大学スポーツ界の浦和レッズに
ー筑波大は、いよいよスタートしようとしているユニバスとどう向き合っていく考えでしょう
「筑波大の、自分の立場で言えば、ユニバスがあろうがなかろうが、健全化、表彰など全部やります。筑波大だけの視点で言えば、実は必要がありません。ただ、スポーツ活動は対戦相手がいないと成り立ちません。これから他の大学にも同じことをやってもらいたい、必ずやるべきだと思っているので、その中で筑波大が他の大学を一校一校訪れてやっていくのは非現実的です。それを仕組み化して、いろいろな大学に共有していくという意味では“横串”となる組織が必要で、その目線で言えば、ユニバスという組織が必要なのかなと思います」
ーユニバスが筑波大の活動を広げていくきっかけになる
「そうですね。一つの場に集まるということが今までなかったので。他の大学に、きちんと発信をしていくという意味では、中央の利害関係がない団体を通して伝えられる意味はあると思います」
ーユニバスでは大学スポーツのマネタイズ(収益事業化)にも注目が集まっています
「最初は難しいでしょうね。ユニバスが産業化するためには、大学の意思と大学の仕組みが変わらない限り、スポンサーの反映もなかなかできないので、最初はランディングが遅れてしまうだろうなと思います。スポーツ庁もそれは分かっていて、最初の何年かは国の資金をもってローンチするという話をしていますから。形ができるにつれて、どういう動きができるかということだと思います。アメリカのNCAAは、いろいろなスポンサーを取ったり、大会の参加フィーを取ったりしていますが、日本のユニバスでどうかなと思っているのは学連が加盟することです。アメリカでは学連の機能をNCAAが担っています。NCAAが大会の主催者。でも、『大会は連盟の権利です』となると、ユニバスという布をかけている感じになる。最初は、そういう横の繋がりから始まって、3年から5年くらいかけてモデルケースができていくのだろうなと思っています。ユニバスは儲かったね…何ていうのはだいぶ先のことと踏んでいます」
ーユニバスの設立が全てを解決するわけではない
「ユニバスができたから、何かすぐ変わるというほうが不気味。大学の意思、大学が大学スポーツをより素晴らしいものにするという意思があるか。そのためには“タコツボ化”された部活を課外活動から課内活動に変えていくという筑波大が通る道を必ず通らなければいけない。それをやる意思が大学にあるかどうか。これが全てですね」
ーその先に産業化がある
「筑波でいえば、2022年につくばエキスプレス(TX)のつくば駅前にアリーナをつくる構想があります。そういうものがあったら、大学スポーツのメッカになる可能性がある。関東の大学が、なかなか試合会場を確保できない現状を見ても、観客が集まるかは別として、新しいアリーナにはニーズがあります。ハイレベルな最大化として、私たちが第3段階にあげているのが地域レベルの産業化です。つくば市民の方には、筑波大は街をつくった大学という印象を持っていただいている。さらに筑波大が大学スポーツの超強豪となれば、そこにアリーナができれば・・・。筑波大を『大学スポーツ界の浦和レッズ』にするということが、私たちのサードステージとみています」
スポーツの価値はもっと高い
ーまさに筑波ブランド
「本来のスポーツの価値というのは、もっともっと高いと思っています。スポーツの他に最大価値を持つものといえば音楽でしょうか。それらがある生活は、ない生活より絶対に素晴らしい。それなのに謎の非合理性、閉塞感、“タコツボ化”が本来のスポーツの価値を駄目にしてしまっている。『本来、スポーツってこうだよね』というのを見せるのが、筑波大のアスレチックデパートメントの最終的なビジョンですね」
ー筑波大には、日本のモデルケースとしての可能性を感じます
「筑波大の前身は高等師範学校です。つまり、先生が学びにくる大学。自分たちの大学で研究したり、実現したりしたことは、他の大学に伝えていく使命があると考えています。健全化と最大化がグルグルとまわって、プロセスそのものを他の大学に伝えていくのが、われわれの役割かと思っています。いろいろな大学から連絡を受けて、私だけでも40~50の大学と話しました」
ー先駆者であるというのも一つのブランドです
「ブランドのことを考えるなら、どの大学も早く始めたほうが良いです。強豪校以外はニュースにならないだけで、今の学生スポーツ界は、さまざまな問題が浮き彫りになってきて、非常にまずい状況じゃないですか。高校、中学の部活へのメッセージにもなると考えると、それは先生を輩出する大学としての筑波大の使命ともいえますね。大学が本気になったら、かなりのことができると思います。大学が意思を持って、大学スポーツを変えていき、そこに仲間ができて、いろいろな大学が変わっていく。いろいろな連携を始めたときに、ようやく大学スポーツの芽が出る。ただ、そこからは早いと思います。筑波大1校が5校になるより、10校が100校になる方が早いものです」
ー熱い思いが伝わってきました。最後にメッセージをお願い致します
「私たちは本来のスポーツの価値をきちんとつくるんだというところから始めています。みんなにその実績や手法を伝えていくんだという思いで、今後も取り組んでいきたいと思っています。本日は、ありがとうございました」
組織硬直の学生スポーツに未来はあるのか?筑波大の目指す、大学スポーツの正しいあり方(前編)
スポーツ庁は、大学スポーツ改革の柱として全米大学体育協会(NCAA)をモデルに国内の統括組織「大学スポーツ協会」(略称・UNIVAS=ユニバス)を来春発足させる。それを受け、大学単体でも新しい取り組みが始まっている。中でも、米国の大学で一般的に存在する「アスレチックデパートメント(体育局)」をいち早く設置し、モデル校8校の一つに選定されたのが筑波大だ。今回は筑波大のアスレチックデパートメント設立に尽力し、スポーツ振興を担う特別職「スポーツアドミニストレーター」に就任した佐藤壮二郎氏に、筑波大の先進的な取り組み、学生スポーツ界の先駆者としての思いを聞いた。(前編)
[特集]日本版NCAAの命運を占う
日本のスポーツ産業、発展の試金石