2015年4月から明治のプロテインブランド「ザバス」とアドバイザリー契約を結び、管理栄養士のサポートを受けてきた大谷は、高タンパク質・低脂質の食生活にこだわっている。鶏ささみや胸肉などの脂質の少ない食材を好み、食事だけでは摂りきれない栄養素をプロテインで補ってきた結果、北海道日本ハムファイターズに入団した当初は80キロ台だった体重が今や100キロを優に超え、鎧のような肉体を手に入れている。

ストイックなトレーニングや食生活であれほどまで体を鍛え上げるのは、ひと昔前はアスリートやボディビルダーなど一部の人だけの取り組みだったが、このところ一般にも急速に普及してきた気がする。

24時間営業のスポーツジムが全国展開し、日常的にトレーニングができる環境が広まったことに加え、日本人の長時間労働と生産性の低さが問題視されるようになり、働き方改革が進んだことも関係しているかもしれない。仕事の速度と濃度を従来以上に高めなければならないので、起床時間から食事の摂り方、終業後の時間の過ごし方までワークライフバランスを抜本的に見直す人が増えた。

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かつて明治の関係者に話を聞いたところ、「ザバス」は1980年の発売からしばらくの間は“お荷物商品”で、「商品名の読み方すら分からない」と社内で酷評されていたという。それが21世紀に入ってから適切な栄養素を適切なタイミングで摂取することの重要性が広く知られるようになり、一気に人気商品となった。

今や一般の筋トレユーザーもトレーニング直後の筋肉が最も発達しやすい時間帯“ゴールデンタイム”に「ザバス」などのプロテインを摂取するのが常識になっており、ランチタイムにコンビニエンスストアで「ザバス」とサラダチキンと野菜サラダの3点セットを購入する人がものすごく増えた。サラダチキンや野菜サラダの商品ラインナップも以前とは比較にならないほど豊富になっている。

そんなニーズに対応すべく、飲食チェーンも様々な取り組みを行っている。牛丼大手の吉野家は2019年5月からプライベートジムのライザップ公認商品である「ライザップ牛サラダ」を販売。牛肉をベースに鶏もも肉・玉ねぎ・ブロッコリー・キャベツ・豆類・半熟玉子を盛りつけたボウルサラダで、ボディメイクにぴったりの高タンパク質・低糖質メニューとして人気を博している。

定食レストラン「やよい軒」を373店舗展開している株式会社プレナスも、9月17日から「筋肉定食」というユニークな名前のメニューを全国で新発売する。こちらのメイン食材は皮なし鶏もも肉のステーキで、定食のごはんの代わりにキャベツサラダを選択することもできる。ごはんをキャベツサラダにした場合はカロリーが415kcal、タンパク質が45.1gになり、同社の定食の中で最もカロリーが低く、最も多くのタンパク質が摂れるメニューだ。

やよい軒のW・筋肉定食(にんにく醤油)

このメニューを開発した狙いについて、マーケティング本部販売企画課の山木美穂さんは次のように語る。

「コロナ禍で健康意識が少しずつ変わってきていることに加え、タンパク質ブームが起きていることも背景にあり、そのような需要にどうやって応えられるか考えて開発しました。鶏肉でヘルシーに仕上げようとすると、ささみ肉や胸肉を使用することが多いと思うのですが、当社ではおいしく召し上がっていただいて体作りもできるようにジューシーな鶏もも肉を使用し、カロリーやタンパク質などのバランスを考えて皮を取り除きました」

「ごはんの代わりにキャベツサラダを選択できるようにしたのは、健康を意識している女性は夜に炭水化物を摂りたくないという需要や、野菜を先に食べるベジファーストで糖質の吸収をコントロールしたいという需要がありますので、当社のこだわりであるごはんを一回はずして、この商品を楽しんでもらおうと考えました。社内でも議論はありましたが、店内で召し上がっていただく際はキャベツサラダを食べ終わった後に“ごはんおかわり自由”が利用できますから、フレキシブルな内容になっているのかなと思います」

新型コロナウイルス流行の長期化により、ほとんどの人が従来とは違った生活スタイルへの変更を余儀なくされている。リモートワークが増え、通勤日数が減ったことで一日あたりの活動量が激減し、それがきっかけで運動を始めたり食生活を見直したりするなど、健康に対する意識が確実に変わっている。仕事帰りに居酒屋をハシゴし、シメのラーメンを食べてから千鳥足で家路につく昭和のオジサンのような夜の過ごし方は完全に過去の遺物となるだろう。

大谷の活躍には到底及ばなくても、令和のビジネスパーソンは日々の食事とトレーニングで常にコンディションを整え、仕事で高いパフォーマンスを発揮することが求められる時代になりそうだ。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。