ドルトムントはドイツ西部にあり、本拠地「ジグナル・イドゥナ・パーク」は8万人以上収容の欧州屈指のスタジアムとして知られる。香川真司(現セレッソ大阪)が活躍したことで日本での知名度も高い。リーグ優勝は8度。ドイツ国内でも有数の人気を誇る。

 そんなドルトムントの経営トップは、最近も次のような発言をしている。同国のスポーツ誌「シュポルト・ビルト」によると、ヴァツケCEOは「BVB(ドルトムント)とバイエルンは互角ではない」と率直に語っている。背景には2005年のクラブの財政危機があり、そこから手堅い経営で立て直してきたというクラブの揺るがぬアイデンティティーがある。決して無理な先行投資はせず、背伸びをしてまでビッグネームの獲得にこだわらない。むしろ若くて才能ある選手を発掘し、彼らをステップアップさせることで移籍金による収入を得るというビジネスモデルを貫いてきた。ヴァツケCEOは「2005年にドルトムントの売上高は7500万ユーロ(120億円=1ユーロ160円で換算)だったが、今では5億ユーロ(800億円)となっている。しかし、バイエルンは同じく3億ユーロ(480億円だったのが、いまでは8億ユーロ(1280億円)だ」と指摘。バイエルンとはそもそも財政基盤が異なるため、同じような手法で選手そろえることはしないと“宣言”しているのである。

 近年のその最たる事例が、アーリング・ハーランドであり、ジュード・ベリンガムだろう。10月30日に発表された「バロンドール」(フランス・フットボール誌選定の世界最優秀選手賞)は、2年ぶりにアルゼンチンのスーパースター、リオネル・メッシ(マイアミ)が選ばれた。昨年11~12月のワールドカップ(W杯)カタール大会で、母国を36年ぶりの世界一に導いたインパクトが大きかった。惜しくも2位だったのが、マンチェスター・シティー(イングランド)で主要3冠に大きく貢献したストライカー、23歳の「怪物」ハーランドである。昨季は公式戦53試合52ゴールという驚異的な数字を残し、シーズンを通した活躍ぶりではメッシを凌ぐと言ってもいいほど(バロンドールの表彰式では、年間最多ゴールの「ゲルト・ミュラー賞」を受賞した)。メッシとロナルド(アルナスル=サウジアラビア)が去った後の欧州サッカーの主役といってもいい存在感だろう。

 もう1人、今季の欧州サッカーで目を見張る活躍をしているのがレアル・マドリード(スペイン)入りしたベリンガムである。リーグ戦10試合で10ゴールは堂々の得点ランキング1位(11月1日時点)で、10月28日の宿敵バルセロナとの伝統の一戦「クラシコ」では0―1の後半に強烈なミドルシュートを突き刺し、さらにゴール前に走り込む動きで勝ち越し点も奪って2―1の勝利に貢献した。20歳のMFは、首位を走る「白い巨人」にとって新加入ながら欠かせないピースとなっている(同じくバロンドール表彰式では、最優秀若手選手賞である「コパ賞」に輝いた)。

 2人はいずれもドルトムントで欧州五大リーグデビューを果たし、その活躍によって欧州のビッグクラブへと引き抜かれているという共通点がある。ハーランドは2020年1月にザルツブルク(オーストリア)から2000万ユーロの移籍金でドルトムント入り。デビュー戦で途中出場ながらハットトリックをやってのけるなど、ドイツでも実力を遺憾なく発揮。2シーズン半の在籍で、89試合86ゴールを量産した。昨夏にマンチェスターCに6000万ユーロの移籍金で移った。

 ベリンガムは17歳になったばかりの2020年夏に、イングランド2部のバーミンガムからドルトムント入り。攻守に走るセントラルMFとして才能を開花させ、昨年のW杯でもイングランドの主力として活躍した。3シーズン在籍し、今夏に1億ユーロ超え(160億円以上)の移籍金でスペインの名門に移った新星である。ドルトムントは彼らをクラブにとどまらせるための大型契約を結ぶのではなく、欧州チャンピオンズリーグ(CL)優勝を狙うようなビッグクラブへと羽ばたかせて移籍金を手にすることを選んだのである。

 彼ら2人だけではない。昨季のマンチェスターCの3冠に貢献したイルカイ・ギュンドアン(現バルセロナ=ドイツ代表)もドルトムントから2016年に移籍した1人。パリ・サンジェルマンでプレーする世界屈指の右サイドバック、アシュラフ・ハキミ(モロッコ代表)もドルトムントに2018~20年の2シーズン在籍した。それ以外にもプレミアリーグのビッグクラブなどへと毎シーズンのように選手が巣立っている。

 時計の針をもう少しさかのぼらせても、2012年に当時23歳だった香川真司(現C大阪)をマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)へ売り、世界屈指の点取り屋のロベルト・レバンドフスキ(現バルセロナ)も2014年にライバルのバイエルン・ミュンヘンに放出している。ドルトムントは、常に選手の新陳代謝を図りながら高く売れる選手を適切なタイミングで売るなどして経営を安定させてきたのである。

 出場機会も比較的つかみやすく、さらにビッグクラブへとステップアップできる環境は、10代から20代前半の選手にとっては魅力あふれるものに映るだろう。しかし、ピッチ上の選手は短いサイクルで入れ替わるため、チーム力の面ではなかなかバイエルンに追い付けないのが実情といえる。バイエルンの対抗馬としては物足りないかもしれないが、ドルトムントのやり方は、2005年以降ずっと同じなのである。それでも、想像してみたくなる。ハーランドやベリンガムが今もドルトムントのユニホームを着ていたら、バイエルンと互角に張り合うことはもちろん、欧州CLでも上位を狙うことだって可能な陣容となっただろう、と。


土屋健太郎

共同通信社 2002年入社。’15年から約6年半、ベルリン支局で欧州のスポーツを取材