全国高校総合体育大会(インターハイ)の中止が発表されたのは4月26日。5月4日には、緊急事態宣言の5月末までの延長が決まった。5月14日には39県で緊急事態宣言が解除されたものの、高校の授業も部活動も満足に行われない空白状態が長く続いた。
5月20日、第102回全国高校野球の夏の甲子園大会と、その出場権をかけた地方予選の中止が発表された。地方予選に代わる大会の開催は、各都道府県の高野連の判断に委ねられた。
愛媛は、かつて野球王国として知られたところ。近年は、済美をはじめ、松山聖陵、帝京第五など私立が甲子園出場を果たしているが、松山商業、宇和島東、今治西、西条など公立高校がその隆盛を支えてきた。愛媛には、名監督と呼ばれる指導者がたくさんいる。
愛媛のスポーツマガジン『E-dge』(愛媛新聞社)は2018年2月の創刊以来、県内の選手やチームの活動をサポートしてきた。7・8月号では、各校の指導者が甲子園中止の知らせに落胆する選手たちに対してかけた言葉を集めている。指導者の思いのこもったメッセージを並べてみよう。
指導者の思い、選手たちへのメッセージ
1996年夏の甲子園で松山商業を7度目の全国優勝に導いた澤田勝彦は現在、松山市内にある北条の監督をつとめている。澤田は、選手たちを集めて、こう言った。
「たとえ、目標を失ったとしても、目的は変わりなくある。甲子園を目指すのと同じ思いで、最後までやろうやないか」
今治西を率いて甲子園に11度出場した大野康哉は、この春、松山商業の監督に就任した。長く愛媛の高校野球を牽引してきた名門の19年ぶりの甲子園行きを託された大野。彼の初仕事は、失意の3年生にメッセージを送ることだった。A4用紙3枚にしたためた手紙を、静かに読み聞かせた。
「小さい頃に野球に出合い、いつの頃からか甲子園に憧れて野球をやってきた。君たちの甲子園への挑戦は、戦いの舞台がなく、終わることとなった。どんな大人も、その経験がなく、言葉を探しても見つからず、かけてやれるどの言葉にも説得力がないことをわかっていても、何もせずにはいられないので、何かできることを必死で探していることはわかってほしい。これから君たちを動かしていくのは、目標ではなく目的である。責任感ではなく、使命感であると私は言いたい」
早稲田大学野球部時代に主将をつとめ、和田毅(福岡ソフトバンクホークス)らととともに2002年に東京六大学リーグ春夏連覇を果たした経験を持つ聖カタリナ学園の越智良平監督は、選手にこう語りかけた。
「甲子園が中止になっても、ゼロではない。仲間の大切さや親への感謝の気持ちを学んだはずだ。高校野球は2年4カ月。人生100年とすれば、2%。その間に学んだことを今後に生かせば無駄ではない。高校野球の目標は甲子園、目的は人づくりだ。大事なのは、今後どう伸びていくか。目的を失わないでほしい」
昨夏の甲子園に出場した宇和島東の長瀧剛監督は言う。
「どんな言葉をかけても、気持ちが吹っ切れる特効薬にはなりません。野球で受けたショックは、野球が癒してくれるんじゃないかと思います。だから、バットを振って手が痛いとか、強いボールを投げられたとか、体で感じながら思いっきり野球をやってもらいたい」
愛媛県高野連は5月21日に記者会見を開き、8月に代替大会を実施する方針を明らかにしていたが、トーナメントで優勝校を決める方式は採用せず、1チーム1、2試合程度を行う予定だとした。しかし、6月20日になって、代替大会をトーナメント方式で行うと発表した。高校3年生にとっての最後の大会で、愛媛の王者を決めることになったのだ。思い出作りではなく、真剣勝負を!それが、愛媛県高野連が出した3年生への「答え」だった。
8月1日に開幕する愛媛大会は、準決勝が8日、決勝戦が9日に行われる。昨年より6校少ない53校が愛媛の王者を目指して激しい戦いを繰り広げる。
甲子園出場にすべてをかけた強豪校の選手たちも、そうでない高校の野球部員にも、それぞれに野球にかける思いがあり、幼いころから抱いた夢があったはずだ。
この大会を勝ち上がっても甲子園にたどり着くことはできないが、すべての力を出し切ってほしい。
「やり切った」と思えるプレイをしてほしい。
もし、完全燃焼できなかったとしたら……今後の人生の糧にしてほしい。
無観客で行われる可能性の高い代替大会では、例年のようなスタンドからの応援は望めない。だが、ひとりひとりの頑張りを仲間はしっかりと見ている。お互いの心に残るプレイをしてほしい。高校野球をやってきてよかったと心から思えるように。勝利も敗北も、未来を生き抜く力になるように。