ゴルフ場運営大手のアコーディア・ゴルフは8月1日から8月31日まで、アコーディアWeb予約ポイントをプレゼントするコンペ早割キャンペーンを実施している。プレー対象期間は2020年10月1日から2021年1月31日までとなっている。8月は例年、プライベートゴルフの比率が増えるので、現時点では多くのゴルファーでにぎわっているが、9月のシルバーウイーク以降の集客に向けて、今のうちから準備を進めているわけだ。
ただ、秋のゴルフシーズンにコンペ需要が以前の状態に戻るかというと、現実的には厳しいだろう。プライベートコンペならまだしも、平日に行われていた企業主催コンペや社内コンペ、取引先との接待ゴルフなどは当面自粛というのが世の中の流れだ。これはゴルフ場業界に限らず飲食業界も同様で、企業の宴会や職場の飲み会、取引先との会食がほとんど行われていないため、法人需要に頼っていた業種はかなり苦戦を強いられている。
それ以前に、企業の宴会や職場の飲み会が行われていた昨年の時点で、職場の忘年会に参加しない「忘年会スルー」という言葉が若者を中心に話題になったように、お酒を飲むことでコミュニケーションを深める「飲みニケーション」文化の必要性自体が議論されるようになっている。
一方で、若者の飲酒離れが進んでいるかというと必ずしもそういうわけではなく、職場の飲み会には参加しないがプライベートな友人とはお酒を酌み交わしているという指摘もある。ゴルフも近年、これと同じような道のりを歩み始めているように感じることがある。
■ゴルフを取り巻く時代の流れ
日本には接待ゴルフという言葉があるように、ゴルフはかつて会社や仕事と密接に関係するような形で発展を遂げてきた。高度経済成長期から1990年代半ばごろまで、ゴルフは仕事の取引先と親交を深めるために必要なビジネスツールの一つであり、そのためにはまず社内コンペでルールとマナーを覚え、取引先に迷惑をかけない程度に腕を磨いてから接待ゴルフにデビューさせるという文化があった。多くの企業で閑散期の平日に社内コンペが行われており、団塊の世代などは半強制的に参加させられた経験があるはずだ。
ただし、誰かが順序立ててゴルフを教えてくれるわけではなく、「ボールを打ったらクラブを3本持って走れ」という昭和の体育会気質の教えだったため、社内コンペのときしかクラブを握らない人も多かった。やがて日本経済はバブル崩壊後に不景気が深刻化し、企業の社内コンペはどんどん減っていった。
ところが、2000年代に入るとゴルフ場が次々と経営破綻し、ゴルフ場業界の再編が始まったことでプレー料金が一気に安くなった。メンバーコースが破綻したゴルファーは会員権が紙くず同然になって地獄のような状況だったが、メンバーコースを持たずにビジターでゴルフを楽しんでいた人にとっては天国のような状況になった。
ちょうどそのころ、宮里藍が2003年9月の「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンゴルフトーナメント」でアマチュア優勝を達成し、ゴルフブームが巻き起こった。2007年5月には石川遼が「マンシングウェアオープンKSBカップ」で15歳245日のアマチュア優勝を成し遂げ、これに拍車をかけた。この時期はビジネスツールとしてではなく、個人的な興味でゴルフを始める人が増えたように感じた。
しかし、ゴルフというスポーツは止まっているボールを打つだけだから簡単そうに見えるが、実際にやってみると非常に難しい。上達にてこずった人は2008年9月のリーマンショック、2011年3月の東日本大震災でゴルフをやめてしまった。ふくらみかけた個人需要はしぼみ、多くのゴルフ場は結局、法人需要に頼った。この時期には入社と同時にゴルフを覚えた世代が会社の経営陣になり、以前ほどではないにしても企業主催コンペや社内コンペが盛んになっていった。
ただ、当時は若者たちの反応は鈍かった。「なんで職場の人間とゴルフをしなくちゃいけないんですか? 給料が安いからゴルフクラブを買う金もないし、車もないからゴルフ場に行けないんですけど」というのが彼らの正直な心境だった。
それが昨年ごろから少し風向きが変わってきた。渋野日向子が2019年8月に「AIG全英女子オープン」でメジャー制覇の快挙を達成し、ゴルフが再び注目を集めたことに加え、ゴルフを題材にしたYouTubeチャンネルが続々と開設されたことで、若い世代(特に女性)がゴルフに触れる機会が格段に増えた。これにより、職場のコンペには参加しないがプライベートな友人とはゴルフに行きたいというゴルファー層が少しずつ形成されつつある気がする。ゴルフ場業界はこのチャンスを確実に生かさなければならない。
新型コロナウイルスの流行により、法人需要が当面の間見込めない中、個人需要への大胆なシフトチェンジがゴルフ場の生き残りのカギとなるだろう。