1億ユーロ超の移籍金による取引がいくつも成立した数年前に比べ、新型コロナウイルス禍もあって、ここ2年ほどの欧州の移籍市場は一時期よりは持ち直したとはいえ、全体的に落ち着いた印象がある。南野がリバプールに移籍したのは、ちょうど新型コロナが世界的な猛威を振るう直前の20年1月で、移籍金は725万ポンド(約11億6千万円、1ポンド=160円で換算)だったとされる。選手の「価値」を示す一つの目安である移籍金。南野は、この2年半で自身の「価値」を上げることに成功した。同時に、今回の移籍からはモナコの高い期待がうかがえる。

 ポール・ミチェルSDはクラブ公式サイトで「タクミをASモナコに迎えることができ、大変嬉しく、興奮している。私たちは彼のことを長年にわたって知っている。ヨーロッパに来てから、特にUEFA(欧州サッカー連盟)大会で最高レベルの経験を積んだ。数々のタイトルも獲得してきた。ピッチ上のさまざまなポジションでプレーでき、日本代表の中心選手としての地位を持っており、そんな彼がわれわれのチームの成長に貢献し、目標達成に力を貸してくれると確信している。われわれのプロジェクトの一員となることを決断してくれたことをうれしく思う」と歓迎のコメントを発表している。

 南野の移籍金は本場欧州のクラブ間で成立した日本選手の移籍の中でも屈指の金額だ。最も近い数字は2012年夏の香川真司(現シントトロイデン=ベルギー)で、ボルシア・ドルトムント(ドイツ)からマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)に移籍した際、当時ファーガソン監督が率いた「赤い悪魔」は1600万ユーロ(約22億4千万円)、出来高込みで2千万ユーロ(約28億円)という値段を日本のMFにつけた。

 ドルトムントで国内2連覇を達成した主力で、しかも当時23歳と選手として上り坂にあったことを考えれば、金額そのものはもっと高くてもよかったのではないかという印象さえ受ける。ただし、12年夏に成立した移籍の最高額はDFチアゴシウバ(ACミラン→パリ・サンジェルマン)の4200万ユーロ(約58億8千万円)、攻撃的な選手で最も注目されていたエデン・アザール(リール→チェルシー)も4千万ユーロ(約52億円)だったといわれる。相対的にみれば香川の評価は欧州内でもトップクラスに近いものだったことが分かる。

 今オフの南野はどうか。今夏は、これまで(7月11日時点)のところ、モナコからレアル・マドリード(スペイン)に引き抜かれた22歳のフランス代表MFオレリアン・チュアメニの8千万ユーロ(約112億円)、ベンフィカ(ポルトガル)からリバプールに移籍したウルグアイ代表FWダルウィン・ヌニェス(23)の7500万ユーロ(約105億円)が最大級の移籍で、ともに出来高を含めると総額1億ユーロ(約140億円)に達するという。いずれも南野の移籍元、あるいは移籍先のクラブが絡んでおり、南野が欧州のトップクラブに身を置いていることをあらためて感じさせる。

 出来高を除いた額で2人の移籍金との比較を見ると、南野の5~5・3倍の数字。10年前の香川がトップ選手の約半分だったのに比べ、同時代のマーケット規模を基にした評価で言えば、南野は当時の香川の立ち位置には及ばないという見方もできる。

 別の面からもう一つ参考にしたいのは、今夏に南野と同じリバプールからバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)へ移籍したセネガル代表のマネ(30)だ。3200万ユーロ(約44億8千万円)という移籍金でドイツ王者に加入し、3年契約を結んだ。出来高は900万ユーロ(約12億6千万円)とされ、南野の2倍強の金額に相当する。

 リバプール時代の実績は南野が55試合出場で14ゴール、マネが269試合出場で120ゴール――。もちろん、数字だけで測れない部分もあるが、マネがリバプールで残したスタッツは南野を圧倒している。事実、南野はリバプール所属だった間、マネ、サラー、フィルミノの強力3トップの牙城を崩せず、後から加入したジョタにも定位置争いで先を越される格好となっていた。

 移籍金は移籍元のクラブとの契約がどのくらい残っているか、さらに選手自身の年齢、そしてタイミングなども絡んでくる。マネは16年にサウサンプトンから3400万ポンド(約54億4千万円)とされる移籍金でリバプールに加入した。実績からすれば、リバプール側は今回もっと高い金額にこだわってもよかったかもしれないが、Bミュンヘンとの交渉の末に30歳になったストライカーの移籍金は比較的抑えられた。

 マネとの相対評価で言えば、高い移籍金ともいえる南野の移籍だが、ここで大きな影響を及ぼしたと想像できるのが、前述したチュアメニの移籍である。モナコは将来性豊かなフランス代表を放出することで莫大な資金を確保し、それをもって新戦力を積極的に獲得できる状況を整えた。27歳で選手としてのキャリアのピークにさしかかっている南野に対し、合計1800万ユーロという金額を惜しまずに投入できた背景の一つといえるだろう。過去にもキリアン・エムバペ(モナコ→パリ・サンジェルマン)やハメス・ロドリゲス(モナコ→レアル・マドリード)の例があるように、もともとモナコは若手を発掘し、高額な移籍金でビッグクラブへと売却して資金を調達することが得意なクラブでもある。

 南野は「ASモナコに加入できたことは大きな喜び。素晴らしい伝統があり、フランス1部リーグ(リーグ・アン)でも知名度の高いクラブで、この非常にエキサイティングな計画に参加できることをとてもうれしく思っている。チームのためにできる限りのことをしたいと思う」と意気込みを述べている。

 昨季はリバプールで二つのカップ戦で計7ゴールを含む公式戦10ゴールを挙げたとはいえ、大事な試合では起用されず、悔しい思いをした。欧州チャンピオンズリーグ(CL)決勝でも出番は巡ってこなかった。W杯を控え、日本代表では三笘薫(ブライトン)が台頭。左ウイングの定位置争いも目が離せず、南野自身もモナコで出場時間を増やして存在感を高めたいことだろう。3回戦から登場する予選を突破できれば、最高峰の欧州CLにもチャレンジできる。20チームで争うフランス1部リーグは8月5日開幕する。モナコは6日の今季初戦で、川島永嗣が所属するストラスブールと顔を合わせる。

ASモナコ 公式サイトより
土屋健太郎

著者プロフィール 土屋健太郎

共同通信社 2002年入社。’15年から約6年半、ベルリン支局で欧州のスポーツを取材