沖縄・宜野湾で監督として3度目の春季キャンプを終えた三浦監督は、充実した表情で語った。「クールごとに各コーチからテーマを持って毎日取り組んでくれた。やろうとしたことは全てできたので良かった。非常に活気あるキャンプを送れた」。ドラフト1位・松尾汐恩捕手(大阪桐蔭高)ら新人4選手も1軍で初のキャンプを完走し「しっかりメニューを消化して、先輩たちにいろんなことを学びながらよくついていった」とうなずいた。

 キャンプイン前日の1月31日、指揮官が「ショートはね、厳しくなるでしょう」と期待した通り、今年は激しさを増した遊撃争いが大きな見どころとなった。その起因となったのは、紛れもなく中日からトレードで新加入した京田陽太内野手の存在だ。昨季こそ不振に陥ったが、2017年に新人王に輝き、以降も球界屈指の遊撃守備で不動のレギュラーとして通算700試合に出場した実績は十分。相手の隙を突く走塁センスは球界でも評価が高く、今季は盗塁以外の走塁によってどれだけ得点を増やしたかを示す指標「UBR」でリーグトップを目指すチーム方針にも合致する。課題の打撃面もキャンプから石井琢朗チーフ打撃コーチと連日、意見を交換しながら練習に取り組む姿が見られ、実戦では本職の遊撃のみならず三塁でも好守備を連発し、総合力の高さをアピールした。

 沖縄で、その京田を上回る猛アピールを見せたのが高卒4年目の有望株、森敬斗内野手だ。今季はバットを少し寝かせて、これまでより高い位置で構える新フォームに取り組み、2月21日の楽天との練習試合(宜野湾)では、チームの対外試合今季1号を含む4安打をマーク。京田の加入にも「自分のやるべきことをやるだけ」と平常心を貫き、沖縄での実戦では4割を超える高打率を記録するなど課題だった打撃面で結果を残した。さらに、ドラフト3位・林琢真内野手(駒大)も大学時代は主に二塁手だったが、スカウトの評価通り遊撃の守備でも存在感を放った。50メートル走5秒7の俊足に加え、大学時代から高い出塁率を誇り、三浦監督は「スピードはプロの中に入っても見劣りしないものを持っていて、守備も打撃も食らいつく良いものを見せてくれている」と評価した。ベテランの大和、1軍経験豊富な柴田竜拓両内野手もいる中で、ハイレベルな競争が繰り広げられた。

 選手層の厚さが積年の課題だったDeNAだが、遊撃争いに代表されるように各ポジションで競争が活発化。昨季、日本ハムから大田泰示が加入した外野では、楠本泰史、蝦名達夫が頭角を現し、新外国人のトレイ・アンバギーや育成選手でただ一人1軍キャンプを完走した勝又温史、1軍実績のある神里和毅、関根大気らが控え、タイラー・オースティンが昨季終了後に右肘の手術を受けて今季の開幕に間に合わない中でも、大きく戦力を落とさない布陣を形成する。

 投手陣は、昨季2位躍進の立役者となったブルペン陣が大きな存在感を見せる。不振を乗り越え守護神に返り咲き、昨季自己最多タイの37セーブを挙げた山崎康晃投手が、かねて抱いてきた米球界挑戦の夢を封印し、6年の大型契約で残留。昨季リーグトップの71試合に登板した伊勢大夢投手は自信を深めて今季もフル回転を誓い、2月22日のロッテとの練習試合(宜野湾)では1回を三者凡退に抑えるなど、さすがの安定感を見せている。

 救援転向1年目の昨季、57試合に登板した入江大生投手もオフにオーストラリアリーグで武者修行するなど意識高く今季を迎える。5年連続50試合以上登板のエドウィン・エスコバー投手も健在で、新たにメジャー通算144試合登板を誇るJ.B.ウェンデルケン投手(前ダイヤモンドバックス傘下)を獲得。185センチ、110キロの立派な体格から放たれる力強い直球、奪三振力のあるチェンジアップを武器に、オープン戦初登板となった2月26日の巨人戦(セルラー那覇)では3者連続三振を奪うなど実力を示した。昨季途中にトレードで加入した森原康平投手や石川達也、宮城滝太両投手ら若手もアピールしており、より強固となった救援陣は、大きな武器となりそうだ。

 指揮官は今季、投手陣に3球でいかに有利なカウントにするかを問う「3球カウント構成率」の向上を求めた。昨季は「80%以上の確立で投手有利のカウントをつくる」ことを掲げ、チーム与四死球数は2021年の「512」から「466」に減少。ストライク先行の意識を強めた浜口遥大投手や救援陣の伊勢、山崎らが成績を伸ばした。ストライク先行といっても、ただストライクを投げればいいわけではない。相手も初球から振ってくる可能性がある中で、空振り、ファウルも含めて有利なカウントをつくる意識、そのための技術を練習から求める。昨季のテーマをより前進させたこの目標を達成できれば、優勝の可能性をグッと手繰り寄せることができるだろう。

 春季キャンプの手締めを行った主将の佐野恵太は「昨季2位だったことで、多くの選手の口から優勝という言葉が聞ける状況になっている。今まで優勝と言っていたものより、さらに強い思いで目標にしている」と語った。WBC日本代表に選ばれている主砲の牧秀悟内野手ら多くの選手が昨季は優勝争いを初体験し、足りなかったこと、必要なことを実感した。掴んだ手応えと刻まれた悔しさを胸に-。横浜の街に25年ぶりの歓喜を届けるその瞬間へ、機は熟した。


VictorySportsNews編集部