井上尚弥の試合は実施予定

 14日の両国国技館には井上が登場。これは現状開催できる予定ではある。ずばり、試合に関してはよほどのことがない限り挑戦者アラン・ディパエン(タイ)に負けることはあるまい。であるにもかかわらず、人気は上々――期待されるのは井上のモンスター級の強さである。

 井上の国内試合は2019年11月のノニト・ドネア(フィリピン)戦以来。コロナ禍の2年間はラスベガスで2連続KO勝利(1試合は無観客興行)とあって、生でモンスターのファイトを観戦したいという日本のファンの欲求も最高潮のタイミングではある。

 チケットは最も高いところ(SRS)で15万円の値がつけられた。当日は谷口将隆(ワタナベ)が王者ウィルフレド・メンデス(プエルトリコ)に挑むWBO世界ミニマム級戦や元K-1王者武居由樹、松本圭佑(ともに大橋)らホープの試合も行われるが、一番いい席の金額はやはり井上をこの目で観たいファンを対象に設定されたものと言っていい。

 試合の放送がテレビの地上波ではなく映像配信サービスによるPPV中継(3960円)となることも話題になっている。井上本人はこれに見合う勝ち方をすると宣言しているから、重圧は感じていないようだ。

村田、久々の試合は来春に持ち越し

 井上戦の2週間後(29日)にさいたまスーパーアリーナで行われるはずだった世界ミドル級王座統一戦。村田が帝王ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)と激突。この一戦は「日本史上最大のビッグマッチ」というプロモーションもなんら大げさではない。ゴロフキンが来日できないアクシデントで来春に延期となったが、本当に来春に実現して欲しい。

 ゴロフキンはかつて持っていたWBA王座を19度防衛し、世界タイトル戦で17連続KO勝ちしたハードパンチャー。PFP1位のサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)とは1分1敗ながら、いまも第3戦の実現が注目される世界的なトップファイターだ。幾多の名チャンピオンを輩出したミドル級の史上ランキングでも上位に位置付けられよう。

 1試合で1500万ドルも稼ぐスター。来日して試合に備えるゴロフキン陣営のためのホテル代だけで4000万円近くになる予定だったという。村田のファイトマネーも日本人最高額間違いなしとされ、興行経費は「20億円興行」といわれた1990年のマイク・タイソンの世界ヘビー級戦を上回る見通しだった。

 こちらの観戦チケットは1万1000円から22万円。今後このようなメガファイトが日本で行われることは難しい、といわれるのも納得の規模なのである。

 さらに注目すべきは試合を日本で中継するのがアマゾンの「プライムビデオ」であることだ。アマゾンプライム会員であれば追加料金なしで視聴することができる。アマゾンのボクシングビジネス参戦は、日本のみならず世界でも注目されるところである。

今年最高の好カードも持ち越し、新型コロナに翻弄されるTBS

 また、大みそかに試合を行う予定だったのは井岡。WBOスーパーフライ級王者の井岡は今回、ライバル団体IBFの同級チャンピオン、ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)との対戦だった。日本人男子初の4階級制覇を成し遂げた井岡が待ちに待った統一戦であった。こちらも残念ながら来春以降に試合が持ち越された。

 昨年暮れ、田中恒成(畑中)の挑戦を跳ね返してその実力をあらためて示した井岡。残るは「階級唯一のチャンピオン」の称号だったが、その目標に近づく一戦となる。スーパーフライ級は井岡、アンカハスのほかWBAとWBC王座にフアン・エストラーダ(メキシコ)が君臨し、全階級を通じてもハイレベルな顔ぶれである。アンカハスに勝利して2団体王者となり、エストラーダに頂上対決を持ちかけるつもりだが、スケジュールに少し狂いが生じた。

 アンカハスはあのマニー・パッキャオ2世とも称される攻撃的なサウスポーで、IBF王座を9連続防衛中。これは現役チャンピオンで最多記録である。井岡本人が過去で一番の強敵と評す強敵だが、井岡の技とアンカハスの攻撃力の激突はまず予想が難しく、「今年最高の好カード」という声も上がっていた。

 井岡-アンカハス戦はこれまで通り、TBSが放送する予定だったが、井岡側もTBS側も大きな痛手となった。TBSはすでにCM枠の販売や告知枠の活用などを開始していたところで延期が決定。穴埋めするコンテンツの問題もあり頭を抱えている状態のようだ。この試合が実現していれば、井岡の大みそか戦は4年連続10度目で、世界タイトルマッチに限っても9度目。本当に楽しみだっただけに残念だ。

 ここ10年で、年の瀬に大きな試合を行うのが日本のボクシングの恒例行事となっていた。今後、コロナウイルス感染拡大が落ち着き、風物詩として長く継続されるのかどうかはわからないが、その時期の海外リングは大体お休みだから、あちらのファンや関係者の注目が集まりやすいという“メリット”はある。

 というわけで、これまで以上に世界から日本のリングに熱い視線が注がれるはずだった今年の暮れ。かくも豪華なラインナップが、あらゆる面で制限されるコロナ禍にあって打ち出されていたが、結局井上尚弥の1試合のみが実施予定。

 最後の最後まで油断ができないのがコロナウイルス感染拡大によるイベントへの影響。この1試合だけはなんとかやり遂げて欲しい。こればかりはもう祈る気分だ。


VictorySportsNews編集部