今夏、海外のクラブによる日本ツアーはまさに“百花繚乱”の趣だった。PSGに加え、UEFAチャンピオンズリーグのファイナリストであるマンチェスター・シティ(イングランド)とインテル、ドイツの雄バイエルン・ミュンヘン、かつて中村俊輔が伝説的な活躍を見せたスコットランドの名門セルティック、そしてポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウドを擁するアル・ナスル(サウジアラビア)が来日。PSG、ローマ(イタリア)、フランクフルト(ドイツ)が試合を行った昨年以上に、ひと夏で多くのクラブが日本を訪れた。

 ただ、3試合で計16万人を超えた昨夏のPSGほどの熱狂があったかといえば、決してそうとも言い切れないのが実状だった。まずは、今夏に行われた海外クラブによる国際親善試合の観客数を見てみる。

6/6 ヴィッセル神戸-バルセロナ(国立) 4万7335人
7/19 横浜F・マリノス-セルティック(日産) 2万263人
7/22 G大阪-セルティック(パナスタ) 1万2482人
7/23 横浜F・マリノス-マンチェスターC(国立) 6万1618人
7/25 PSG-アル・ナスル(ヤンマー) 2万5432人
7/26 バイエルン-マンチェスターC(国立) 6万5049人
7/27 アル・ナスル-インテル(ヤンマー) 1万3805人
7/28 PSG-セレッソ大阪(ヤンマー) 3万2430人
7/29 川崎フロンターレ-バイエルン(国立) 4万5289人
8/1 PSG-インテル(国立) 5万139人


 7月25日のPSG-アル・ナスルはC・ロナウドとネイマールという世界的スターの対決が期待された試合だったが(結果的にネイマールは出場せず)、5万人収容の競技場で動員はその半分ほどにとどまり、空席が目立つ結果となった。同28日のPSG-セレッソ大阪も、3万人ちょっとの観衆。試合後、世界屈指の人気クラブであるドルトムント(ドイツ)やマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)でプレーしてきた元日本代表MF香川は「子供たちにこういう(レベルの高いクラブの)サッカーを見せたい。僕が言う必要はないことかもしれないけど、チケットの値段を考え直してほしい」と空席を見やり、残念がったほど。1万人台にとどまった同27日のアル・ナスル-インテルを含めて、大阪での試合は主に平日だったことも合わせて軒並み厳しい数字となった。

 日本サッカー協会の関係者は「これだけ多くのクラブが日本ツアーを行うと、やはり選別の目は厳しくなる。ファンも、クラブの格や、そのクラブが来日すること自体の希少性をしっかりと見極め、行く試合を冷静に選んでいるように思う」と証言する。チケットは最低でも1万円近くと高額で、そうそう複数の試合を現地観戦できるものではない。7月19日の横浜F・マリノス-セルティックから8月1日のPSG-インテルまでの2週間で、行われたのは実に9試合。選択肢の広がりによってシビアな目で見られたことで、逆に海外クラブの“来日バブル”が終わり“勝ち組”と“負け組”が鮮明に分かれたといえる。

 また、別の関係者が指摘したのが「東京と大阪のサッカービジネスにおけるキャパシティー」の差だ。C大阪の香川は、12年ぶりに日本復帰を果たした際に「野球は人気だなと改めて感じた。文化の違い」とプロ野球・阪神タイガースの報道が圧倒的な中心に位置する関西地元メディアの状況を言い表したことがあった。もちろん、関西でのサッカー人気も着実に高まっているが、こと海外サッカーの話題となると、東京のビジネス的なキャパの大きさはやはり無視できない。

 ①クラブの格②来日の希少性・・・に加え、求められるのが③開催場所④開催日時。以上の4点が、日本ツアーの“成功”に必要な要素というわけだ。

 本拠地ではなく国立競技場での開催となった神戸-バルセロナ。この試合には5万人近くが詰めかけ、十分に“成功”といえる熱気に包まれた。世界的に屈指の人気を誇るスペインのビッグクラブの来日は2019年以来、4年ぶり。クラブの格も希少性も十分にある中、東京のサッカーシーンのキャパの大きさも裏付けられた格好だ。

 マンチェスターCの人気の高さも目立った。7月23日の横浜F・マリノス戦、同26日のバイエルン戦は、いずれも驚異の6万人超え。バイエルン戦は海外クラブ同士の試合というJリーグ各クラブの固定ファンの来場を計算できない環境ながら、国立競技場のサッカー競技最多を更新した。マンチェスターCにはノルウェー代表FWハーランドやベルギー代表MFデブライネらが所属するものの、C・ロナウドやメッシ、エムバペら、サッカーファン以外にも通じる大スターは不在で、誤解を恐れず言うなら、日本では決して一般層の認知度が高いクラブではない。とはいえ、イングランド・プレミアリーグを3連覇中でUEFAチャンピオンズリーグの優勝チームと、クラブの格としては圧倒的。4年ぶりの来日という希少性も相まって、高額のチケットを購入してでも見に行きたいと思う“コアなサッカーファン”が、それだけ東京には多かったということだろう。

 一方で、古橋、前田ら日本人選手が5人所属するセルティックの2試合は、かなり厳しい結果となった。欧州5大リーグ(イングランド、スペイン、イタリア、ドイツ、フランス)以外のクラブの動員力は、やはりそれらと比較して劣るのは明白。ブンデスリーガ11連覇中の絶対王者バイエルンでさえ、国立開催で、地元サポーターの来場が期待できた川崎戦、さらに7月29日の土曜日と開催日時も最高だった中でも4万人台が精いっぱい。プレミア、リーガの日本での人気の高さは、やはり頭一つ抜けている。

 その中で、2年連続の来日と希少性は薄くなっていたPSGが、フランス代表FWエムバペが契約問題で来日せず、アルゼンチン代表FWメッシも抜けた中でも、8月1日のインテル戦で5万人を動員したのは、かなりの善戦といえる。事前のPRではマンチェスターCなどを上回る露出があったことも大きく、相手がCL準優勝クラブであり、かつての中田英寿の活躍などで日本での人気と浸透度が高いセリエAの強豪だったことも、大きな要因といえるだろう。

試合はインテルが2−1でPSGに勝利した。©️「Paris Saint Germain JAPAN TOUR 2023」実行委員会

 英メディア「90min」によると、PSGが今回の日本ツアーで手に入れた収入は総額30億円以上になると伝えており、グッズ販売や放映権収入の拡大も見込めるマーケットの開拓にもつながるとあって、欧州クラブの動きは、さらに来夏以降も活発化することが予想される。では、その中で動員的にも“成功”と呼べるだけの力を持つクラブはどこなのか。

 例えば、日本人選手が在籍するクラブではFW久保建英が所属するレアル・ソシエダ(スペイン)やDF冨安健洋のアーセナル(イングランド)、MF三苫薫擁するブライトン(イングランド)、MF鎌田大地が加入したラツィオ(イタリア)、などは期待できる素地を持っているといえそうだ。また、レアル・マドリード(スペイン)やマンチェスターU、リバプール(イングランド)などのメガクラブは、今夏のマンチェスターCのようにコアなファンを6万人以上集められるだろう。

 つまり“来日バブル”がはじけた中でも、土曜日・日曜日の東京(国立競技場)開催、上記のような人気と希少性を持つクラブという要素が揃えば、記録的な動員を生むことができるということ。今夏の各クラブの動員結果からも、“本物”を見せ、“非日常”を味わえることが、サッカービジネスにおける成功の鉄則であるのは間違いない。


VictorySportsNews編集部