4月に行われる準々決勝で、ACミランとナポリは直接対決する。欧州サッカー連盟(UEFA)によると、欧州CLの決勝トーナメントでイタリア勢による対決が実現するのは2004/05年シーズンのミラノ・ダービー以来、実に18シーズンぶりのことだ。ナポリは決勝トーナメント1回戦で鎌田大地と長谷部誠が所属するアイントラハト・フランクフルト(ドイツ)に完勝して、クラブ史上初の欧州CL8強に名乗りを上げた。今大会、決勝トーナメント1回戦を終えた時点で最多の25ゴールを挙げている攻撃力が最大の魅力といっていい。一方のACミランは欧州CL優勝7度を誇る名門。欧州最高峰の大会での成功体験という「伝統」において、ナポリを上回っている。

 組み合わせ抽選を受けて、ナポリのルチアーノ・スパレッティ監督は「イタリア勢とはぶつからない方がよかった。ACミランはCLで7回優勝しており、レアル・マドリードに次いで2番目だ。パリ・サンジェルマン(フランス)やマンチェスター・シティー(イングランド)のようなチームは、ヨーロッパでの経験がなく、優勝を目指すのに苦労しているというのを読んだことがある。もしその通りなら、CLではACミランが有力だと言わざるを得ない」と、経験の面からしてナポリが不利な立場にあることを率直に認めている。

 対照的に、ACミランのステファノ・ピオリ監督は「私たちはミランだ。ナポリは強いし、リーグ戦では我々よりうまくいっているが、CLはCLであり、ミランはミランだ」と自信を見せている。

 セリエAではナポリが勝ち点74で首位を独走している(2位はラツィオで勝ち点58、3位がローマで同53、ACミランは同52で4位、インテルは同51で5位=4月9日現在)。ただ、4月2日にナポリのホームで行われたリーグ戦ではACミランが前後半に2点ずつを奪って、4―0でナポリに大勝。CLでの激突を前に、ACミランが心理的に優位に立ったといっていいだろう。快勝したナポリ戦で2ゴールのポルトガル代表FWレアンや、フランス代表のベテランFWジルーらを前線にそろえる。ただ、その一戦でナポリはリーグ戦で21ゴールと大ブレークしてセリエAの得点王争いトップに立つFWオシムヘンが筋肉系の負傷のため欠場した。CLに間に合うか微妙な情勢だが、ナイジェリア代表のストライカーの回復具合が試合結果を大きく左右しそうだ(第1戦は日本時間4月13日、第2戦が同4月19日)。

 イタリア勢のもう1チーム、インテル・ミラノはベンフィカ(ポルトガル)と準々決勝で対決する。この試合の勝者が準決勝で顔を合わせることになっているため、インテルが勝ち上がれば、それはすなわちイタリア勢が決勝の舞台に立つことを意味する。イタリア勢のCL制覇は2009/10年シーズンのインテル・ミラノが最後。その後は頂点には届かなかったものの、ユベントスが2014/15、16/17年シーズンにそれぞれ決勝まで進んだ。イタリア勢の決勝進出となれば、それ以来で6シーズンぶりの出来事となる。

 インテルは1次リーグでバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)の後塵を拝したものの、バルセロナ(スペイン)との対戦を1勝1分けで乗り切り、C組2位で突破した。ベスト8まで勝ち上がったのは、長友佑都が在籍した2010/11年シーズン以来12季ぶりで、当時は準々決勝での内田篤人のシャルケ(ドイツ)との「日本人対決」で注目された。

 今季のインテルは今大会8試合のうち5試合で無失点という守備の堅さが売りだ。ポルト(ポルトガル)との決勝トーナメント1回戦では2試合とも相手にゴールを与えず、しぶとく勝ち上がった。対するベンフィカはナポリに次いで今大会23ゴール(同じく決勝トーナメント1回戦終了時)を記録しているチームで、インテルの守備力が問われることになるだろう(逆にインテルの攻撃陣はマルティネスやルカク、ジェコらがいるが、今大会は8試合11ゴールでベスト8に残ったチームの中では最少得点にとどまっている)。

 チームを率いるのはシモーネ・インザーギ監督。現役時代はFWとしてラツィオ(イタリア)などでプレーした(兄は点取り屋として知られるフィリッポ・インザーギ)。指導者としてはラツィオ、インテルでそれぞれコッパ・イタリアを制し、タイトルを獲得。昨季は決勝トーナメント1回戦でリバプール(イングランド)に2戦合計1―2(0-2、1―0)で惜しくも敗れたが、今季は昨季越えられなかった壁を見事に乗り越えた。インザーギ監督は準々決勝へ向けて「素晴らしい雰囲気の中での2試合となるだろう。ベンフィカはとても強く、伝統あるチームだ」と静かに闘志を燃やしている。

 かつて1990年代のころは世界最高峰と称され、ACミランやユベントスが欧州サッカーをリードした時代があった。1988/89年からの10シーズンは、ACミランが3度、ユベントスが1度、CLを制している(1992/23年からCLに改編。それまでは前身の欧州チャンピオンズカップ)。それだけでなく、その10シーズンの間にACミランは2度、ユベントスも2度、サンプドリアも1度準優勝しており、10シーズンのうち実に9シーズンでイタリア勢は決勝の舞台に立った。それほど、イタリアは欧州サッカーの中心にいた。(その後はレアル・マドリードやバルセロナといったスペイン勢、あるいはイングランド勢が大会で成功を続けており、イタリア勢はその影に甘んじてきた。)

 たった1シーズンで、欧州のサッカー勢力図が変わることはないだろうし、今季ベスト8に勝ち残っているチームの顔触れからすると、優勝候補はイタリア勢とは反対側のトーナメントの山に入った前回王者のレアル・マドリード、バイエルン・ミュンヘン、マンチェスター・シティーあたりが順当なところだろう。2006年のワールドカップ(W杯)制覇や、2021年の欧州選手権優勝という歓喜もあったことは確かだが、近年のイタリア・サッカー界は暗い話題が多かった。2006年に発覚したカルチョ・スキャンダルや、2018年、2022年のワールドカップ(W杯)予選敗退が、その最たるものだろう。それだけに、欧州サッカーの大舞台であるCLでイタリア勢が躍進を続けることは、ある種のノスタルジーを呼び起こすのである。


土屋健太郎

共同通信社 2002年入社。’15年から約6年半、ベルリン支局で欧州のスポーツを取材