文=VictorySportsNews編集部
東海大仰星サッカー部とラグビー部の関係性
第95回全国高校サッカー選手権大会で、前回大会優勝校で今大会も優勝候補筆頭だった東福岡を破り、ベスト4まで勝ち進んだ東海大仰星。今大会の優勝校となった青森山田に準決勝で敗れたものの、東海大仰星は今大会で最もインパクトを残したチームのひとつで、献身性から生まれる全員でのハードワークは見ているものの記憶に残ったことだろう。
そんな東海大仰星の中務雅之監督が大会期間中に涙をこらえながら話したことがあった。それは勝利に歓喜した涙でもなければ、敗退した悔し涙でもない。それは応援に駆けつけているBチームに話が及んだときだった。
「仰星でやりたいという子が多い中でうちはハード面があまりにもないので、それはすごく失礼な態度……態度というか、サッカーをやりたくて来ている彼らにとって、グラウンドを使えない状況はすごく心苦しい」
それは、思うようにグラウンドを用意できない懺悔の涙であり、それでも腐らずに応援に専念してくれた彼らへの感謝の涙であった。
214校が参加する全国屈指の激選区である大阪府で、4年ぶりに全国への切符を勝ち取った東海大仰星は今大会で5回目の出場となり、名門校の仲間入りを果たしている。サッカー以外にも野球や柔道も全国クラスの実力を持ち、その中でもラグビーは昨年の全国高校ラグビー大会の優勝をはじめ、8回も全国制覇を経験している超名門である。有名私立大学の付属高校で、これだけ多くの競技において全国区で結果を残している高校のサッカー部も、さぞ立派で恵まれた環境で練習しているものと思っていた。しかし、サッカー部はラグビーとグラウンドを半面ずつに分けて練習しているという。
「ラグビー部とは、いつも土のグラウンドを半面、半面で練習しています。ラグビーがだいたい110名ぐらい。サッカーも120名ぐらいいます。どちらかのクラブが、たとえば火曜日に全面を使うということは一切ないですね」とサッカー部の中務監督が明かしてくれた。
最初の感想は、半面ずつしか使っていなくて両方とも全国クラスとはすごい! ではあったが、有名私立大学の付属高校でも、そんな環境でしか練習できないのかという嘆く気持ちもすぐに湧き出てきた。
その他の学生たちのグラウンド事情
第91回全国高校サッカー選手権大会、仙頭啓矢(現・東洋大、京都サンガ内定)と小屋松知哉(京都サンガ←名古屋グランパス)の2トップで旋風を巻き起こし準優勝となった京都橘も練習環境には恵まれていない。その準優勝した当時は200メートルトラックのあるグラウンドの半分しか使えないと言っていた。2002年度までは女子校で2003年度から男女共学化した京都橘だったので、当時は10年くらいで環境は整わないのも致し方ないと思っていた。それから4年経った現在は、京都市が借り入れた土地に、自費でサッカーグラウンドを整備しようと構想しているようだ。5年連続6回目の京都府代表校という実績を作り、ようやく環境整備が具現化され始めた。旧伏見桃山城キャッスルランドの駐車場をスポーツ施設として整備する計画が進んでいるという。
京都市は9日の市議会くらし環境委員会で、伏見区の旧伏見桃山城キャッスルランド第3駐車場について、スポーツ施設を整備して活用する方針を明らかにした。サッカー強豪の高校を運営する近くの京都橘学園(山科区)が、自費でサッカーグラウンドに整備する構想を示しており、市はこの提案を軸に、公募手続きで最終決定する方針。京都橘高もアシスト、サッカー場整備 京都、伏見桃山城運動公園
そもそも国土の狭い日本で、新たにサッカーやラグビーのグラウンドとなるスポーツ施設を作れる土地を探すことは困難と言える。特に、都市部は土地もなく地価も高いため、さらに困難を極める。その点において、京都橘サッカー部は有効利用できる土地が見つかりラッキーだったと言える。首都圏の高校では自前のグラウンドで練習できるところは少ないし、新たにグラウンドを作れるところなどほぼないに等しい。桐光学園サッカー部は、東京ヴェルディのグラウンドとクラブハウスの一部を借り入れて、毎日の練習を行っている。関東学院大学も以前はマリノスタウンを練習場にしていた。お金を持っている学校はそのようなこともできるが、公立高校はそうはいかない。数少ない公営のグラウンドを借りて練習を行っていて、毎日練習できる環境はないに等しい。
日本がスポーツ大国を目指すというのであれば、やりたいときにできる環境がまずは必要ではないだろうか。将来のある子どもたちが満足にできない状況は1日も早くなくすべき、早急なる課題であるはずだ。