阪神ではシーズン開幕前の3月に藤浪晋太郎投手ら3選手がコロナに感染。知人宅に集まり、不特定多数での会食が判明した。球団は不要不急の外出自粛を指導しながら外食制限などは課しておらず、危機管理の甘さが批判された。9月には糸原健斗内野手らが、遠征先の名古屋市内の飲食店で球団が定めた上限(4人)を超える8人で会食、うち3選手が陽性判定を受けた。同日、4人で会食した別グループの2選手も陽性と判定され、同席した福留孝介外野手ら6選手は濃厚接触者などとして離脱。チームスタッフ計4人の陽性も確認された。今回の揚塩社長の辞任劇は、これら一連の運営の責任を取ったもの。同社長は報道各社の取材に「2度にわたって球界全体にご迷惑を掛けた事実は否めません。いろいろな混乱を招いた球団内の最終責任者は私」として陳謝した。

 この辞任劇に、池田氏は組織運営における責任の所在が不明でしかない、と語る。

「選手はいい大人ですし、プロですから、まず罰せられるべきはルールに違反した選手です。そして私なら、ルールを徹底できていなかったのなら編成のトップなり現場のトップがまずは責任を取るべきと考えます。社長は、あくまで経営責任を問われる立場。今回その社長がいきなり責任を取った感は否めない。例えば、一般の会社で社員が規定を破って会食をし、コロナに感染したら、社長が責任を取って辞めますか? 管理部門や人事などが責任を問われるのが普通だと思います」

 一方でコロナ禍における対応の難しさにも言及し「選手が裏方さんを会食に連れていってねぎらったりするのは、重要な一つのコミュニケーションの手段であり、多々あることです。そういうコミュニケーションがすごく難しい時代。それを全て球団が管理するのも限界があります。ロッテでも選手に感染者が出ましたし、芸能界でも多く出ています。もはやどこでもらうか分からないのがコロナ。ルールを破ったということがあるにしても、その責任を全て球団社長が取ることには違和感を覚えます」と続けた。

 異例のタイミングでの辞任発表だった。リーグ優勝の可能性はほぼ消えているとはいえ、まだシーズン中。後任も未定なままだ。原因究明や再発防止案などで陣頭指揮を執るべきトップが辞任すれば、それこそ揚塩社長の言う「混乱の収拾」に遅れが生じることも懸念される。今回の辞任劇の前日にはグループトップである阪急阪神ホールディングス(HD)の角和夫代表取締役会長グループCEOが「けじめは必要。球団の管理責任は当然、問われますよね」と発言したことが、サンケイスポーツなどで報じられていた。こうした背景も決断を促した一因とみられる。村上ファンドによる阪神電鉄株買収騒動を発端に、阪急と阪神が経営統合したのが2006年。今年6月には阪神球団のオーナーである藤原崇起氏(阪神電鉄本社会長)が任期満了で阪急阪神HDの取締役を退任するなど、球団運営における“バランス”も徐々に変化している。銀行内の政治や派閥を描いたドラマ「半沢直樹」ではないが、社内向けの「けじめ」が優先された感もある。

 ベイスターズ時代には、親会社であるDeNA本社の役員を辞めて“片道切符”で球団社長に就いた池田氏は、日本のスポーツ界の「親会社文化」について次のように説明する。

「(阪神のように)代表権のない球団社長は、いわば『社長という名の中間管理職』のようなものなのでしょう。問題が起これば矢面に立たされる要員、といってもいいかもしれません。関西では阪神の人気は絶大で、ファン全員が監督であり、球団OBからのプレッシャーも大きいと聞きます。その中で、いろいろな政治もあるのでしょうね」

 まさに球団社長が“とかげのしっぽ”であった今回の辞任劇。さらに、さまざまな企業の再生・再建で手腕を発揮してきた池田氏は、組織運営における一般論として、こう強調する。「組織や組織の在り方を本当に変えたいのなら全体をガラガラポンして、本物のリーダーをすえないと、ずっと同じ問題が続きます」。必要なのは、社内ではなくチーム・ファンを向いた経営。球団社長の外部からの登用や決定権を持つ人物の起用など、伝統球団にとって今こそ抜本的な改革を行う“チャンス”といえるのかもしれない。


VictorySportsNews編集部