11月18日、金曜。日本対ドイツ戦が行われるハリファ・スタジム近くの巨大ショッピングモールは世界中から集まったサポーターで夜遅くまであふれかえっていた。ユニホーム姿で目立つのはカタールとは地理的に近いアフリカ勢。モール内にはFIFA公式ショップもあり、スポーツブランドのショップ数も多い。日本では土日が休日だがカタールでは金曜と土曜が週末にあたるため、地元の人々も多く、フードコートでは8人、10人など大勢でテーブルを囲むファミリー層の姿も目立っていた。

各国のサポーターが集まる街中の様子

 まずは食事をしようとフードショップに向かうと、もはやカオス状態だった。どのショップも長蛇の列で、テーブルは満席。食事が終わりそうなテーブルの近くで様子をうかがいながらどうにか席を確保し、仲間同士で順番にフードを購入したが、食事にありつけたのはフードコートに着いてから1時間近くたった後だった。

 それでも、W杯開幕による高揚感があるせいか、さほどストレスには感じない。あらゆる場所で目にするW杯関連の装飾にワクワクさせられながら、筆者は、具材やソースをカスタマイズしてオーダーするパスタとコーラを注文すると、しめて49カタールリヤル(約1900円)なり。W杯プライスと円安のダブルパンチが現地での生活費に大きく響くことを実感しながら食欲を満たした。ちなみに味はまずまずの美味しさだった。

 カタールには11月20日から12月18日のW杯期間中、約120万人が訪れると見込まれているが、開幕の約1週間前の時点で既にハマド国際空港の入国レーンには長蛇の列が出来ていた。空港内は、成田空港のさびしさとは正反対の大賑わい。乗り継ぎ客の人数も半端なく、24時間空港の威力をあらためて感じた。W杯のボールであしらわれた装飾の前や、免税ショップは大勢の客でごった返していた。

撮影:矢内由美子

激震が走ったアルコール販売中止の一報

 開幕へ向けて機運の高まりを肌で感じる日々を過ごしていた18日、まさかのニュースが飛び込んできた。FIFAが、W杯期間中に予定していた8つの試合会場周辺でのアルコール販売を中止すると発表したのだ。

 カタールはイスラム教国であり、公共の場での飲酒は禁止されている。しかし、サウジアラビアほど厳格ではなく、値段は日本と比べてかなり割高(ビール1杯2000円弱程度)だが、21歳以上なら特定のホテル、レストランでは飲酒できる。11月開催とは言え、昼間は30度近い日が続いており、W杯で独占的にビールを販売できる権利を持つバドワイザーは多くの売り上げを期待していたはずだ。

 開幕直前で急転して方針が変わった背景には、飲酒を巡るトラブル発生への懸念があるという。実際、W杯観戦のために訪れる人々が取得を義務づけられている「HAYYAカード」を提示すれば、地下鉄が無料になるとあって、地下鉄駅はまだ開幕前なのに大勢の訪問客でごった返している。セキュリティー係が拡声器とプラカードで出入り口へ誘導してはいるが、とにかく利用者が多いため、混雑が酷い。

 また、今大会は会場間の距離が近く、1日に2試合をはしごして見ることも可能だ。試合終了後、次の会場に向かおうと急いで移動するファンもいるだろうという中、会場周辺でビールの販売があれば酔客も出てくるし、場合によってはトラブルの発生も考え得る。

 ここで思い出されるのが、韓国ソウルの梨泰院雑踏事故や、インドネシアのサッカー会場での事故だ。2つとも10月に起きた事故で、いずれも100数十人が死亡。死因の多くが圧死だった。カタールで国際的な大規模イベントが開催されるのは今回が初めてであり、安全なイベント運営能力が備わっているかどうかは未知数な部分がある。アルコール販売中止の報には驚いたが、リスク回避につながるのは間違いないだろう。

 ちなみに、公園内などに設置されているファンゾーンなどでは予定通り販売されるとのことで、ビール500ミリリットルが約50カタール・リヤル(約1900円)だという。そう気軽には何杯も飲めない値段だ。

撮影:矢内由美子

 気候に関してはどうか。カタールの11月の最高気温の平均は29度、最低気温は21度。昼間は暑いが灼熱のイメージとは異なる。実際、ここ1週間の体感だけでも少しずつしのぎやすい気温になってきており、12月になればもっと過ごしやすくなる。2011年1月のアジア杯取材時には長袖の上にジャケットを羽織っていた記憶だ。W杯中はそこまで気温が下がることはないだろうが、日本対スペイン戦は12月1日の22時キックオフ。移動の際はおそらく半袖では寒く、薄手の羽織り物があると便利だろう。ちなみに試合会場には冷房設備があり、22度に保たれるという。

急ピッチで新設されたスタジアム建設の背景

 さて、筆者はカタールW杯の開催が決まった2010年以降、ドーハには数回来ているが、気温40度以上の昼間、激しい砂埃が舞う工事現場で働く大勢の移民の姿を見て心配になったことがあった。報道によると、移民労働者は何ヶ月、何年も休日なしに働かされているというレポートが報告されているといい、この12年で約6500人の移民労働者が命を落とし、その中にはスタジアム建設に従事していた人々もいる。カタールW杯では8つの試合会場のうち7つが新設のスタジアムだ。

 デンマークサッカー協会はこの人権問題に抗議するため、ユニホームのデザインを地味なものにして大会に臨む。同協会は「私たちは、何千人もの人々の命を奪ったトーナメント中に目立ちたくありません」との声明を出している。イングランド代表は、キャプテンのハリー・ケインが差別反対の意思表示として「OneLove」のキャプテンマークを巻いてプレーすると表明したことも話題となった。盛り上がりが高まるカタールW杯。世界にはこのような動きがあることも認識しながら大会を楽しんでいきたい。

矢内由美子

著者プロフィール 矢内由美子

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。ワールドカップは02年日韓大会からロシア大会まで5大会連続取材中。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。