「どのウェアを着ても、どの服を着ても、今までは柄モノが多かったんですよね。もともと服が好きなんですけど、それが一周して無地がいいと感じるようになっていたタイミングでした。シャツなんかは普段から着ていたし、柄やデザインで勝負するのではなく色や機能性を追求しているところは、貫き方がすごくカッコいいなって」

 ユニクロのアンバサダーに就任する前、同ブランドに対してどのような印象を抱いていたのかについて語る平野歩夢。スノーボード・ハーフパイプで2大会連続オリンピック銀メダリストの男が、ユニクロのアウターウェアを着る──。その事実を初めて耳にしたときは正直、驚きを隠せなかった。

 それはそうだ。契約を交わした2018年時点で、ユニクロにスノーボードウェアは存在しない。さらに、耐水・透湿性を備えた商品はあれど、雪山を含めた過酷なアウトドアフィールドでの着用は想定されていない。あくまで街着がメインのブランドだからだ。

「最初はすごく意外だったし、全然ピンときませんでした。でも、平昌(オリンピック)が終わってこれからどうしていくかを考えているタイミングだったこともあり次第に、新たな何かを一緒にやっていける可能性を感じるようになりました」

 平昌五輪までの4年間、平野は「圧倒的な滑りで金メダルを獲る」と公言してスノーボードに取り組んできた。事実、同五輪での平野の滑りは当時のハーフパイプ最高難度だったと断言できる。ダブルコーク1440(縦2回転と横4回転を同時に行う技)とダブルコーク1260(縦2回転と横3回転半を同時に行う技)をそれぞれ左右の壁で連続して成功させ、なおかつそれらを4連続で決めたのだ。

 対する金メダリストのショーン・ホワイトのランは、バックサイド(進行方向に対して背中側の壁)で行うダブルコーク1260の代わりに、より縦方向への回転軸が強いダブルマックツイストを組み込んでいた。トリックにわずかの違いはあったものの、縦・横方向への回転数は変わらない。平野の滑りと比較したときに見えてくる大きな違いは、それぞれの連続技の間に540(1回転半)を入れて“呼吸”を整えなければ、ショーンはそれら4つの超大技をルーティンに組み込むことができなかったことだ。

 公言どおり圧倒的な滑りを実現したが、結果は伴わなかった。4年間、一心不乱に頂点を目指していた平野は生き方を模索することに。その大きな決断として選択したのは、スケートボードで東京五輪を目指すという茨の道。「スケートボードがオリンピックの正式種目になった以上、スルーするわけにはいかない」とユニクロのアンバサダー就任発表会見で発言し、いわゆる“二刀流ライダー”としてのスタート地点に立った。

”ウエアを作る”取り組みへの挑戦について、「自分の中でも新しい可能性を求めたかった」と語る

「いろいろと想像していく中で、どんどん興味が湧き出してスタートした感じです。自分の中でも新しい可能性を求めたかったから、ユニクロと一緒にやっていこうと決めたんです」

 これまではスノーボード界のトップブランドや大手スポーツブランドから“与えられた”ウェアを身にまとい、ハーフパイプを主戦場としてライディングに明け暮れてきた。しかし、ユニクロとの取り組みは“ウェアを作る”ことから始まっている。

「いろいろと細いことを言わせてもらっている部分もありますね(笑)。スノーボードでこういうことに携われるのは、かなり貴重な経験だと思いますし、今までの自分にはできなかったこと。滑ることだけでなく、ものづくりに関わっていくモチベーションも必然的に上がっています」

 「滑っているときもテンションが上がる」と平野は付け加えた。スケートボードで1年延期となった東京五輪出場を目指す傍らで、2020年10月にスイスで雪上復帰を果たし、2021年4月には札幌で行われたSAJ(全日本スキー連盟)全日本選手権大会に出場。その会場で平昌五輪以来、およそ3年ぶりに平野の滑りを生で観たのだが、たたずまいも含めて“歩夢らしさ”がこれまで以上に強調されているように感じた。スタイリッシュなライディングスタイルもさることながら、彼独特のオーラを強烈に感じたのだ。

 その理由を探るべく、平野自らが監修し着用している「ハイブリッドダウンスノーボードパーカ」の特徴について訊いてみた。

「自分らしいサイズ感を重視して、着丈も長くなりすぎないように注意を払い、これまでの既存のウェアよりもシンプルなものをイメージして作りました。軽いだけではなく、“暖かくて軽い”ウェアに仕上がっています。余計なものはすべて取り除き、サイズ感とデザインのバランスを意識しました。まだ調整中の部分はありますが、自分の理想に近づいていますね」

 滑りで己を表現する平野にとって、大会で勝つことがすべてではない。いかにカッコいい滑りで人々を魅了することができるか。そのうえで勝つことにこだわっている。カラーやデザインはもちろん、シルエットも含めて平野のライディングスタイルと化すわけだから、身にまとうウェアが重要であることは言うまでもない。自分に合ったウェアを“選ぶ”のではなく“作れる”ことは、アンバサダー冥利に尽きる。

「いつかやってみたいと思っていたことを今、ユニクロと一緒にやれている。ありがたい話です。これからがさらに楽しみですね」

 アンバサダーとしてスノーボードにまたがっているときやスケートボードに乗っているときだけでなく、食事しているときも就寝中も24時間365日、平野はユニクロを身にまとっている。

「スケボーに行くときも普段着のまま、という感じです。デザイン的な部分で主張がないところがすごく気に入っています。柄とかデザインに頼るのではなく、無地なのにサイズ感とカラーバリエーションでカッコよくコーディネートできるのが魅力ですね」

「部屋にいるときも寝るときもすべてユニクロで、自分のこだわりに対する不満もなくずっと着ています。そのうえで、靴下一足やTシャツ一枚のことでも、“これどうなのかな”っていう新しいアイデアなどを投げかけてコミュニケーションを取らせてもらえることは、服好きの自分にとってとても幸せなことなんです」

 普段着と競技のウェアが時として「シームレス」に繋がっていること、それはユニクロにとっての常識を変える服の在り方であり、平野がそれを体現しているように感じた。競技を含めた彼の生活をより豊かにするため、平野はLifeWearであるユニクロとともに生きている。



北京五輪前独占インタビュー<前編・了> 後編に続く

平野歩夢とともに飛躍するユニクロ、雪山でも街中でも使えるハイブリッドダウンスノーボードパーカ(平野歩夢モデル)共創秘話【PR】

ユニクロは12月6日、グローバルブランドアンバサダーを務める平野歩夢選手のこだわりを突き詰めた本格的スノーボードパーカを2,000着限定で販売する。2019年から毎年冬に限定販売してきたアイテムを今年さらにアップデートし、黒×グレーの新カラーを採用。平野選手自身が競技の際に使用するものとほとんど同じ機能、同じデザインで、軽さ、動きやすさ、暖かさを追求。

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「ユニクロ、冬のスポーツウェアはじめました!」 高温多湿の東京、極寒の北京五輪を支える商品開発の秘話に迫る

東京五輪の感動の余韻が残る中、2022年2月には北京五輪の開幕を迎える。「ユニクロ」は東京に続き、スウェーデン選手団に公式ウェアを提供する。フリースタイルスキー/スノーボード、モーグル、カーリングの競技用ウェアも手がける。屋内と屋外、晴天と吹雪など大きな寒暖差が予想される中、競技の瞬間に最高のパフォーマンスが発揮できるように。セレモニーやトレーニング、移動や休息時などあらゆるシーンで快適に過ごせるように。21人のトップアスリートで構成するチームブランドアンバサダーの声に耳を傾け、LifeWearとして“クオリティ(高品質)”“イノベーション(革新性)”“サステナビリティ(持続可能性)”を追求した。

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野上大介

1974年、千葉県生まれ。大学卒業後、全日本スノーボード選手権ハーフパイプ大会に2度出場するなど、複数ブランドの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。2004年から世界最大手スノーボード専門誌の日本版に従事し、約10年間に渡り編集長を務める。その後独立し、2016年8月にBACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINEのウェブサイトをローンチ、同年10月に雑誌を創刊した。X GAMESやオリンピックなどスノーボード競技の解説者やコメンテーターとしての顔も持つ。