世界タイトルマッチだけで22勝20KO1敗1分の怪物ゴロフキンに挑んだ村田が大奮闘。一時はゴロフキンを倒すのではと思わせる見せ場をつくり、最終的に勝利を手にすることはできず散ったが、ビッグファイトにふさわしい中身だった。劇的な幕切れの後もしばらく誰も席を立とうとしない会場――。

 勝ったゴロフキン、そして敗れた村田にいつまでも拍手していたいような感動を覚えたのは、両選手が互いに払い続けたリスペクトも大きな要因だったろう。対戦の決定から戦い終えてのコメントまで、これほど相手への尊敬にあふれた試合もない。

ゴロフキンの人格に日本中が虜に

 日本のファンは昔から来日外国人ボクサーに優しかったが、GGG(トリプル・ジー)の記憶も末永くここ日本で語り継がれていくに違いない。リングの強さのみならず、プロフェッショナル意識、そしてその人格をファンは愛し続けるだろう。

 試合の3日後には、スポーツ庁の室伏広治長官がゴロフキンの宿泊先に出向いて面会し、トレーニング談義などに花を咲かせた。異例のことである。

 振り返れば、試合前の最終会見。両選手に対して、コロナ禍でこのビッグマッチができることについて、どう思うかという質問があった。

「世界の状況は本当に大変です。このイベントにこぎつけた皆さま、すべての関係者、そしてプロモーター、政府の方も含めてあらためて感謝を申し上げたい。想像を超えるような作業があったのではないかと思います。頑張ってくださった皆さまの期待に応える試合にしたい」

 ゴロフキンのパーフェクトな回答には村田も「復唱するしかない」と苦笑いするしかなかった。

 ゴロフキンの感謝が本物である証拠に、3月31日の来日後は、練習場所である帝拳ジムへの行き来以外は試合まで一歩たりともホテルを出なかったという。もちろんこれはイベントを台無しにしないための感染予防で、ゴロフキンはチームのスタッフにも同様の外出規制を求めたそうだ。ここまで徹底してくれたら、滞在中はホテルを1フロア貸し切りにした(約4500万円の費用)主催者側も報われる。

 前日の公式計量では、この日が40歳の誕生日のゴロフキンと双子のマキシム・トレーナーに対しサプライズの花束が贈られた。チャーミングなスマイルを浮かべて感謝するゴロフキンに、その場に残った村田も拍手で祝福した。

 そして二人の紳士は戦士になってリングで持てる力を惜しみなくぶつけ合った。打撃戦の最中には、パンチが低打になった村田が戦闘モードを一瞬解いて謝り、ゴロフキンも「気にするな」とでも言うようにグローブで応じる。そんなシーンもあった。

日本人好みのチャンピオン

 ゴロフキンも村田同様にフェアなファイターである。第3戦が噂されるサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)とは過去の接戦(1分1敗)の結果はもとより、カネロのドーピング疑惑に対するゴロフキンの敵愾心も相当だといわれている。カザフスタンの炭田都市から身を起こし、アメリカにわたって強さに見合った評価を得るまで長くかかった。不遇な時期も経験したチャンピオンだけに、アンフェアなことは大嫌いなのだ

 その意味では、ゴロフキン対村田戦は誠実さを尊ぶ日本のファンにとくに受けるマッチアップだったともいえよう。日本ではプライム・ビデオが満を持して仕掛けた今回の一戦がすばらしいものであったことは、今後にもつながる――6月7日には第2弾、井上尚弥(大橋)対ノニト・ドネア(フィリピン)の世界バンタム級王座統一戦が行われる。”モンスター“井上尚弥にとって”最後”のバンタム級の戦いになるのか、ドネアの左拳が“モンスター”をどこまで苦しめるのかなど今から楽しみすぎる再戦だ。お互いをリスペクトし合うレジェンドの領域にいる2人の闘いがゴロフキン戦の2ヶ月後に日本で観られることをボクシング関係者に感謝したい。


VictorySportsNews編集部