世間では一昨年あたりから白鵬、鶴竜以外の力士が優勝すると、世代交代か、両横綱はもう限界か、と言われていたが実はただ単に両横綱が休場、または途中休場している間に他の力士が優勝しているだけだ。言い方を変えれば、両横綱が休場し次の場所に合わせ調整をして万全な状態で皆勤すれば、他の力士はまだまだ両横綱に太刀打ちできない状況が続いている。

特に白鵬に関しては、万歳三唱、手締め、自らの取組で自らが行った物言いなど許しがたい暴挙や、立ち合いの張り差しやエルボー、ダメ押しで審判部親方を負傷させるなど議論になるような事を散々行い、相撲界だけではなく世間からも叩かれているがどこ吹く風と優勝を重ねている。とりあえず東京オリンピックまでは今までの通り、のらりくらりと“横綱業”を続けていくだろう。

今場所白鵬を撃破した遠藤についてこれでやっと世代交代かという声も聞かれているが、ある親方はこう言っていた。「白鵬のかち上げに対応し勝ったのは良かったが、遠藤をはじめ他の力士は何をやっていたのか。かち上げを禁止にしろとか品格がないという声もあるが、反則ではない以上対応し勝機を見出す工夫が必要。あれだけ脇が開けば逆にこちらに有利になる。今の力士は工夫もなければ闘志もない。質が低すぎる」

千代の富士との猛稽古で番付を手に入れた八角理事長(元横綱北勝海)や、地獄の猛稽古と言われ、多くの関取を生んだ佐渡ヶ嶽部屋で耐え抜いて大関の地位を手に入れた事業部長の尾車親方(元大関琴風)は今の力士に何を思うのだろうか。
質、量ともに稽古に裏打ちされた自信を持ち、相撲に対する姿勢を親方衆からも尊敬されるような力士はこれから現れるのだろうか。

露呈したレベルの低さ

2020年初場所を前にした1月5日、大相撲ファンにとっては衝撃的ともいえるニュースが伝えられた。
大関候補1番手で新関脇の朝乃山が、引退して1年も経っている元横綱稀勢の里の荒磯親方と稽古を行い、17番取って1勝16敗と完敗。引退の原因となった怪我が癒えてきているとはいえ、稽古も本格的にしていない親方に成す術もなく敗れるのが大関候補1番と呼ばれる体たらくだ。

「3年先の稽古」と相撲界では古くから言われているが、稀勢の里の現役時代は入門からライバル関係にあった元大関琴欧洲をはじめ、朝青龍に白鵬、日馬富士、鶴竜といったモンゴル勢、千代大海、魁皇、琴光喜、琴奨菊、把瑠都といった個性的な力士と切磋琢磨し、自分を追い込んで稽古をして頂点に上り詰めた。その稽古貯金は引退してたった1年では大した目減りはせず、大関候補1番手を簡単に土俵に転がしていた。言い換えれば、目減りしていても関脇クラスに余裕をもって勝てるほど、若手力士が劣化している。

琴奨菊、玉鷲、松鳳山は35歳、白鵬、鶴竜、隠岐の海は34歳。30歳以上の幕内力士が19人もいる現状は、絶え間ない努力の賜物ではあるが、若手の力量不足も現役を長く続けていける理由だろう。

驚くべき観客のマナー

館内放送や取組表などでしつこいくらいに注意喚起がなされているが以前からやる者があとを絶たない、非常に危険な行為である“座布団投げ”や、地方場所でご当地力士への仕切り時の手拍子と力士名コールなど、相撲の応援での禁止行為やマナー違反はあったが、この初場所は特にひどく、一部観客の質が非常に低いと言わざるを得ない。いざ立ち合いという緊張感がみなぎっている場面で力士名を叫んだり、汚いヤジを飛ばしたりしている。現場で観ている限り、このような行為は相撲協会がブームを作っているスー女や新たな集客施策によって来場した観客ではなく、ある程度の年齢を重ねた相撲観戦歴がある男性が酔いに任せておこなっている場合が多い。

今場所に限らず大相撲の歴史にも残る最悪の観客の行為は、白鵬に勝った遠藤に対し会場が一体となって遠藤コールを行なったことだろう。
このコールに対して肯定的な意見を持つような観客や視聴者は相撲の様式美やマナーを学んでから観戦するべきだ。観戦方法は自由だと言うかもしれないが、相撲がただ単に勝った負けたでランキングを決める競技であるならばそれで良い。しかし相撲は神事であり伝統芸能としての側面を持つ興行なのだから。

しかし、このようなことが起きてしまったことは遠藤に多くのファンがいるということもあるが、白鵬の好感度のなさというところも大きいだろう。相撲ファンにも“にわか”にも尊敬されず、まるでコンサートのアンコールのように盛り上がってしまったことは自業自得と言わざるを得ない。

東京オリンピック後の大相撲

いよいよ東京オリンピックが開催される。白鵬はかねてからこのオリンピックで土俵入りするのが夢だと語っていた。現状土俵入りが行われるかは発表されていないが、どんな事があってもオリンピック前に引退することはないだろう。
出場と休場を繰り返しながらオリンピックまではのらりくらりと現役で居続ける白鵬を誰も責めることはできない。古くは横綱貴乃花の7場所連続休場、最近では8場所連続の稀勢の里の前例があり、それに比べれば必ず年に1度以上優勝している白鵬の成績は立派だ。

オリンピックが終わり、目標がなくなった白鵬が引退した後の相撲界はどうなるのであろうか。このままレベルの低い状況が続いていくのか、圧倒的な強さを誇る横綱はもう出てこないのか、それとも以前のようにハワイ勢、モンゴル勢、欧州勢といった非常に魅力的な個性を持つ海外出身力士が席巻し、日本人力士が発奮するのか。

今後のことは誰にもわからないが、1つ確実に言えることは、少子化というマイナス要素以外にも、オリンピックを契機に様々なスポーツの魅力が子供たちに伝わり、その競技に流れることで、相撲の競技人口がさらに減ることは間違いない。これを少しでも食い止めるには社会的地位と収入面をアピールすることだ。力士は学歴がなく、社会経験もなく、常識に欠けるなどと言った根拠のない誹謗中傷が多く聞かれるが、実はこれほど社会経験と礼儀作法を身に着けることができる世界は他にはない。相撲の世界で出世すればもちろん、付け人としても10代半ばで政治家や経営者、他の一流スポーツ選手などと付き合うことができ、一般のサラリーマンの比ではないほどの経験と知見を得られる魅力がある。

また収入も関取になれば給与だけではなく懸賞金やCM出演費など含め年収数千万円。横綱まで上り詰めれば年収数億円。しかも現役引退後、親方として相撲協会に残れば最低でも年収1千万以上が保証され、それが定年まで続いていく。仮に関取になれず引退する力士でも周囲から認められるような人間であればタニマチが自ら就職斡旋などを行うなどセカンドキャリアをバックアップするシステムも存在する。

今後は相撲の競技、神事としての魅力だけではなく、社会的地位や収入面についてもアピールし競技人口を増やす努力をすべきだろう。昔であれば無粋なことを言うなと叱られても、“聞いたことない”“知らなかった”などと自分の無知を開き直ることも恥ではないと感じ生きる人が多くなっている今この時代では。伝えなければ伝わらず、廃れていくだけだ。


VictorySportsNews編集部