世界が固唾をのんで見守った会見で、三木谷会長から発表されたのは、神戸との2年間の契約延長の合意だった。ほぼほぼバッドニュースを覚悟していたサポーターからは、歓喜の声が広がった。神戸の公式YouTubeのコメント欄には「いやまじでありがとうとしか言えん」「日本を第2の故郷って言ってくれたのがうれしい」などと喜びの声が書き込まれた。

日本サッカー界にとっては非常に喜ばしい。ただ手法は…

 世界的スーパースターがこのコロナ禍極まる日本に残って、しかもあと2年間もプレーしてくれるという〝逆誕生日プレゼント〟。日本サッカー界にとっては非常に喜ばしいこことであり、大多数のサポーターは素直に喜んだが、その一方で肝を冷やしたファンや、今回の会見の手法に関して否定的な人も少なからずいたようだ。SNSには「しかし、まじで引退かと思った。神戸ビビらせやがって」「イニエスタ契約延長は大歓喜案件だけど人の心を弄ぶような発表の仕方はとても嫌いです」「重要な記者会見って煽ってて結局延長だったのね。Jでプレーしてくれることは嬉しいけど、重要な〜ってただ事じゃない・・・って心配してた人たちが可哀想だわ。」というコメントも見られた。

 “イニエスタが東京で三木谷会長と一緒に会見を開きます”という情報が一部メディアにもたらされたのは、11日の会見の2日前だった。神戸に関していえば、三木谷会長が同席する大きな発表会見について、事前に日時と場所を報道陣に伝えられたことは、これまでも何度かあった。報道各社も急に呼びつけられて、集まれるものではない。その場合、会見そのものの開催も含めて事前に書かないでほしいという〝縛り〟がセットになるケースが多く、今回も2日前の段階ではそうだった。

 ところが、翌10日夕方、突如「イニエスタ選手に関する重要な記者会見」を公式YouTubeでライブ配信するとクラブのSNSで発表があった。意味深な予告を見て「イニエスタは引退か、退団なんだろうなあ」と考えていたファンにとっては、2年間の契約延長はビッグサプライズとなった。だが、前段が前段だけに興ざめした部分も否めない。イニエスタのJリーグ残留というハッピーなニュースでありながら、もやもやとした違和感を覚えた。

 その「重要会見」では2社の代表質問の後、報道陣の質問の挙手がオンライン上で複数挙がっていたのにもかかわらず、地元紙の質問だけ応えて打ち切られた。「会見のていをなしていない。ただYouTubeの再生回数を稼ぎたかったのでは」と話す関係者もいた。まさか、楽天がスポンサーを行う神戸ほどのクラブがそんな小さなビジネスを考えているとは思えないが…。今回の会見のやり方について、「重要」にされなかった出席メディアの間で問題視する声が多く、今後クラブとの話し合いを求めていくという。

ドッキリは不要。相応の品格や、ふさわしい振る舞いを求めたい

 これだけのビッグネームである。契約延長に当たり、年俸ダウンに協力してくれたとはいえ、相当額の年俸を払うことは間違いない。ならば、世界中の耳目を集める会見にしたいという意図はよく分かる。人事に限らず、三木谷会長からの超トップダウンによる直前の変更は、楽天グループではよく起こることは知られた話でもある。だからといって、いわゆる〝釣り〟のような煽る仕掛けまで必要であっただろうか。

 コロナ禍が続き、クラブとメディアの関係も大きく変わった。当然のごとく、夜討ち朝駆けなどの人海戦術は姿を消し、オンライン取材がもっぱら。練習もほとんど非公開。最近のオンライン会見では一切質問もせず、パチパチとキーボードだけを叩く記者、ライターも少なくない。クラブは都合の良い情報だけ流し、それを受け取るのとネットサーフィンが仕事と思い込んでいるフシのメディアもある。クラブの公式サイトやSNS、YouTubeを使っての発信は有効で、より重要さを増しているが、それでもファンに対する必要最低限の作法や礼儀というものがあるだろう。

 今回、「重要」と銘打たれたライブ配信会見を見て「イニエスタ、引退ちゃうんかい!」と突っ込んだファンがいたことも確か。サプライズと呼ぶには少々芝居がかった演出の片棒を担ぐ形になった三木谷会長の感想も聞いてみたいものだ。神戸がイニエスタというスターを擁し、アジアを足場に世界に出ていくビッグクラブを目指すのであれば、安っぽいドッキリは不要。それ相応の品格や、ふさわしい振る舞いというものも同時に求められていくことだろう。ただ、今までの楽天の手法を鑑みると、そうはならないのではないかと思ってしまうのは何故だろうか…。


VictorySportsNews編集部