合計でスポンサー収入に並ぶことができたのは、Jリーグで最も収入規模の大きい浦和レッズぐらい。2017年度の営業収入は、10年ぶりのACL優勝効果もあってJリーグ史上最高額の79億7100万円でした(※)」
(※浦和レッズ 2017年度の収入の内訳:
 ・スポンサー収入:31億9300万円
 ・入場料収入:23億3700万円
 ・グッズ収入:8億1300万円
 ・その他収入:16億2800万円)

試合数が少ないがゆえの入場料収入の限界

横浜スタジアムを球界有数の「満員御礼スタジアム」に導いた池田氏は、プロ野球とJリーグを比較するためには、2つの競技の特性を考える必要があると言います。

「まずサッカーと野球では年間試合数が違い過ぎます。野球は約72試合のホームゲームがあります。それに対してJリーグはJ1で17試合。試合の絶対数の関係で入場料収入は野球の方が圧倒的に多くなります。スポンサー収入といっても球団によってもカウントの仕方などが違う場合もあり一概にはいえませんが、それでもすごいと思うのは、ざっと金額を見ただけでも、ホームゲームが17試合しかないJ1のクラブでもプロ野球球団と同等レベルのスポンサー収入があることです。浦和レッズが31億9300万円、ヴィッセル神戸が33億5200万円、その他にも20億円近い広告料収入があるクラブが半数ほどあります」

17試合と72試合のホームゲーム、その倍のレギュラーシーズンの試合数を考えても、Jクラブとプロ野球チームのスポンサー収入がほぼ同じというのは、たしかに驚くべきことです。

「スポンサー収入、広告料収入の増加は営業努力の結果、チームの魅力、価値が高まった結果ともいえますが、その内訳が重要で、プロ野球の世界でみられる親会社補填のように、責任企業(事実上の親会社)、あるいは一社の大きなスポンサー企業が、ある種赤字補填するような形でスポンサーフィーを支払っているケースも少なくないのではないでしょうか。胸や袖などのユニフォームスポンサーなどには定価があるわけではないので、プロ野球チームが1億円で売っているところもあれば、Jクラブが3億円だったりするなど、価格設定には球団やクラブによってかなりばらつきがあるのが実態です」

イニエスタ、ポドルスキなど超大物を獲得したヴィッセル神戸をはじめ、チーム人件費が上昇しているJリーグだからこそ、あらためて自立経営の道を探る必要があると池田氏はいいます。

スタジアム自前化、自立経営への道

「ホームゲームを開催できる17日間以外でどうやって収入を生み出すかを、真剣に考えるべき段階だと思います。スタジアムとクラブが一体となって、クラブがスタジアムを365日運営することで収入を生み出すことを考えなければいけません。そうしたスタジアムをどうやって造り出すのかが重要になります。プロ野球界でもこの数年で一気に、言い換えれば、ようやく、“球団とスタジアムの一体化”という考え方が浸透してきています」

池田氏が「その先例になるのでは?」と挙げたのが、ガンバ大阪の本拠地・パナソニックスタジアム吹田です。

「吹田スタジアムの建設費用は、パナソニックが負担している部分もあるとはいえ、その大部分が民間による寄付で賄われており、完成後に吹田市に寄贈、ガンバが指定管理者として運営・管理を行うという、大元のモデルの横浜スタジアムも似たような構造ですが、『公民連携の理想のモデル』といえるでしょう。こうした手法も参考にしながら、今後は自治体とうまく交渉して、土地提供や、税金の減免等の優遇を受けつつ、自チームのスタジアムを“フランチャイズ、ホームタウンとの365日の接点の装置”、そして“収入を生み出す”スタジアムにしていくという流れにしていく必要があるでしょうね」

実際、新スタジアム構想が持ち上がっている湘南ベルマーレの眞壁潔 代表取締役会長も「土地代なしなら1万8000席の新築スタジアムが80億から100億円でできる」という見通しを述べていて、スタジアム完成後は“ハコモノ”として活用したいと、将来も視野に入れた構想であることを訴えています。

「プロスポーツの興行は本質的には『お客さまが入って儲かる』となるべきです。そのためには税金におんぶにだっこではなくて、自前のスタジアムを造り、クラブの価値を高め、自分たちで利益を生み出していける仕組みづくりが求められています」

湘南ベルマーレのみならず、Jクラブのスタジアムは今後どのような方向に発展していくのか? 観客動員、売り上げだけでなく、その中身や質が問われる時代がやってきたようです。

<了>

取材協力:文化放送

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VictorySportsNews編集部