男子1600メートルリレーが3分3秒24で4位に入る大健闘で、今年の秋にドーハで開催される世界陸上の出場権を獲得したのだ。前評判では予選敗退とみられていた。上位10位以内に与えられる世界陸上の切符は厳しいと思われていたから、いい意味で予想を裏切った格好だ。

これは、とてつもない躍進である。男子400メートルリレーは無駄を排除した「アンダーハンドパス」と呼ばれるバトンパスで、劣る個々の走力を補って強くなった。しかし、男子1600メートルリレーは、言うまでもなく1人が400メートルを走るのだから、みな力を出し尽くした状態でバトンを渡す。細かなバトンの技術で、タイムを稼ぐことは不可能だ。バトンパスが勝負に与える影響は少なく、つまり個人の走力がものをいうのだ。

では、その走力はどうか。日本は過去のオリンピックと世界陸上の男子400メートルでは高野進氏の1人しか決勝に進んでいない。(91年世界陸上東京大会7位、92年バルセロナ五輪8位)。走力では世界と渡り合えないと歴史が物語っている。もちろん今回の世界リレー大会では各国の〝1軍〟が勢ぞろいをしていたわけではない。とはいえ、大会史上初の決勝進出を果たし、4位にまで入った。快挙と言っていいだろう。

予選は1走を走ったウォルシュ・ジュリアン(富士通)が好位置で、2走の井本佳伸(東海大)にバトンを渡した。その井本は前半から飛ばし、トップに躍り出た。3走・佐藤拳太郎(富士通)、アンカー若林康太(駿河台大)が首位を守りきった。決勝はウォルシュが流れを作り、2走・佐藤が4番手でバトンを3走・北谷直輝(東海大)へバトン。北谷はハイペースの流れに乗る粘りの走りを見せ、順位をキープした。アンカー若林は最後の直線でベルギーに抜かれるも5番手でゴールした。その後、アメリカがセパレートレーン時にライン内側に入ったという反則で失格となり、順位は4位に繰り上がった。

予選、決勝とも1走を任されたウォルシュは自身のツイッターで「みんなの応援が直に伝わって来ました。本当にありがとう。停滞していたマイルチーム、これからは世界の常連になれるように頑張りますので応援よろしくお願いいたします」と喜びと感謝を記している。

この言葉通り、日本のマイルチーム(男子1600メートルリレーチーム)は近年、ずっと「停滞」していた。男子400メートルリレーがオリンピック、世界陸上とメダルを獲得する裏で、影の存在だった。全く結果が出ていなかったのだ。

ここで過去3大会のオリンピック、世界陸上の成績を振り返ってみる。

オリンピック 08年北京予選落ち(2組6着・3分4秒18)、12年ロンドン予選落ち(2組6着・3分3秒86)、16年リオデジャネイロ予選落ち(1組7着・3分2秒95)

世界陸上 13年モスクワ予選落ち(1組4着・3分2秒43)、15年北京予選落ち(1組7着・3分2秒97)、17年ロンドン予選落ち(2組8着・3分7秒29)

すべて予選落ちだ。まったく勝負にならなかった。
とはいえ、ずっと弱かったわけではない。96年アトランタオリンピックは5位、04年アテネオリンピックも4位。メダルまであと一歩のところまで迫っていた。一時は男子の400メートルリレーよりも、メダルの可能性が高いとも言われていたのだ。

昨年4月の日本陸上競技連盟の強化委員会による説明会で、1600メートルリレーの強化策に関して土江寛裕オリンピック強化コーチは以下のように述べている。「400メートルに関しては日本記録(91年の44秒78)が長く破られていないので、そこを目指してやっていきたい。また、4×400メートルリレーついても、2020年東京オリンピックで戦える種目だと信じている」。世界陸上では8位以上で、東京オリンピックの出場権を得る。

日本陸上競技連盟の関係者によると、近年は男子400メートルリレーの注目が高まり、200メートルを走る力がある有力選手は1600メートルリレーに消極的で、〝華〟のある400メートルリレーを最優先に考える流れもあったという。低迷から脱するため、日本陸上競技連盟は冬に400メートルの有力選手を集め、1600メートルリレーへ向けた合宿を3度、行ったという。参加した選手には前半から攻める意識を徹底的に植え付けた。それが結果として形になったようだ。

死力を尽くし、トラック1周を駆け抜ける選手にとっては、ホームの大声援は最後の足を回す何よりの原動力にもなるようだ。1年後の東京オリンピック。もしかしたら…マイルリレーが奇跡を生む !? かもしれない。

星野泉

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