「パワハラ」自体は問題の本質ではない

発端は、『週刊朝日』での報道だった。「駒沢大陸上部の名将が“パワハラ”告発 渦中の学長と中畑清氏が激白」と題された記事では、陸上部の大八木弘明監督が駒沢大学内部監査室にあてて、長谷部八朗学長や同大OBの中畑清氏らから食事の席で「退職勧告・辞職強要」されたことをパワハラで告発したとされる。DeNAベイスターズ時代は、社長と監督として中畑氏とともに戦った池田氏。彼はまず中畑氏の立場を心配する。

「中畑さんは心からスポーツを愛する純粋な方。母校である駒沢大学に対する愛校心も強いし、大八木監督とも親交があったのだと思います。ビッグネームであるがゆえに中畑さんの名前が目立ち、大学のためによかれと思って、大八木さんに辞職を促したことがパワハラに関与しているかのように言われてしまっているのでしょう。記事を読む限り、大学側としては大八木監督の名誉を守るため、ことを大きくしないために辞職を勧告したようです。それをパワハラと言ってしまうのはどうなんでしょうか……。いまは大学スポーツ=パワハラというイメージがあり、なんでもかんでもパワハラといえばクローズアップされますが、この問題の本質はそこではないとみるべきではないでしょうか」

パワハラというのは、職務上の優位的な立場を利用して、個人の名誉を毀損したり、侮辱したりすること。しかしこの件はパワハラを告発した側に、社会通念的にも許容されない“実態”があるとも報じられている。そもそも2004年に監督に就任以来、名門を率いてきた名将・大八木監督は、なぜ辞職勧告を受けたのか。記事によると、陸上部のスポンサー企業から監督の個人口座に年間1千万円の報酬が振り込まれており、このことが問題となったようだ。駒沢大学陸上部といえば、大学駅伝の花形チームのひとつ。視聴率抜群の箱根駅伝を筆頭に、その露出量や広告効果は絶大だ。どの大学が、どの選手がどこのランニングシューズを履いているかによって、売り上げが大きく変わる。
陸上界に限らず、大学や部に払う金以外にコンサルティング料などの名目で監督個人にスポンサーが金を支払う構図はこれまでも取り沙汰されてきた。大学スポーツにはグレーな部分が多いというのは、以前から言われていることだ。文部科学省は大学改革を叫んでいるが、大学の改革と大学スポーツの改革は別物だ。しっかりと切り離して大学スポーツを改革していかなければならない。

(C)共同通信

問題を野放しにしないために

「現状ではこういうことが起こっても、誰も触りたくない、触ろうにも触れないのが現状でしょう。週刊誌報道以上のことはわかりませんが、実態を把握する立場にガバナンスが効く体制を内部外部に持つことが必要だと思います。こういう問題を野放しにしてしまうようでは、大学スポーツが健全に発展していきません。大学スポーツのブランドが毀損されることが、大学及びスポーツ自体のブランド毀損に繋がりかねません。スポーツ庁は、来年から日本版NCAAとして『UNIVAS』を設立することを発表していますが、大学スポーツとスポンサー企業の関係についてもきちんとしたルールを早急に策定しなくてはいけない時代、社会環境になったのだと思います。大学の自治に首をつっこむべきという話ではありません。民意がついてくるような、社会通念の進化した現代において社会が信頼するような大学スポーツにおけるガイドライン、ガバナンスが必要でしょう」

アマチュアスポーツをスポンサー企業が応援することには、まったく問題がない。むしろ歓迎すべきことだ。だが、それによって監督など特定の個人が金銭的な利益を受けるようなことがあると、アマチュアスポーツそのものの意義が問われる。「UNIVAS」に課せらている使命は、かなり大きいといえるだろう。


[初代横浜DeNAベイスターズ社長・池田純のスポーツ経営学]
<了>

取材協力:文化放送

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VictorySportsNews編集部