この感染拡大がなければ、この2月から3月にかけては、卒業旅行や春休みなどのシーズンに入り、沖縄の温暖な気候を求める観光客を見込んでいた面もあるだろう。2月頭からは県内各地においてプロ野球の各球団(9球団)がキャンプを開始し、それに合わせてファンや関係者など多くの人が沖縄に訪れることで沖縄一体が盛り上がる―、2年ぶりに、そんなシーズンの始まりを告げるような球春になるはずだった。
昨年、2021年のこの時期の沖縄は、新型コロナウイルス感染症がまん延し、医療提供体制がひっ迫。1月20日から2月7日までを期間とする沖縄県緊急事態宣言を発出するもひっ迫状況に改善が見られなかったため、2月28日までに期間延長された。
この年のキャンプは無観客での実施となったが、2022年シーズンは、NPBが開幕から規制を最小限にした有観客での開催を目指しているため、「まん延防止」発令中の沖縄キャンプも有観客開催となり、昨年に比べメディア取材も規制が緩和された。(もちろん地元住民との交流イベントなどは引き続き中止となっている。)
ただ、報道各社も、キャンプ中継のスタッフは配置しつつも、北京五輪の開催期間中ということもあり、評論家やレポーターの派遣は見送りし、記者とカメラマン1名ずつ(記者のみの社もある)など最小限のスタッフを送るに留めていた。
一方で、新庄剛志”BIG BOSS”が指揮を取る日本ハムファイターズのキャンプ地・名護は、3連休初日の11日(金・祝)には、朝から多くのファンが集った。新庄監督の古巣でもある阪神タイガースとの練習試合ということもあり、在京・在阪・北海道メディア合わせて数十台のTVカメラと記者、関係者、解説者が現地を訪れており、さすがは新庄フィーバーといったところだ。
行動が制限される中での選手のストレス解消法
「4勤1休」を1クールとした厳しい練習を行いシーズン開始に向け調整をしていく選手たちにとって、有観客でのキャンプは見られていることでの緊張感があり気合が入る一方で、ホテルと球場の往復に行動が制限されてしまっていることは、昨年同様ストレス解消が難しいキャンプになっていることだろう。
コロナ禍前は、選手同士や、地元で応援してくれているファンや後援会、取材に来た記者との食事などがキャンプの醍醐味であり、選手にとっての息抜きになっていた。記者たちにとっても、選手との食事の場が独自のネタを仕入れる場所だった。シーズン中にはできない交流などもあるのがキャンプの醍醐味だった。
今回、休養日には、球団によっては20時までという条件付きで4人未満の外食が許されているところもあるようだ。だが、選手を含む関係者たちは、もし感染した場合、無症状だったとしても一定期間の隔離、そして他の選手たちにうつしてしまうリスクを考えると、実際のところは気楽に食事に行くこともできない。1クールに1度、チーム関係者全員がPCR検査を行う厳戒態勢の中で、うかつな行動はできないのだ。
一部球団では無症状の感染者報告なども出ている。変異株は感染力も強く、複数人での外食を避け十分に注意をしていたとしても罹患するリスクはあり、シーズン前の大事な時期にわざわざリスクとなる行動はしないだろう。
あるOBは、「レギュラーやローテーションが確約されていない選手、とくに若手や、今年こそ、という選手にとっては、キャンプやオープン戦はアピールの場。隔離となるとシーズンに直結して響くため、リスクは0にしたいというのは選手としても球団としても当たり前。また、誰が見ているかわからない場所に行くほど、選手も馬鹿じゃない」と語る。
2021年シーズンは、外国人の来日が遅れたベイスターズがシーズン序盤の負けが終盤まで順位に影響し、序盤に新型コロナにかかったことで年間通じていつも通りのパフォーマンスが出せなかったベテラン選手もいた。今シーズンに関して言えば、各球団昨年まで所属していた外国人選手はキャンプ中盤から既に合流できていることから、今年の新戦力に期待してしまっている巨人などはシーズン序盤をどう乗り切るかが鍵になるだろう。東京オリンピックの影響でシーズンが11月まで延びたことで、オフが短くなり、うまく休息できなかった選手にとっても、2、3月の調整は非常に重要になってくる。
では、ホテルに缶詰になっている選手はどのように息抜きをしているのだろうか。
休養日のゴルフは、選手たちとって1つのリフレッシュ方法になっているようだ。また、日本ハムの伊藤大海は、息抜きに沖縄のきれいなビーチを散歩している様子などもSNSでアップしている。また、スワローズの村上宗隆や田口麗斗らはホテルの自室からInstagramでのライブ配信をしてファンと交流したり、イーグルスでは選手同士(川島慶三と銀次)のYouTubeライブを公式で実施している。若い選手間では、プロスピや、オンラインゲームなども流行っており、ホテルで缶詰のキャンプは2年目を迎え、過ごし方も慣れてきたのかもしれない。
野球選手が来ない夜の街
一方で、野球選手が来なくなった街はどうであろう。取材で訪れた「まん延防止」解除前、20時を過ぎた那覇市の歓楽街である松山は、県の条例などを無視した飲食店やキャバクラが一部営業しているものの、それ以外は開いておらず、賑わいもない状況だった。「オフの前日に有名な飲食店に行けば、誰かしら選手がいた」という光景はない。
野球選手のサインなどが飾られ、沖縄料理など郷土料理を提供する飲食店の店長は「キャンプになると毎年のように顔を出してくれていた選手やコーチたちに、美味しい沖縄料理を食べさせてあげられなくなってしまったことはとても残念。ですが最近はどこでコロナになるかもわからないから、選手たちがコロナにかからないことが一番」と語った。
以前は選手が訪れていたというバーのオーナーは、「この時期は、コロナ前は野球選手も毎晩飲みに来てくれていたけど、昨年からはゼロ。選手と繋がりたい、経営者や、一部ファンなども来て盛り上がっていたのが懐かしい。年末は多くの観光客が沖縄に来て、結果爆発的な感染拡大があったので、今は大人しく閉めているお店も多い。来てくれていた頃は安心して飲んでもらえるようにしていたが、今は「安心」なんて提供できない。お店を閉めて協力金をもらっているけどギリギリだと思う」と苦しい声をあげていた。
2月の冬の沖縄では、プロ野球選手やファンたちが夜の街にお金を落とすことでの経済効果は大きく、その意味でもこの時期のオミクロン株のまん延は、沖縄県にとっても大きな影響を及ぼしたことだろう。球春と呼べる盛り上がりは来年春までお預けだ。
それでも結果がすべての野球選手にとって、雪が降るなどまだまだ寒さが続く地域に比べて10度以上気温が高く、昼間は半袖半ズボンで快適にトレーニングできる沖縄の環境はやはり最適。夜の誘惑も減り、野球にしっかりと集中する環境になったからこそ、伸び悩んできた選手や、若手の活躍、春先の選手たちのスタートダッシュには注目したい。