広報・メディア対応の専門誌「広報会議」(宣伝会議発売、 社会情報大学院大学出版部発行)は12月3日、全国1000人が選ぶ「2018年ワースト不祥事ランキング」を発表し、ワースト10にスポーツ界の不祥事が4つも入る結果となった。今年発覚した企業・団体・個人の不祥事についてアンケート調査を11月に実施。全国1000人の20〜60代男女が上位3つまでを選んで決定したもので、1位は「日大アメフト部悪質タックル問題」(58.1%)、3位は「レスリング・伊調馨選手、 栄和人氏をパワハラ告発」(22.6%)、6位は「日本ボクシング連盟、 内部告発と助成金の流用問題」(16.8%)、8位は「体操界におけるパワハラ告発問題」(11.2%)だった。

他にも、大相撲では付け人に暴力を振るった幕内力士・貴ノ岩が現役引退、バスケットボールではアジア大会(インドネシア)に参加していた男子日本代表4選手が歓楽街で買春行為に及んだことも大きな騒動となるなど、スポーツ界はまさに悪い意味で“話題”に事欠かない1年となった。

ここでは「不祥事ランキング」のワースト10に入った“スポーツ界4大不祥事”に焦点を絞り、その後の決着を含めて振り返りたい。

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①日大アメフト部
2018年5月6日の日大-関西学院大の定期戦で起きたラフプレーを巡る問題が勃発。関学大QBに日大DLが全治3週間のけがを負わせる悪質なタックルをして、その動画がネットで拡散したことがきっかけとなった。
その後、選手が記者会見し、内田正人監督(当時)の指示だったと説明。内田氏は指示を否定したものの、大学側の対応を含めて社会問題となった。7月30日に第三者委が最終報告で大学のガバナンスの機能不全が内田氏らの独裁体制を招いたと結論付け、内田氏らの懲戒解雇を決定した。一方で11月15日には内田氏が解雇無効などを求め大学を提訴した。
また、日大では応援リーダー部(競技チアリーディング部)の女子監督から暴言などのパワハラを受けたとして女子部員が告発し、監督が解任される騒動もあった。大手予備校の河合塾が10月に実施した全国統一模擬試験では、日大各学部の合計志願者数が前年を大きく下回るなど“日大ブランド”の低下も問題となっている。

②レスリング
2016年リオデジャネイロ五輪58キロ級で女子レスリング史上初の五輪4連覇を達成し、国民栄誉賞も授与された伊調馨が、2018年1月18日に日本協会の栄和人・前選手強化本部長からパワハラを受けていたとする告発状が代理人を通じて内閣府の公益認定等委員会に提出された。
4月5日に第三者機関が、聞き取り調査の報告書の内容を日本協会に説明し、栄氏の一部の行為をパワハラと認定。栄氏の常務理事解任が決まった。
伊調は8月10日に日本協会の福田会長と面談し、正式に謝罪を受けて競技復帰を決断。12月23日の全日本選手権女子57キロ級でリオ五輪63キロ級金メダルの川井梨紗子と対戦。3年ぶり13度目の優勝を果たし、東京五輪に向けて再出発した。

③ボクシング
日本ボクシング連盟の前会長、山根明氏を巡る数々の不正疑惑が浮上。「アスリート助成金の不正流用」「試合用グローブ等の不透明な独占販売」「山根会長の暴行疑惑」など12項目もの問題点が告発状で指摘された。
告発したのは都道府県連盟幹部や元選手ら関係者333人の有志でつくる「日本ボクシングを再興する会」だった。2018年7月27日に日本オリンピック委員会(JOC)、内閣府、文部科学省、スポーツ庁などに対して告発状を送付。世界ボクシング協会(WBA)ミドル級王者(当時)の村田諒太も支持を表明するなどして社会問題となった。
日本ボクシング連盟は「助成金の不正流用」を認め、謝罪。8月に山根氏ら理事全員が辞任し、9月に新体制が発足した。事務所に領収書や現金約40万円などが散乱していたことなどから、連盟が過去3年分の会計処理を調査したところ、使途不明金が2400万円に上っていたことも判明。山根氏ら元幹部3人を事実上の永久追放である除名処分とする方針も固めている。

④体操
体操女子リオ五輪代表の宮川紗江が2018年8月29日、日本体操協会から無期限登録抹消処分を受けた速見佑斗コーチのパワハラ疑惑について記者会見し「宮川選手の頭をたたくなどの暴力行為を認めた」と処分理由を説明していた日本体操協会側に対して「パワハラはなかった」と反論。逆に、日本体操協会・塚原千恵子女子強化本部長に「宗教みたいだ」「オリンピックに出られなくなる」と言われるなどとし、同・塚原光男副会長を含む2人からパワハラを受けたと告発した。
これを受けて塚原夫妻は一時職務停止となったが、第三者委員会の調査により、パワハラは認定されず、12月に一時職務停止を解除された。その後、日本体操協会は評議委員会を開き、塚原本部長が来年3月までの任期限りで退任する意向であることを報告した。
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いずれも問題となった当事者は退任する結果となったが、同時にアスリート側の立場の弱さ、スポーツ界の閉鎖性が浮き彫りにもなった。プロ野球・横浜DeNAベイスターズの初代球団社長でスポーツ庁参与を務める池田純氏は12月20日付のサンケイスポーツのコラムで「2019年にラグビーW杯、2020年に東京五輪・パラリンピックがあり、明らかに日本のスポーツはブームに向かっています。だからこそ、いろいろな耳が痛い不祥事にも焦点が当たっています」と不祥事が次々と明るみに出ている理由を説明。「これは、大きな変革ができるチャンスです。にもかかわらず、最終的にパワハラと認定されなかった日本体操協会の問題など、民意とかけ離れた結末を見せられる例が多く、閉塞感を覚えざるを得ませんでした。多くの問題が表面化しても何も変わらない。それは、それぞれの立場をみんなが守ろうとして『改革』を掲げながら、本当に『改革』したいと思っている人がほとんどいない証拠です」と続けた。

池田氏自身も、NCAA(全米大学体育協会)を範とする大学スポーツの統括組織・大学スポーツ協会(UNIVAS=ユニバス)の成功に向けて設立準備委員会の主査として尽力していたが、代表就任のオファーを先頃、辞退。「嫉妬が渦巻き、残念ながら改革が進められる環境にないと判断せざるを得なかった」と、その理由の一端を明かしている。関係者によると、スポーツ庁・鈴木大地長官から直々のオファーを受けていたが、はやくも『大学スポーツ村』と呼ばれはじめた大学スポーツ関係者たちへの配慮を重視した結果、スポーツ庁の突然の方針変更などがあったもようだ。

“物言う人物”は、まだまだ日本のスポーツ界では排除される傾向にあり、クローズドな世界で物事が決まる内向きの体質が全ての根源にあるのは間違いないところだ。五輪を控え、“ブーム”にある日本のスポーツ界。不祥事に注目が集まり、ファンやメディアの監視の目が厳しくなっている今こそ、本気で改革を進める覚悟のあるリーダーのもと、開かれた世界にできる最後の「チャンス」といえるのではないだろうか。


VictorySportsNews編集部