「メジャー挑戦」発言のインパクト

契約更改交渉後の記者会見だった。筒香は長く秘めてきた熱い思いを、初めて公の場で明かした。

「小さい頃からの夢だったメジャーリーグでプレーしたいという思いを球団に伝えさせてもらいました」

44本塁打で初のタイトルを獲得した2016年にはアスレチックスのスカウトが視察に訪れるなど、近年は横浜スタジアムメジャー関係者の姿を見ることも増えてきた。米球界の注目も増しつつある中での注目発言。その影響力の大きさを知るからこそ封印してきた言葉を「ずっとメジャーの選手のプレーを見て憧れていました」と、ついに口にした。

この日の球団との会談で移籍時期について言及することはなかったもようだが、関係者によると、早ければ来オフにポスティングを利用して挑戦することを本人は視野に入れているという。筒香が海外フリーエージェント(FA)権を取得するのは2021年。つまりポスティングが球団に容認されれば、2年の前倒しでメジャーに挑戦することになる。

もちろん、この記者会見で「来年は横浜でプレーすることは決まっている。チームの優勝のために全力を尽くします」とも宣言し、球団にとって21年ぶりとなる来季のリーグ優勝、日本一が先決であることも筒香は強調した。ただ「メジャー挑戦」発言のインパクトの前に、その言葉が埋もれてしまう形となったのは仕方のないことであり、容易に予想できることといえるだろう。

マネジメントに問題

筒香は12月2日に大阪・堺市で開催された野球教室で、改めて「メジャーに行くためにいい成績を残すのではなく、ベイスターズで勝つためにいい成績を残したい」と強調した。「メジャー挑戦」報道の2日後に本人が騒ぎの拡大を懸念するかのように改めて「優勝」への思いを強調したことで「メジャー封印、優勝に専念」という記事が新聞紙面を飾り、さらにチームの指揮を執るラミレス監督が「別に驚くべきことではない」と理解を示す流れとなった。

プロ野球選手にとって、世界最高峰の舞台であるメジャー挑戦は一つの夢。挑戦への思いを抱くことは一握りのスター選手だけが許される権利であり、世論を考えても、球団がその夢をはばむことはできないだろう。

ただ、メジャー発言だけが先走ってしまう形は、球団として絶対に避けなければいけないものでもある。球団経営に携わってきた関係者も、今回の一連の流れを「フロントがしっかりと情報の出し方を考えていたのか、選手と話ができていたのか。マネジメントに問題があるように思う。ファンは『筒香はメジャーに行ってしまうんだ』と、残された1シーズンを複雑な気持ちで応援しなくてはならないし、チームのメンバーの士気にも関わってくるのではないでしょうか」と危惧する。


ここで、最近の例はどうだったかを振り返ってみる。

【菊池雄星の場合】
このオフに西武からポスティングシステムを利用してメジャー挑戦を表明した菊池雄星投手(27)は、岩手・花巻東高時代からメジャー志向を隠さなかった。ただ、高校卒業直後の米国行きを断念し、西武に入団。その後は表立ってメジャー志向を口にすることはなくなった。
球団に近い関係者によると、このオフのメジャー挑戦については、昨オフに球団と話し合い、チームのリーグ優勝と2桁勝利を条件に容認するとの“約束”を取り付けていたという。それも表に出ることなく、条件をクリアした今回、晴れてメジャー挑戦を“突然”表明することとなった。

【大谷翔平の場合】
昨オフに日本ハムからエンゼルスへ移籍した大谷翔平投手(24)は、リーグ優勝を飾った2016年オフに球団側がポスティングでのメジャー挑戦を容認すると発表。その翌年に大谷本人が球団に申し入れ、実現する運びとなった。

この2例に共通するのは、「優勝」という節目が、報道などで一般に知れ渡るタイミングとなった点だ。まず「優勝」というキーワードが先にあり、「夢をかなえてあげたい」という“納得感”のあるファンの思いや世論が形成されている。

選手だけにメディアへの露出の仕方を委ねることは、球団にも選手にも大きなリスク

日本一に輝いた1998年以降、リーグ優勝からも遠ざかっているベイスターズのファン、横浜市民にとって、セ・リーグ4位に終わった今季の悔しさがある分、21年ぶりとなる来季の優勝はより悲願として意識されるものとなっている。そこに、日本を代表する4番打者がいて、来日1年目で(29)今季の本塁打王を獲得したネフタリ・ソト外野手や最優秀救援投手(セーブ王)に輝いた守護神・山崎康晃投手(26)もいる。

戦力的にも期待感が高まる中で、まず順当なのは「優勝したあかつきにはメジャーに行きます」と選手本人が“条件付き”でメジャー挑戦を表明する流れだ。もしくは、球団から「優勝した場合は、筒香選手のポスティングを容認します」と発表するのも一つの手法かもしれない。いずれにしても、騒ぎの拡大を防ぐため「メジャー封印」発言をするなど、選手自身だけにメディアへの露出の仕方を委ねることは、球団にも選手にも大きなリスクとなってしまう。

横浜DeNAの球団幹部は、今回の筒香の発言が表に出た後に「大切な選手である一方で本人の気持ちも大切にしたい。球団として何が最適かを考えたい」と発言した。前出の関係者は「違和感があったのは『選手が球団に言いましたと発言』→『後追いで球団が反応』→『本人による“封印”発言』という流れになったこと」と話す。まず球団側が「何が最適か」考えた上で「筒香、メジャー挑戦」が公になる必要があることを強調する。

海外FA権を行使しての移籍では球団に1円も入らず、前倒しでポスティングを容認することは、球団経営にとっても必要な判断といえる。ただ、スター選手の流出において、何より重要なのはファンの“納得感”をどう形成していくかということ。スター選手、ましてやチームや日本代表の4番打者を務めるようなスーパースターは、一朝一夕に生まれるものではないことを忘れてはいけない。

これまで投打二刀流の大谷を含めて日本の野手は15人がメジャーデビューを果たしているが、通算500安打以上は4人(イチロー=3089、松井秀喜=1253、青木宣親=774安、松井稼頭央=615)、通算100本塁打以上は2人(松井=175、イチロー=117)と大成功を収めた例は数少ない。長距離砲として、筒香は久しぶりに表れた大きな可能性、夢を感じさせる選手だ。筒香の夢を後押ししてあげるためにも、そしてそれをファンの夢へと昇華させるためにも、球団側には、しっかりとした情報のマネジメント、コントロールが求められる。

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VictorySportsNews編集部