国内の新規感染者数は依然として多いものの、ワクチン接種が進むなど状況が変化してきている中、オリパラ後のスポーツイベントの形はどうなっていくか。一つの方向性を示すことになりそうな二つの大会を前に、主催する国際体操連盟(FIG)の渡辺守成会長は「東京オリンピック・パラリンピックのレガシー(遺産)として、いろんな人たちの心に残る大会になってほしい」と思いを語った。


世界体操の2021年大会は当初、デンマークのコペンハーゲンが会場に決まっていた。しかし、コロナ禍で経済的な打撃を受けたことを理由に開催を返上。五輪と同じ様に、世界選手権も開催費用が大きな負担となっており、招致に動く都市は限られてきているのが現状だ。世界新体操も21年大会の会場がなかなか決まらない状態が続いていた。この状況で開催を受け入れたのが、渡辺会長の出身地でもある福岡県と北九州市。昨年11月、コロナの感染拡大後では国内で初めて行われた国際大会「友情と絆の大会」で、二つの世界選手権を北九州市で開くことが発表された。両大会が同じ都市で行われるのは史上初めてのことで、関係者の移動が減ることなどによって別々の都市で開催するよりも経費の削減が見込めるという。


コロナの収束がまだ見通せない状況の中で、大会開催へのハードルは依然として高い。世界体操、新体操の組織委員会は立ち上げ当初から中止や延期、無観客での開催など、「あらゆる可能性を排除しない」というスタンスで議論を重ねてきた。最終的にはFIGや地元自治体、専門家を交えた会議で開催地の感染状況が改善傾向にあると判断され、通常開催が決定。オリパラは無観客となっただけでなく、大会に関わる自治体や企業も予定していた多くのイベントを見送らざるをえなかっただけに、渡辺会長は「東京オリンピック・パラリンピックで(関係機関は)いろんな事をやりたかったが、コロナの影響で10分の1もできなかった。少しでもこの大会で実現したいというのが正直な気持ち」と話す。自治体や企業と協力して地域の活性化や、「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けた取り組みも積極的に進める方針を打ち出した。


スポーツ大会の開催は選手や関係者、観客内での感染者発生を抑えるため、万全の体制を整える必要がある。海外から選手を招く国際大会となれば、必要になる準備はさらに増す。体操は約60、新体操は約50の国・地域から選手が参加予定。今回の世界選手権でも、組織委員会は当初の感染対策費用を2大会で合計2億円と見込んでいたが、政府との調整を進める中で選手の移動時の対策強化やPCR検査の頻度増加が必要となり、対策費用は約2・5倍に膨らんだ。さまざまなリスクをはらむ中でも主催者や開催自治体はスポーツの力に期待し、オリパラで生まれた「熱」をつないでいきたいとの思いもある。北九州市の北橋健治市長は「北九州市からスポーツの力で、全世界に夢と感動が広がるよう願っている」と話し、日本体操協会の藤田直志会長は「これから、さまざまなスポーツ大会が日本で開催されるようになってほしい。今回の大会が参考になるように成功させていきたい」と強調した。


国際大会の開催に慎重になっている競技も多い中、体操は「友情と絆の大会」を開催するなど、積極的に動いてきた。渡辺会長によると、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は「体操が“友情と絆の大会”で五輪への扉をこじ開けた」と評価し、今回の世界選手権が五輪イヤーを締めくくるイベントになることを期待しているという。


観客にとってはオリパラではかなわなかった、会場で世界最高峰のプレーを生で目の当たりにできる機会となり、選手にとっても家族らに晴れ姿を披露できるチャンスでもある。体操男子で初の世界選手権に臨む、福岡市出身の米倉英信(徳洲会)は「家族とかに大舞台を見てもらえると考えると、普段の大会より気持ちの入り方は違う」と力を込める。日本からは五輪で個人総合と種目別鉄棒の2冠に輝いた橋本大輝(順大)、女子で種目別床運動銅メダルの村上茉愛(日体ク)や、北九州市生まれの内村航平(ジョイカル)らが出場する。体操や新体操では通常、五輪イヤーに世界選手権は開催されないが、東京五輪延期に伴い同一年に開かれることになった異例の今大会。今後のスポーツイベントにバトンをつないでいけるか、選手や運営側には大きな注目が集まっている。


VictorySportsNews編集部