「戦うことが怖い」浅倉カンナが語る本音

――浅倉さんが参加している『Unlim』は、連携メディアでアスリートの情報を発信することでより多くのファンからギフティングを集めることができる仕組みになっています。こうしたギフティングサービスの存在を知ったとき、どのように感じましたか?
浅倉 もっと自分のことを知ってもらえるチャンスだと思いましたね。格闘技は(地上波の)テレビでの放送があるからこそ知ってもらえている部分が大きいけど、「よくわからない」っていう人がまだまだ多い世界だし、選手人口も少ない。なので、もっとたくさんの人に知ってもらえる機会をもらえたのかなって。
――「まだまだ知られていないな」と感じることは多いですか。
浅倉 特に女子の格闘技はそうですね。初期から活動されてきた選手が道をつくってくれて、RENAさんが登場して大きく盛り上がって。そこに私は入ることができました。私が競技を始めたころに比べれば女子格闘技の裾野は広がってきていますが、選手もファンも、増える余地はまだまだあるんじゃないかなと思います。
――浅倉さんはYouTubeチャンネルを開設するなど、個人としての情報発信にも積極的に取り組まれていますね。
浅倉 自分の格闘技以外の部分についても知ってもらえるチャンスだと思ってやっています。今年はコロナの影響もあって表に出る機会がすごく減ってしまったので、YouTubeで自分のことを見てもらえるのはありがたかったですね。
――リングで戦っているときとは違う浅倉さんを見ることができる。
浅倉 はい、あれが“素”の自分です(笑)。あそこでキャラをつくってもちょっと違うかなと思うので。「浅倉カンナってこういう人なんだ」って思ってもらえればうれしいですね。
――一見すると格闘家らしくないところが浅倉さんの魅力でもある。試合について聞かれたとき、強がることなく「怖い」と言ったり。
浅倉 言っちゃいますね(笑)。試合に向けて練習している期間は、緊張もするし、いろんなことを考えて心がすごく疲れます。「もう勝てないかも」と思ったり、自分が思ったとおりに動けないのが悔しくて泣いちゃったり……。試合の当日になればビビったりすることはないんですけど。
――何が怖いですか?
浅倉 戦うことが怖いです。たとえばデビュー戦のとき、殴られるのはまだしも、相手を殴った感覚が怖くて。「あ、こういう感じなんだ」って。試合も、相手も、怖い。でも、そういう相手がいるからこそがんばれる、強くなれるのかなと思います。練習でしか怖さは消せないので。
――その「怖い」試合、次戦の見通しは立っていますか?
浅倉 詳細はまだですが、今年の年末になるかなと思います。タイトル(※)を懸けた試合ができれば。
※RIZIN女子スーパーアトム級は第2代王者ハム・ソヒ選手が王座を返上したことにより、現在は空位に。

「みんなのために」闘い続ける理由

――2018年の大みそかに浜崎朱加選手と初代王座を懸けたタイトルマッチを行い、敗戦しています。タイトル挑戦となれば、それ以来2年ぶりになりますね。
浅倉 当時は、試合が決まった段階では「絶対勝てない」と思ってて。練習して自信をつけて試合に臨んだけど、「まだ追いついてなかったな」と。あれから2年経って、自分も強くなったと思います。自分は、浜崎選手とハム・ソヒ選手というトップの2人を越えていかなきゃいけない選手。2人の強さを思うとちょっと気が遠くなることもありますけど、自分はまだまだ若手ですし、気合いを入れていかなきゃなって思いますね。
――2016年のデビューから再びタイトルを狙う位置まで来た浅倉さんのキャリアは順調のように思えますが、YouTubeの中で「格闘家としては恵まれていない」というお話もされていますね。
浅倉 それはレスリングをやっていたころからずっと言われています。もともと運動神経はそんなによくないし、ずば抜けたものは持っていなくて。それに闘争本能みたいなものもないんです。「優しさが試合に出てる」ってよく言われますね。だから、格闘技向きの性格ではないのかなって。
――それでも、ここまで来れたのは。
浅倉 運が良かったのかもしれません。あとは、特別なものを持っている選手ではないと自覚しているので、そのぶん時間をかけて練習をやりました。格闘技を始めたころはまだ高校生で、バイトもしていました。週の半分くらいしか練習に来れなかったけど、ジムに来れる日は夜の7時半から12時過ぎまでずっと練習。そういう生活を続けていました。でも、自分みたいに「才能がない」って感じている人たちはたくさんいると思うので、「諦めずにやっていればこんなふうになれるんだ」と思ってもらえたらすごくうれしいですよね。
――そういう姿を見せ続けていくうえでは、ファンの応援も大きな力になるかと思います。浅倉さんにとって、ファンはどういう存在ですか?
浅倉 デビューしたときから、母からずっと「みんなのために」と言われていて。いつも試合前に、写真とメッセージがついたカードを母からもらうんですけど、その最後には必ず「みんなのために」と書いてある。それを見るとすごく気合いが入るし、自分だけじゃないんだなって思います。自分が勝てばたくさんの人が喜んでくれて、うれしさが何百倍にもなる。逆に自分が負けちゃったら、みんなが悲しむし、その日のお酒は絶対おいしくないと思うんです。そう考えると、格闘技は一対一の競技ですけど、一人じゃないなって。ジムの先生や仲間がいないと練習できないのと同じように、応援してくれている人たちがいなきゃ格闘技は成り立たない。本当にありがたいなと感じています。
――ファンの方たちからギフティングされる側として、どんな思いでこれからの競技生活を送っていきたいですか。
浅倉 あらゆる面で、パフォーマンスでしかお返しはできないと思います。自己満足だけで試合をするのはプロじゃない。お金をもらっている以上は、みんなに響く試合をしたいです。それによって格闘技がもっと盛り上がって、もっとたくさんの人に格闘技を知ってもらえるように。その最先端にいる選手になりたいですね。


日比野恭三

1981年、宮崎県生まれ。PR代理店勤務などを経て、2010年から6年間『Sports Graphic Number』編集部に所属。現在はフリーランスのライター・編集者として、野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを取材対象に活動中。