ただし、統合を発表した直後から選手たちの間で批判的な意見が続出している。6月27日に開催された選手会ミーティングでは、ロリー・マキロイ(北アイルランド)をはじめとするPGAツアーメンバーが連名で「今後締結されるPGAツアー、DPワールドツアー、PIFとの契約には選手の承認を必要とする」という声明文を発表した。

 リブゴルフとの統合を秘密裏に進めたPGAツアーのジェイ・モナハン会長には批判が集中し、体調不良を理由にしばらくの間、業務から離れることが発表された。

 また、7月11日に上院議会の小委員会が行う聴聞会に、モナハン会長とPIF総裁のヤシル・アルルマヤン氏とリブゴルフCEOのグレッグ・ノーマンに召喚状が送付されたと報じられている。新団体の会長にアルルマヤン氏、最高経営責任者にモナハン氏が就任したが、その2人に対して上院議会が契約の内容について説明を求める展開になっている。

 したがって現時点ではまだ先行きが不透明だが、そもそもリブゴルフとはいったいどんなゴルフ団体で、PGAツアーはなぜ敵対視していたのか。それがここに来て急転直下、統合に向けて動き出したのかを推察してみたい。

 リブゴルフは前述のとおりサウジアラビア政府系ファンドのPIFが立ち上げた新しいゴルフリーグで、2022年6月9日に開幕した。48人の選手が12チームに分かれ、3日間54ホールのストロークプレー(予選落ちなし)で個人戦と団体戦を同時に行うという試合フォーマットで開催されている。

 PGAツアーがリブゴルフを敵対視していたのは、主力選手を多額の契約金で次々に引き抜いたからだ。メジャー6勝のフィル・ミケルソン(米国)、メジャー5勝のブルックス・ケプカ(米国)、メジャー2勝のダスティン・ジョンソン(米国)とマーティン・カイマー(ドイツ)とバッバ・ワトソン(米国)、2020年全米オープン覇者のブライソン・デシャンボー(米国)らがリブゴルフに移籍した。

 PGAツアーは引き抜きに対する対抗措置として、リブゴルフに移籍した選手はPGAツアーに出場できないと通告した。それでも選手の流出は止まらず、2022年全英オープン覇者のキャメロン・スミス(オーストラリア)はメジャー初制覇を手土産にリブゴルフ参戦を決断した。

 一方で、PGAツアーに忠誠を誓う選手も多く、これ以上の人材流出は起こらないと見られていた。2023年に入ってからの移籍はミト・ペレイラ(チリ)、セバスチャン・ムニョス(コロンビア)、トーマス・ピータース(ベルギー)といったメジャー未勝利の選手たちで、PGAツアーの興行にとって大きな痛手になるとは思えなかった。

両者にとってのビジネス上のメリット

 リブゴルフの2023年シーズンは14試合がラインナップされた。2月にマヤコバ(メキシコ)で開幕し、2戦目がツーソン(米国アリゾナ州)。3戦目がオーランド(米国フロリダ州)。4戦目がアデレード(オーストラリア)。5戦目がシンガポール。6戦目がタルサ(米国オクラホマ州)。7戦目がDC(米国バージニア州)。8戦目がアンダルシア(スペイン)で開催された。

 残すところ6戦。9戦目がロンドン(イギリス)。10戦目がグリーンブライアー(米国ウェストバージニア州)。11戦目がベドミンスター(米国ニュージャージー州)。12戦目がシカゴ(米国イリノイ州)。13戦目がマイアミ(米国フロリダ州)。最終戦がジッダ(サウジアラビア)。最終戦のスケジュールは11月3~5日となっている。

 PGAツアーは8月24~27日のツアー選手権(米国ジョージア州)で2022-2023シーズンが終了し、9月14~17日のフォーティネット選手権(米国カリフォルニア州)で2023-2024シーズンが開幕する。DPワールドツアーは11月16~19日のDPワールドツアー選手権(UAEドバイ)で2023年シーズンが終了する。

 PGAツアーを含む3団体は2023年シーズン終了後に PGAツアーまたはDPワールドツアーへのメンバーシップの再申請を希望する選手のために公平かつ客観的なプロセスを確立するとしている。したがって11月までに詳細が発表されると見られる。

 激しく対立していたPGAツアー・DPワールドツアー陣営とリブゴルフ陣営が統合することになったのは、そのほうが両者にとってビジネス上のメリットがあるからだ。

 PGAツアーは2022年11月にリブゴルフ弁護団が提訴した反トラスト法(独占禁止法)訴訟によって非課税・非営利団体としての地位を脅かされていた。お金の力でリブゴルフ陣営と選手の争奪・引き留め合戦を繰り広げるのも資金力に差があるため不利が生じていた。

 リブゴルフ陣営と統合すれば、当事者間で係争中のすべての訴訟が相互に合意されて終了する。これはPGAツアーにとって大きなメリットだ。

 リブゴルフはテレビ視聴者の獲得に苦戦していた。人気のあるPGAツアー陣営と統合すれば、これまで悪役だったリブゴルフの人気を高めるための施策をPGAツアーとともに講じることができる。

 ただ、リブゴルフが2024年も存続するかどうかも、リブゴルフへの対抗策を強めていたPGAツアーの大改革も、今後どうなるかはまったく発表されていない。今回の統合は対立関係の終わりではなく、さらなる混乱の始まりになる可能性もある。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。