▽活性化
今年は10月17日に開催されたドラフト。目玉は何といっても身長190㌢とスケールが大きい佐々木だった。事前にはパ・リーグの全6球団が1位で競合するのではと予想したメディアが複数あった。ふたを開けてみれば、実際に1位で指名したのはロッテの他、日本ハム、楽天、西武で、4球団による抽選が実施された。
このため、1位指名は全体的にばらけた印象だった。今夏の甲子園大会準優勝を経験した奥川はヤクルトの他、巨人と阪神で3球団の競合となった。愛知・東邦高の石川昂弥内野手はオリックス、ソフトバンク、中日が指名し、抽選で中日が交渉権を獲得した。ソフトバンクは大方の予測では佐々木の1位指名だった。会議前日に王貞治球団会長が「公表してもいいけど、しないよ」などと話し、3年ぶりに事前に公表せず、結果的には石川だった。中国の兵法書「孫子」には有名な格言がある。「兵は詭道なり」。つまり、戦いとは所詮だまし合いという意味だ。その言葉を想起させるドラフトならではの駆け引きだった。
佐々木のロッテはパ・リーグで今季4位、奥川のヤクルトはセ・リーグで6位、石川の中日は5位だった。プロに入って活躍できるかどうかは本人の努力次第。ただ、下位に終わったチームに高評価の選手が加入する流れになったことは、リーグの活性化という観点からプラスと捉える向きがある。戦力的にはもちろん、注目度の高い選手がいるチームにはキャンプイン、あるいはその前の自主トレーニングからより多くのメディアが取材に行き、テレビや新聞、ネットニュースで報じられる。自然とそのチームの露出が増加し、新たなファンを獲得する可能性は広がることになる。
▽サクセスストーリー
逆にドラフトの時点での評価は決して高くなくても、その後に急成長するパターンがあるのも野球観戦の醍醐味だ。プレミア12で脚光を浴びた選手の一人に、ソフトバンクの周東佑京内野手がいる。俊足という特長を買われ、いわばサプライズ的に代表入りすると大きな仕事をやってのけた。2次ラウンド初戦のオーストラリア戦。1点リードされている七回に代走で登場し、二盗、三盗を立て続けに決めた。チームに勢いを与えて野選で同点となり、八回の勝ち越しにつなげた。2次ラウンドの最初の試合ということで、勝ちと負けではその後に大きな差ができかねなかっただけに、いつも以上に価値ある好走塁だった。
周東は群馬・東農大二高―東農大北海道オホーツクを経て18年に育成ドラフトで入団。今年から支配下登録を勝ち取り、推定年俸600万だった今季は102試合に出場し、チームトップの25盗塁をマークした。プレミア12には「自分の持ち味を出してグラウンドを誰よりも速く駆けたい」との心意気で臨み、しっかりとチャンスを生かして日本の優勝に貢献した。こうしたサクセスストーリーを体現した選手が出現すると、入団のきっかけとなったドラフト会議を振り返り、そのときの指名状況などをチェックするのも一興だろう。
▽ドラマ
くじもドラフト会議のハイライトの一つだ。例えば、中日の与田剛監督は2年連続で将来を嘱望される高校生内野手を抽選で引き当てた。それだけに、2018年のドラフト1位で入団した根尾昂と、今回の1位の石川がどのように切磋琢磨して成長していくかも興味深い。4球団が競合した根尾は鳴り物入りでプロの世界に飛び込んだが、春先の故障もあって1軍デビューはシーズン終盤。2打席2三振の成績に終わり、来季の巻き返しを狙っている。今春の選抜大会優勝メンバーの石川は1位指名選手で一番乗りの入団決定。契約金1億円プラス出来高払い5千万円、年俸1500万円(金額は推定)で合意した。185㌢、90㌔の大型で将来の4番候補ともくされ「結果を残さないといけないと思った」と早々にプロ意識全開。チームは7年連続のBクラスに甘んじているだけに、2人が数年後、主力選手になっていれば順位もおのずと上がっていくに違いない。
それにしても、ロッテも昨年は大阪桐蔭高の藤原恭大外野手を3球団による入札で引き当てた。反対に巨人は今年の奥川を外し、3球団以上が競合した1位のくじではこれで13連敗とのデータもあり、明暗が分かれた。理論的には説明できない事象を包含していることも、ドラマや面白さを添えている。1位指名された高校生たちがどんなユニホーム姿を披露するのか、来年のキャンプインが待ち遠しい。