ウインドサーフィンの星

 サーフボードにセールと呼ばれる帆をつけ、水面を滑走するウインドサーフィン。最高速度が時速50㌔に達するスリリングさと迫力を併せ持ち、五輪ではセーリング競技の1種目として実施されている。神奈川県出身の新嶋は父の光晴さんがプロ選手だった影響で6歳から本格的にウインドサーフィンを始め、小学生時代から全日本ジュニア選手権を5連覇するなど早くから頭角を現した。2014年には中国で開催された南京ユース五輪で7位入賞。慶大に在籍しながら全国レベルの大会を制するなど正真正銘のホープだ。

 昨年の東京五輪まではRS:X級という種目で行われてきたが、パリ五輪では艇種が変わって「iQFOiL級」が新たに採用される。水中翼の影響で全風域でもスピードが出やすいとされる最先端のジャンル。新嶋はこの変更に的確に対応し、昨年のiQFOiL級の全日本選手権で優勝した。ウインドサーフィンは波や風向きなど自然との闘いでもある。体力はもちろん、冷静な判断力もパフォーマンスを大きく左右。総合的な人間力を試される中で経験値を高め、着実に力を伸ばしている。

 海外遠征などで必要経費がかさむだけに、今回の所属契約は新嶋にとって心強いバックアップになりそうだ。「応援してくださることを心より感謝しております。私の強みは幼い頃から養われた感覚、そして最年少強化選手ならではの勢いだと思っております。エリエール所属のアスリートにふさわしい素敵な女性として世界で活躍し、2024年パリ五輪の代表枠をつかみ取りたいと思います」と謝意を込めてコメントしている。

加速する〝先行投資〟

 他でも女性アスリートと企業の契約が目を引く。プロゴルフが好例だ。若手の台頭で活況を呈しており、男子ツアーをしのぐ勢いが続いている。昨季の日本ツアー賞金女王で、東京五輪銀メダリストの稲見萌寧が楽天グループと所属契約を結んだ。プロゴルフではウエアやキャップなどの各所にスポンサーのロゴが記されるなど、人気選手ともなれば複数の契約が当たり前。その中でも、所属契約はメインスポンサーの位置付けで、スポーツ紙をはじめとするメディアや試合会場で紹介されるときには明示される。

 稲見のようなトップクラスだけではないのが昨今の特徴だ。例えば、鶴岡果恋と小倉彩愛が明治安田生命と、佐藤心結はニトリといずれも所属契約を結んだことが今年に入って発表された。ツアー未勝利で18歳から22歳の年齢幅。将来の活躍はもちろん、競技に対する姿勢や立ち振る舞いが企業側のブランドイメージ向上に資すると見込まれる場合が多い。いわば〝先行投資〟の形で若い選手のスポンサーになっている。

 五輪では、昨年の東京大会のスケートボード女子で西矢椛(ムラサキスポーツ)や四十住さくら(ベンヌ)が金メダル獲得、今年の北京冬季大会ではスノーボードの岩渕麗楽(バートン)が大技挑戦で注目を浴びるなど、若手選手が新風を吹き込む出来事が光る。東京五輪は1年延期となったため、次回のパリまでのインターバルは、通常の4年に1度よりは短い。新嶋を含め、有望株には早々にスポンサー側も接触する流れが加速している。

女性活躍社会の一助に

 早くから後援が付くことに慢心せず、好成績を挙げたり、より魅力的な選手になったりするのは本人の努力次第だが、一連の潮流は女性の待遇改善につながる側面を持つ。3月8日は国連の定める「国際女性デー」で、世界各地で男女のジェンダー平等を求める声が相次いだ。日本は男女間格差の大きさを指摘されて久しい。英誌エコノミストはこのほど、先進国を中心とした29カ国を対象に、女性の働きやすさを指標化した2021年のランキングを公表。日本は残念ながら下から2番目の28位だった。ちなみに首位は2年連続でスウェーデンだった。また、世界経済フォーラムが昨年発表した「男女格差報告」(ジェンダー・ギャップ指数)で日本は156カ国120位と低迷。先進7カ国(G7)では63位のイタリアから大差の最下位だった。

 社会に風穴をあける力がスポーツにあるならば、アスリートが自らのフィールドで輝き、経済的にも後ろ盾を得ることは、女性の生き方の選択肢を広げる社会への一助になることも想定される。例えば、新嶋と契約を結んだ大王製紙はこれまで女子プロゴルフツアーの「大王製紙エリエールレディスオープン」を主催したり、東京都女子学童・中学軟式野球大会を支援したりと女性が活躍するスポーツの舞台を提供。今回も「夢に向かって進む女性を応援する企業として、スポーツが持つ力を信じ、夢の実現に向けてひたむきに挑戦し続ける新嶋選手をサポート」と契約の理由を説明している。

 今年は大きな総合国際大会が待っている。9月に中国で開かれる杭州アジア大会。新嶋は国内の選考会を経て日本代表に内定した。人気向上の起爆剤になり得る新嶋が、さっそうと海面を進んでいく姿が待望されている。

高村収

著者プロフィール 高村収

1973年生まれ。1996年から共同通信のスポーツ記者として、大相撲やゴルフ、五輪競技などを中心に取材。2015年にデスクとなり、より幅広くスポーツ報道に従事