衝撃を呼んだのは、10月20日、「FLASH」が掲載したベガルタ仙台のMF道渕諒平によるDV疑惑の記事だ。交際相手の女性に暴言を日常的に吐き、首を絞め、車で山中に置き去りにし、あげくは殴る蹴るの暴行を働いて宮城県警に逮捕された、という深刻な内容。スマートフォンのスクリーン越しに包丁を女性に突きつける写真もショッキングで、仙台は道渕との契約を解除した。積極的な選手補強が裏目に出て、2020年度の決算で3億5000万円もの債務超過が予想されることが9月に明らかになったばかりの仙台には最悪のタイミングといっていい。経営再建を目指してサポーターに募金を呼びかけていたが、道渕ショックの2日後に取りやめた。これに先立つ10月15日、J2のアルビレックス新潟でブラジル出身のFWファビオの酒気帯び運転が発覚していた。ファビオは罰金50万円の略式命令を受け、同乗していたスペイン国籍のFWペドロ・マンジー(起訴猶予)とともに契約解除になった。事案を把握しながらJリーグへの報告を怠っていた是永大輔社長も辞任に追い込まれるなど、波紋が収まらない、10月26日には、ガンバ大阪がFWアデミウソンの酒気帯び運転と接触事故を公表した。

 しびれを切らしたように、Jリーグの村井満チェアマンは「我々が地域の皆様に迷惑をかけるような存在だとしたら、地域における我々の存在意義を失うことにつながる」と厳しいコメントを発表した。Jリーグは、プロ野球を統括する日本野球機構(NPB)とコロナ対策の連絡会議を設置して、スタジアムをPCR検査の会場に提供し、未曽有のコロナ禍においてスポーツ界をリードしてきた。そうした努力が水の泡となり、むしろ管理責任が問われる事態になったことは悔やまれる。

 Jリーグやクラブがコロナ対策に傾注するあまり、異例の過密日程を消化する選手たちへの注意とケアが手薄になっていた側面は否定できない。一方で、「これだけ続くのは異常。不祥事が増えているというより、狙い打ちされている感じ」というクラブ関係者も。サッカー選手に対する社会の関心は、芸能人やプロ野球選手に比べて一般的に高いものではない。Jリーグのクラブは地方都市を含む全国に点在し、「現場」が東京でなければよほど目を引くネタでない限り週刊誌も取材に動かない。しかし、不祥事が相次げばニュース価値は高まり、通常ではメディアに取り上げられない案件までもが全国的に報道され、普段ならば世の関心を呼ばない記事が注目の的となる。典型的なのが、新潟のMF福田晃斗の「セクハラメール」疑惑だろう。今年8月まで在籍した湘南ベルマーレ時代に、チームメートの妻に「パンツちょうだい」などの破廉恥なメッセージを送っていた、と「女性セブン」が報道したのだ。取材に対して本人は、不適切な内容をLINEしたことは認めたものの、「パンツちょうだい」発言は否定。浦和レッズの元日本代表MF柏木陽介も元有名グラビアアイドルとの「不倫疑惑」が取り沙汰されたが、蓋を開けてみれば女性と2人で長時間飲み歩いていたという「肩すかし」の内容だった。

 ただ、過去から学ぼうとしないクラブと選手の姿勢は深刻だ。DV騒動の道渕は、明治大学から当時J1のヴァンフォーレ甲府に加入したばかりの2017年、別の女性の顔を殴るなどした暴行容疑で逮捕されている(後に不起訴)。当時、甲府は年内の公式戦出場などの処分を科したが、4カ月後には練習に復帰、翌シーズンもプレーさせた。道渕は2019年に仙台へ移籍したが、昨年末には早くも「仙台駅で女性を引きずっていた」という複数の目撃情報がインターネット上の掲示板でささやかれていた。こうした事実を把握していなかったのであれば、クラブの情報調査能力に疑問符が付く。把握した上でプレーさせていたのならば、危機管理能力の欠如だ。少なくとも今回「FLASH」が掲載した事案を仙台は8月に把握していたという。ならば、例え示談が成立したとしても、過去の経緯を踏まえて即座にピッチから遠ざけるべきだった。

 世界的にサッカー界は、能力のある選手・指導者の「再チャレンジ」に寛容だ。過去には住居侵入容疑で逮捕されてクラブを離れた選手が、別のクラブで再起し日本代表に招集されたのに、再び逮捕されている。女子高校生への淫行容疑で逮捕(後に起訴猶予処分)され、後に復帰を果たした選手もいる。パワハラなどの不祥事による失脚から、要職に返り咲く指導者は珍しくない。道渕は日本代表入りの可能性も囁かれる主力選手で、仙台の下部組織の出身でもあった。選手の立ち直りを支えようとするクラブの温情は理解できるが、それゆえに状況判断が甘くなればクラブと選手の双方にとって不幸な事態を招く。

 サッカー選手は、個人の資質に任されている部分が多く、拘束時間の少ない職業だ。試合は週に1、2回。試合がない日の全体練習は、極端に短いクラブであれば1時間足らずで終わることさえある。もちろん、自主練習や体のケア、専属トレーナーとのトレーニングに時間を費やす選手は多い。ベテラン選手やスタッフの多くは「今の選手は真面目。昔と違ってヤンチャな人間は減った」と語る。それでも自由な時間を持てあまし、道を外れる選手は出てくる。身を律するため、あえて厳しい環境を選ぶというのも一案。筆頭例が鹿島アントラーズで、茨城県鹿嶋市のクラブハウスや選手寮は歓楽街から遠く、100km離れた東京で遊び歩くのは簡単ではない。内田篤人が今年8月の引退セレモニーで「子どもたち、サッカー小僧の皆さん、鹿島は少し田舎ですが、サッカーに集中できる環境、レベルの高さ、いま在籍している選手が君たちの壁となりライバルとなり偉大な選手として迎えてくれるはずです」と呼びかけたのは、率直な忠告に聞こえる。

 Jリーグには、強化担当者が「選手がどこで遊んでいるかは大体わかっている」と豪語するクラブもあれば、人員に余裕がなく私生活は選手任せというクラブもあり、その監督能力には限界がある。そもそも、プロ契約のJリーガーは、クラブの従業員ではなく個人事業主で、本来はクラブと対等な立場にある。不祥事が続けば、サッカー人気の低落とクラブの経営不振を招き、Jリーガーの待遇悪化と社会的地位の低下に直結する。当事者である選手たちから、そんな流れに歯止めを掛け、Jリーガーのイメージを好転させようとする積極的なアクションが見られないのは不思議でならない。


VictorySportsNews編集部