選考でベースとなるのは9月のドイツ遠征に招集された30人だ。森保監督は約10日間の合宿中にカタールW杯のシミュレーションも行っており、8割方はここから選ばれると見る。また、W杯アジア最終予選では昨年10月のオーストラリア戦から4-3-3へとシステムを変更してW杯切符をつかんだものの、9月のドイツ遠征は2試合とも4-2-3-1にシステムを戻して戦った。本大会の相手(ドイツ、コスタリカ、スペイン)を見ての判断であり、このあたりも選考に影響を与えるだろう。

【DF】

 9月のドイツ遠征で招集されたのは9人。その中で、2試合のいずれかに先発した8人は選出が濃厚だ。右サイドバックは今年2月以来の代表復帰ながら、米国戦で対人守備で強さを見せた酒井宏樹。11カ月ぶりに復帰した冨安健洋は米国戦で前半はセンターバック、後半は所属するアーセナルと同じ右サイドバックでプレーし、圧巻の予測能力を発揮したほか、スピード対応でも能力の高さを示した。

 主将の吉田麻也は選出に疑いがない。昨季は所属チームで出場機会減に苦しんだが、今季移籍したシャルケでほぼ全試合にフル出場していることもプラス材料。ただ、裏を取られた時の対応に不安が残る。その意味でも冨安は欠かせない。

 左サイドバックは9月のエクアドル戦で強度の高い相手に対する力強さを見せた長友佑都と、着実に力をつけている中山雄太。長友は所属チームで右サイドバックをやり、中山はボランチもできる。左サイドバックとセンターバックの両方ができる伊藤洋輝、右サイドバックの山根視来、センターバックの谷口彰悟も選ばれるだろう。

 この8人に加え、負傷のため9月の招集が見送られた板倉滉はリハビリが順調という情報があり、選出濃厚だ。

長友佑都(F東京)
吉田麻也(シャルケ)
酒井宏樹(浦和)
谷口彰悟(川崎F)
山根視来(川崎F)
中山雄太(ハダースフィールド)
冨安健洋(アーセナル)
伊藤洋輝(シュツットガルト)
板倉滉(ボルシアMG)

【MF/FW】

 4-3-3から4-2-3-1へシステムが戻ったことで、序列を上げた選手と逆に下がった選手がいる。ただ、序列を下げた選手もこれまでの実績は重視されるはずだ。ダブルボランチは、もはや彼がいなければ成り立たないほどの存在になっている遠藤航と、今季ポルトガルの名門・スポルティング移籍後より一層成長を加速させている守田英正。4-3-3システムの中で台頭し、W杯最終予選で日本を救うゴールも決めた田中碧は序列を下げた1人だが、選出に疑いはない。森保監督は第2戦のコスタリカ戦でターンオーバーを視野に入れており、出場チャンスは多いと見る。攻撃的なタイプという意味で変化をつけられる柴崎岳にはフィジカル面に弱点があるが、起用のされ方を見ればメンバー入りは堅い。

 攻撃的MF陣で序列を上げたのは、ドイツ遠征時の囲み取材で一時はメンバー落ちの覚悟もあったという趣旨のコメントをしていた久保建英。左サイドハーフとして先発した米国戦で課題だった守備面の向上を見せた。今季は所属チームで絶好調。直接FKなどセットプレーのキッカーとしても相手に脅威を与えられるだろう。久保のさらに上を行く好調ぶりを示している鎌田大地、日本の攻撃の最大の武器となっている右サイドハーフの伊東純也も間違いなくメンバー入りするだろう。代表のピッチで実力を発揮しつつある堂安律も当確。10月14日の試合で右足を負傷した三笘薫もW杯には間に合うと報じられており、選出は堅い。

 あふれる闘志を一滴も漏らさずプレーに投影し、なおかつ高い機能性を発揮できる原口元気は、交代枠が3人から5人になったことでユーティリティーとしての優位性が若干下がった感があるが、調子を落としているのが心配な南野拓実も含め、森保監督としてはいざというときに頼れる選手として見ているはずだ。

 1トップは、猛烈なチェーシングで米国をてんてこ舞いにさせた前田大然が序列を上げていると見る。得点力はあまり期待できないかもしれないが、ピッチに立った時の有効性は高く、良いオプションになりそう。一方でエクアドル戦に先発した古橋亨梧は森保ジャパンで機能できておらず、評価を下げた。

 そして注目は大迫勇也。今年3月以降は代表に招集されていないが、その間も森保監督の頭の中には復調待ちの席が用意されていたように感じられる。ここに来て所属チームで好調を示しており、選出の可能性が俄然高くなっている。

 また、9月に右膝を負傷して戦線離脱中の浅野拓磨は、代表スタッフの説明から推量するとW杯には間に合いそう。1トップでもサイドハーフでもできる浅野は、回復さえ順調ならメンバー入りしそうだ。

大迫勇也(神戸)
原口元気(ウニオン・ベルリン)
柴崎岳(レガネス)
遠藤航(シュツットガルト)
伊東純也(スタッド・ランス)
浅野拓磨(ボーフム)
南野拓実(モナコ)
守田英正(スポルティング)
鎌田大地(フランクフルト)
三笘薫(ブライトン)
前田大然(セルティック)
堂安律(フライブルク)
田中碧(フォルトゥナ・デュッセルドルフ)
久保建英(レアル・ソシエダ)

【GK】

 9月のドイツ遠征以降に風雲急を告げる状況になったのがGK陣の選考だ。順当なら正GK候補ナンバー1の権田修一、サブにシュミット・ダニエルと川島永嗣という3人のユニットが最右翼と見られるが、遠征初戦の米国戦で権田が負傷し、途中交代。早々に帰国して治療を行ったが、所属する清水のJ1再開初戦となった10月8日の川崎F戦では相手選手との軽い接触後に再び途中交代。2週間後の10月22日にあった磐田戦ではフル出場を果たしたが、この時期の2試合連続途中交代は不安が残る。また、ドイツ遠征で株を上げたシュミットは10月にベルギーメディアが「脚に2センチの筋断裂を負った」と報じており、直近3試合を欠場している。川島は所属のストラスブールで今季公式戦に出場していない。

 10月18日のメディア対応で日本代表の下田崇GKコーチが「PKのスペシャリスト」という言い方ではあるにせよ、4枠に広げる可能性に言及したのは、それだけ選考が難しい状況であることを示している。そもそもPKストップなら川島が一番だ。

 もっとも、森保監督はGKを3枠とする意向を示しており、最終的には3人の選出に落ち着くだろう。仮に4枠に広げるとすると、ここまでの流れから谷晃生が入るのではないか。

川島永嗣(ストラスブール)
権田修一(清水)
シュミット・ダニエル(シントトロイデン)※負傷状況によっては谷晃生(湘南)



 最後に、選出の可能性は薄いと言わざるを得ないものの、言及しておきたい選手がいる。所属のセルティックでその活躍ぶりが高く評価されているMF旗手怜央だ。中盤から左サイドバックまで幅広くこなす、攻撃を持ち味とするユーティリティー。9月のドイツ遠征は2試合とも出番がなかったが、第2戦のエクアドル戦後にはピッチ上で森保監督と長く話し、森保監督がその場を離れると今度は横内昭展コーチから数分間にわたって何かを言われていた。W杯メンバーに入ればこれぞサプライズ招集となるが、現在の調子を見れば期待したくなるのは当然とも言える。

 いずれにせよ、明日発表される運命の26人で挑むW杯本戦では苦戦を強いられることが予想されるが、近年の日本代表戦士の欧州5大リーグでの活躍ぶりを考えると、全く歯が立たないことはないだろう。伊東や三笘のドリブル突破や鎌田の大舞台での勝負強さに加え、デュエルマスター遠藤の安定感など、確実に4年前と比べるとレベルアップしている。目標とするベスト8入りを果たすことを期待したい。


矢内由美子

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。ワールドカップは02年日韓大会からカタール大会まで6大会連続取材中。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。