アスリートやスポーツに関する社会貢献活動の優れたロールモデルを表彰する「HEROs AWARD 2023」は、サッカー元日本代表の中田英寿氏が発起人となり、公益財団法人日本財団(東京・港区、笹川陽平会長)が立ち上げた「HEROs ~Sportsmanship for the future~」プロジェクトの柱の一つ。社会課題解決の輪を広げていくことを目的に継続的に開催され、今年で7回目を迎えた。

 その中で、プロ野球チームが同賞を受賞するのは初めて。日本では数少ない、アスリートの社会貢献活動を表彰する「HEROs AWARD」のスポーツ団体部門に北海道日本ハムファイターズの「SC活動」が選出され、活動を担う北海道日本ハムファイターズ管理統轄部広報部SCグループ長・笹村寛之氏は「こういう活動は、すぐに成果が出るものでもなく、ゴールの設定も評価も難しい。自分たちのやっていることは正しいのだろうかと自問自答しながらやってきたので、今回こうして評価をしていただけて、そんなに間違ってはいなかったのかなと思えました。また、プロ野球チームでは最初の受賞というのも、率直にうれしいです」と喜びを口にした。

SC活動の原点「チームとしてどう地域に還元・恩返しできるか」

「SC活動」の原点は、球団が北海道に移転した2004年に遡る。その時から企業理念に「Sports Community」を掲げ、「スポーツと生活が近くにある、心と身体の健康を育むコミュニティ」の実現を目指してきた。そのアプローチの一つとして、地域との関係性を築く活動に積極的に取り組んできた。2009年にはチームの勝敗や選手の成績を越えて地域に貢献・還元することもプロスポーツチームの責務とし、「ファイターズ基金」を立ち上げ、募金・オークションなどの収益を地元のNPO支援などに還元する仕組みを構築。2015年からは稲葉篤紀氏(来季から2軍監督)をSCO(スポーツ・コミュニティ・オフィサー)に据え、それらの活動を「SC(Sports Community)活動」と総称。野球をはじめとするスポーツ振興や社会的課題の解決を図り、次の未来を地域と共創するプロスポーツチームを目指すという大きな取り組みへと発展を遂げた。

2015年からスポーツ・コミュニティ・オフィサー(SCO)を務めてきた稲葉篤紀氏

 笹村氏は、「(SC活動が始まった)当時は担当ではなかったので過去の資料を紐解いたり、諸先輩の話を聞いたりしたのですが、2004年当初はスタジアムも空席が目立っていましたがその後リーグ優勝・日本一も果たして、北海道の皆さんに応援してもらえるチームにはなりました。そんな最初の10年を経た頃から、『次の10年、さらにその先、私たちは何をしていかなければいけないのか、チームとしてどう地域に還元・恩返しできるか』を議論し始めた結果、CSR活動をしっかり体系化して、さらに推し進めていこうという意図で、『SC活動』という形になったと解釈しています」と、その経緯を説明する。そうした成り立ちのある「SC活動」は、まさに中身も多岐にわたり、野球を含むスポーツ振興といった一般的なものから、マスコットのフレップ、ポリー、B・Bが中心となって自然の動植物との共存やエゾシカによる農業被害の実情などを含む環境問題の啓蒙活動を行うという北海道ならではの取り組みまで、実に幅が広い。

想いや熱量がないと始まらないし続かない

 そんな活動に対して選手・スタッフはどう向き合ってるのか。「“特に力を入れている活動”というものはなく、私自身はフラットに見ようと心がけてきました。その一方で、いろいろなスタッフがいろいろな形で関わっているので、各々にとっては、思い入れのある活動がある、それでいいと考えています。こういった活動にリソースの問題は常につきまといますが、それぞれに自分の担当業務がありながらもこういった活動にも携わってもらう為には『やらされ感』は天敵で、想いや熱量がないと始まらないし続かない。なので、それを形にする後押しが私の役目。そして、それらが束になった時に、『SC活動』として大きな集合体になると思っています。」と笹村氏。さらに、取り組みには選手発信のものもあり、「古くは稲葉篤紀が北海道の小学校にリレーのバトンを贈ったり、田中賢介はピンクリボンをずっと応援していたり。ここ最近は、せっかく素晴らしいボールパークができたので、ここでの体験をいろいろな人に味わってほしいと子供たちを招待したいという声があがりました。例えば、現在ポスティングでMLB移籍を目指している上沢投手は、ひとり親家庭を招待したいと自ら言い出しました。そういう想いも形にするという点では、スタッフでも選手でも同じです」と説明する。

GEAR UP

 笹村氏によると、こうした社会貢献活動への取り組みを通じて、選手自身の意識にも変化が見られるという。もちろん「すぐに何かが変わるということはない」というものの、「プロ野球は試合数が多く、地方を訪問するといったことはなかなかできませんができる範囲のことをやる中で少しずつ、活動することの意義や自分が世の中の役に立つことを実感してもらう機会が増えていくと、さらに選手発信の活動も増えていくのかなと期待しています」とし「あとは、コロナ禍を経験し、応援されることがいかにありがたいかを感じたでしょうし、フィールドで活躍する姿を見せること以外に自分ができることにも意識を持つ選手が増えたのかなと思います」と明かす。

“北海道のプロ野球チーム”だからこそできること

 活動は多岐にわたるが、重視するのは北海道ならではの取り組みであり、北海道日本ハムファイターズという“ブランド”の力を生かせる活動だ。

「活動をする中で、何をやって何をやらないのかという取捨選択は非常に難しいです。全てがいわゆる「いいこと」なので止めにくいし、否定もしにくい。そういう意味では北海道ならではの課題かどうか、またプロ野球チームだからこそできること、プロ野球チームじゃないとできないこと、という意識は持つようにしています」と笹村氏。具体的に挙げられるのは、雪国北海道らしく、ウインタースポーツへの助成事業「ゆきのね奨楽金」。図書館や書店がない自治体もある北海道で、そこに住む子供たちにも本に触れてもらう機会をつくる「グラブを本に持ちかえて」という読書促進活動では、選手による推薦図書の紹介、家庭で読み終えた本を引き取り寄贈するなどしている。さらに、今年始まった新たなプロジェクトとして「スターティング・ナイン」もある。これはいろいろな地域課題の中から9つのテーマを決め、それらの課題に取り組むNPOやスタートアップを20万円の助成金で支援するというもの。その際も、北海道ならではの課題にこだわってテーマを決めていったという。

グラブを本に持ちかえて

 これらの活動を見ていくと、野球やスポーツに限らないところにも目が向けられていることが分かる。「野球に限らないですし、スポーツにも限らない。スポーツや野球はもちろん私たちの得意分野であって、我々がやらないで誰がやるんだという領域なので、当然アプローチします。ただ、それ以外でも、プロスポーツチームの発信力や影響力、あとは選手やマスコットのコンテンツパワーを使って、地域へ広く発信したり、楽しく伝えたりすることも我々のできることと思っています」と笹村氏。ともすると、「社会貢献活動」という言葉に「堅苦しいというか、何か背筋をピンとしなくちゃいけないというのがあるかもしれない」という同氏は「それを楽しくするというか、自分たちは楽しんでいるだけなんだけど、実はそれが社会貢献になっている」という状況を理想に掲げる。コロナ禍で、チャリティーTシャツを制作し、売り上げを医療従事者への支援に充てる活動を行ったこともあるが「チャリティーに賛同して購入くれる方もいれば、単純にそれが欲しいと思って買うことが社会貢献になっていた。そういったアプローチも私たちだからできることかなと思っています」と、その意義を口にする。

ゆきのね奨楽金

取り残さない支援

 新球場エスコンフィールド北海道の開業も、SC活動にとってプラス面は多く「この場所ができたことで、今までできなかったことができるという可能性の広がりはあると思います。先日も少年野球の子供たちを対象に、北海道生まれの選手たちによる野球教室を開催しました」と、来場者が300万人を突破した“人気観光スポット”を生かした取り組みも加わった。「ただ、北海道は広いので『おいで』と言っても簡単に来られる距離ではなかったりします。だから、私たちが出向いて行ったり、ファイターズ基金を活用して“お金に行ってもらう”など、直接・間接の両方で地域住民との接点を増やすという使い分けは必要かなと思っています」と、さまざまな視点を忘れず“取り残さない支援”を実現させる工夫も進めている。

続けられないと意味がない

 だからといって、やみくもに支援の手を広げることはしない。「新しいことを乱発しても、続けられないと意味がない。特に支援となると、いかに継続できる形をつくっていくか、終わらせないかが大事だと思っています。派手な花火を打ち上げたはいいけれど、結局何もできませんでしたでは信頼に関わるので」と笹村氏。「社会課題の解決といっても、私たちは決してその道に精通しているわけではありません。なので、方々、実際にその場で活動されていて、ちゃんと現場を知っている方々と手を組むことが必要で、そうしないと独りよがりな支援や活動になってしまいがちです。私たちが持つ強みと、そういった方々が持つ強みを合わせることで、ちゃんと現場の実状に沿った活動もしつつ発信もしつつ、という形が可能になるのかなと思います。また、そういう方たちにとってもファイターズが後押ししてくれている、認めてくれているということが大きな意味をもったり、第三者から見ても、ファイターズと一緒にやっている団体なら寄付しても大丈夫かなと思ってもらえることもあると思います。そのどちらも、ベースにあるのは、ファイターズへの信頼なので、その信頼を壊すわけにはいきません。(次々と新しいものを求めるより)身の丈にあわせてできる範囲の中でやっていくこと、そして終わらせないことの方が重要かなと思っています」と強調した。

社会貢献活動にも必要な“楽しさ”

 そして、最後に、改めて笹村氏に今回の「HEROs AWARD」受賞についての思いを聞くと、「ファイターズに対しては、新庄監督やエスコンフィールド北海道に注目していただいてますが、一方でこういった活動の地道な部分でも評価いただけたのはうれしいですし、ファイターズのもう一つの側面も知ってもらえたらうれしいなと思います」と、広く活動が根付く一つのきっかけになることを願った。その上で「活動のどれか一つでも、それいいね、と思ってもらえたり、自分の推しの選手がしているからちょっと“あいのり”しようかなだったりチームや選手と一緒にやっているという感覚を気軽に楽しんでもらえたらいいのかなと思います。不謹慎かもしれませんが、こういう活動も楽しめる雰囲気を創ることもスポーツに出来ることですし、社会貢献という”文化”の拡がりに繋がると思います。」と、“終わらせない”ために欠かせない「社会貢献」との理想的な向き合い方に思いを巡らせた。

ネクスト・サークル

VictorySportsNews編集部