「熱盛」誕生
―熱盛が生まれたきっかけを教えてください。
報道ステーションのスポーツコーナーを毎日楽しみにしてもらえるような名物コーナーを作りたいと常々思っていました。報道ステーションの前身でもあるニュースステーション(1985年~2004年)の「プロ野球1分勝負※」というコーナーが大好きだったので、そういうコーナーを生み出したかったんです。
プロ野球2017年シーズンに向けて、春季キャンプ終わりぐらいから、スタッフでアイデアを出し合いまして。その中で「いいね!」となったのが“きょうの大歓声”というアイデアでした。各試合の中で、一番ファンの歓声が大きかったシーンを選び、オリジナルの音量バロメーターCGを作って、歓声の大きさを表現しようと。で、実際に過去の試合を使ってシミュレーションをしてみたんですが、とにかくバロメーターCGが分かりづらい。歓声のボリュームを映像で表現するのが難しかったので、結局ボツとなりました。
ただ、このシミュレーションを通じて思ったのは、大歓声があがるシーンというのは、当たり前ですが、その試合の中で、とにかく熱かったプレー、印象に残るプレーだということ。それなら単純明快に、各試合の中で一番“熱く盛り上がったシーン”をテーマにやってみようと仕切り直しました。
すると放送作家の一人が「熱く盛り上がったシーン、略すと熱盛(あつもり)だな」と何気なく言ったんです。その瞬間、ビビっときましたね(笑)。熱盛って一瞬なんか古くさい感じするけど、インパクトあるし、覚えやすいし、なんかいけそうな気がする!と。みんなの目の色が変わったのをよく覚えています。こうして2017年4月4日の開幕戦から、新コーナーとして「きょうの熱盛」を始めることができました。
※プロ野球1分勝負…名場面を中心にその日のプロ野球を1分でまとめたコーナー。1999年シーズンまで放送された。BGMは真心ブラザーズの「どか~ん」など
―最初の反響はいかがでした?
初回の放送の反応ですか・・・どちらかというとスタジオの空気は微妙な感じで、オンエア中、僕の背中から変な汗が流れたのを覚えています(笑)。周りのスタッフからは「何だかよく分からないけど何かインパクトはあったから、とにかく続けてみれば?」と言ってもらえたのが救いでした。
実は初回に放送した「熱盛」の声は、現在のものと違うんです。いま聞き返してみても全然熱くない(笑)。2回目の放送前に寺川俊平アナウンサーの声で録り直しました。寺川アナ本人も「オンエアの時に声が出なくなってもいいぐらい、全力で行きます!」と言ってくれまして。そこで熱盛スタンプと、寺川アナの“熱さ“が完全にマッチして、「これぞ熱盛だ!」と自信が持てました。
「負けたチーム側にもファンを熱く盛り上げてくれたシーンは必ずある」
―手ごたえを感じたのは?
球場でファンの人たちが自作の熱盛のパネルを掲げてくれているのを初めて見たときは、本当にうれしかったです。個人的に思い出に残っているのは2017年、夏の甲子園の取材で球児たちの練習を何気なく見ていたら、良いプレーが出た時に、「熱盛!」と言ってくれていたことです。ファインプレー=熱盛っていうのが少しだけ浸透したのかな、と感動したことを覚えています。
―熱盛のプレーはどのようにして選ばれているのでしょうか?
プロ野球の試合は最初から最後までカメラで収録しているんですが、ニュース速報として放送できるのは大体30秒~1分程度です。どうしても多くのシーンを放送できなくなってしまいます。サヨナラのシーンや試合を決定づけたシーンは速報の中で扱いますので、熱盛コーナーではそれ以外のプレーにも光を当てたいと思っています。例え10-1で終わった試合でも、負けたチーム側にもファンを熱く盛り上げてくれたシーンは必ずと言っていいほどありますので、そこは意識しています。
―熱盛の制作現場はどんなものですか?
基本的に1試合につき1人のスタッフが試合開始から終了まで全部見ています。そして、その日の熱盛隊長と呼ばれるディレクターに、6人の試合担当がプレゼンしていく形です。「これは絶対に熱盛でしょ?」「うん、これは大熱盛だね」みたいな感じですね(笑)。
本当は全部紹介したいのですが、時間の都合上、泣く泣く落としている熱盛プレーがいっぱいあります。また、熱く盛り上がったシーン以外にも、外国人投手が奥さんの前で勝利を挙げた際には「愛盛(ラブモリ)」、記念のヒットを打ったバッターに対しては「祝盛(オメモリ)」など、徐々にスタンプは増えていきました。その他、プロ初ヒット、プロ初勝利などの「初盛(ハツモリ)」。珍プレーである「汗盛(アセモリ)」とかも、見逃さないように試合を見ています。
で、実は熱盛スタンプ、オンエアの際に“生”で熱盛隊長がボタンを押しています。オンエア前のリハーサルで、清水アナや寺川綾さんと読み合わせをするんですが、生放送ですとナレーションの読みのスピードも微妙に変わってきたりするので、タイミングを合わせて、いざ熱盛ボタンを押すときは、みんな緊張しています(笑)。
―記憶に残っている熱盛シーンはありますか?
最近でいうと、9月8日の中日ドラゴンズ・大野雄大投手ですね。巨人・菅野投手との投げ合いで、試合には敗れてしまうんですが、大野選手は6試合連続で完投しました。ニュース速報ではあまり大野選手に触れることができなかったんですが、熱盛があったからこそ大野選手の素晴らしいピッチングをきちんと紹介できました。これこそ熱盛の哲学というか、本来の目的を果たせたなと内心思っていました。
―最後に報道ステーションを見てくれている熱盛ファンに一言お願いします。
SNSなどで「やっぱり熱盛に選んでくれた!」「〇〇選手が熱盛の大トリ!」といった感想を見ると、僕たちスタッフも本当に嬉しいです。報道ステーションという番組のスポーツコーナーの中で伝えられることは限られているかもしれませんが、熱盛を通じて、プロ野球、そしてスポーツ全体を盛り上げていきたいですね。
でも色んなプレーから選んで放送している側とすれば、厳しい目で見ないで欲しいというのが本音ですね(笑)。