現役時代はプロ野球、メジャーリーグで23年間にわたってプレーし、現在は野球解説やコメンテーターで活躍中の五十嵐亮太氏は、「大谷ファン」を自認する1人である。このオフも大谷に関して各方面からコメントを求められるなど、ある意味で移籍騒動の渦中にいた五十嵐氏に、今回の決断について聞いた。

「僕はドジャースと予想してたんで、予想どおりですね。(エンゼルスに)残ることがまず考えられなかったので『残る意味がない』って言ってたんですけど、ここ数年のようにシーズン途中で『今年も(ポストシーズンは)無理か』ってなってしまうとキツいのでね。ドジャースでそういったことがなくなるのは、大谷選手にとってもかなりプラスに働くと思います」

 エンゼルスは2014年のアメリカン・リーグ西地区優勝を最後にポストシーズンから遠ざかっており、大谷が入団した2018年以降はシーズンの最終勝率が5割に届くことすらなかった。大谷の活躍を伝えるニュースが「なおエンゼルスは敗れています」といった一節で結ばれることも多く、「なおエ」なるネットスラングが生まれたほどだ。

 一方で大谷が移籍を決めたドジャースは、ナショナル・リーグ優勝24回、ワールドシリーズ制覇7回の名門で、今季まで11年連続ポストシーズン進出、うち2021年を除いてすべて西地区優勝という現在のメジャーでも屈指の強豪チームである。大谷自身も入団会見で「勝つことっていうのが僕にとって今、一番大事なことかなと思います」と話したように、このチームでならメジャー移籍後初のポストシーズン、そしてワールドシリーズ出場も大いに期待できる。

「やっぱり(エンゼルス時代は)シーズン途中で(地区)優勝やポストシーズンを諦めなければいけないっていうところに、淋しさであったり、辛さ、もどかしさっていうのは感じてたと思うんですよ。だからそうじゃない、ワールドチャンピオンの可能性を秘めたチームでやりたいっていうのは、プレーヤーとして当たり前の考えですよね。しかも(エンゼルスが)弱いからってすぐに出ていくっていうわけじゃなくて、6年間しっかり戦った上でFAになってのことなのでね」

 ちなみに大谷がドジャースと結んだ10年総額7億ドル、日本円にしておよそ1000億円という契約額はメジャーリーグのみならず、野球以外の北米3大スポーツや、サッカーのような世界的スポーツを含めても、史上最高になるという。これほどまでに巨額な契約は大谷にとって1つのモチベーションになるのか、それともプレッシャーになるのか?

「モチベーションというよりは、いただいたものに対して応えなきゃいけないっていうのが選手の心理だと思うんですよ。僕は大谷選手とは比較にならないですけど、それでも貰っている分、もしくはそれ以上の成績を残したいって常に思ってました。よく複数年(契約)だと『もうお金(年俸)は決まってるから結果はダメでもいいじゃないか』って思われることもあるんですけど、全然そんなことはないです。やっぱり結果を出したいし、チームも含めてそうじゃなかった時の苦しさっていうのは、稼いでいる人になればなるほど重くなる。ただ大谷選手の場合は、そのプレッシャーを乗り越えてというか、うまく受け入れながら消化してやっていける選手だと思うので、僕は楽しみのほうが大きいのかなと思いますね」

 14日の会見で、大谷はドジャースの一員として「まず優勝することを目指しながら、そのところで欠かせなかったと言われる存在にやっぱりなりたいですし、そういう期待を込めた契約だと思うので、そこの期待に応えられるように今後も全力で頑張っていきたいなと思ってます」とも語っている。そんな大谷に対し、五十嵐氏が期待するものとは──。

「もちろん両リーグでのホームラン王とかMVPとかあるんですけど、今まであまりにも僕らの想像を超えてきたので、もう(数字的なものは)期待しないようにして、元気にシーズンを戦ってくれたらそれだけで十分幸せだと思います。あとは彼の勝負強さっていうのが今までは発揮しにくい環境だったんですけど、来年は(シーズン終盤の)ポストシーズンがかかった時とか、短期決戦でそれが見られる可能性が非常に高いので、その辺がめちゃくちゃ楽しみですね。やっぱりWBCでの大谷選手の姿、あれをメジャーでも見たいんですよ」

 マウンドで1球1球に雄たけびを上げ、打席では相手を揺さぶるセーフティバント。1点を追う場面で先頭打者として二塁打を放ち、ベース上で両腕を振り上げてナインを鼓舞したかと思えば、最後はクローザーとして優勝を決め、思わずグラブを放り投げる──。3月に行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で大谷が見せた「あの姿」を、メジャーリーグでも見たいと思っているのは、五十嵐氏だけではないはずだ。ポストシーズン“常連”のドジャースでなら、それが実現する可能性はグッと高まる。

 大谷は今秋に右ヒジ手術を受けており、来年はバッターに専念する。再来年以降は再び“二刀流”復活が期待されるが、その頃には三十路を迎えている。現在はシアトル・マリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターを務めるイチロー氏が、かつて大谷について「投げることも打つこともやるのであれば、ワンシーズンはピッチャー、次のシーズンは打者として。それでサイヤング賞とホームラン王を獲ったら……」と話したことがあるが、五十嵐氏は大谷の今後をどう見ているのか?

「本人が何を望むかですね。たぶんピッチャーだけ、バッターだけっていうのは、どこか本人の中で物足りなさを感じてしまうと思うんですよ。だからヒジの状態さえ良ければ同じような形(二刀流)になっていくと思います。ただ、登板数であったりとか、先発(登板)の前後に負担をどう減らすかとか、あるいはWBCでやったみたいに抑えも可能なんじゃないかっていうところで、可能性がすごく広がっていくと思うんですよ。そう考えると、今後どういったプランでどういった形で結果を残してくれるのか、どうやってフィールドに立ち続けるのかっていうところを想像すると、まだまだ可能性を秘めてるなっていうふうに思いますね。

 大谷翔平、29歳。10年先まで契約が保証された至高の“二刀流”は、海の向こうの最高峰の舞台で今後もファンに無限の楽しみを与えてくれそうだ。
(了)


菊田康彦

1966年、静岡県生まれ。地方公務員、英会話講師などを経てメジャーリーグ日本語公式サイトの編集に携わった後、ライターとして独立。雑誌、ウェブなどさまざまな媒体に寄稿し、2004~08年は「スカパー!MLBライブ」、2016〜17年は「スポナビライブMLB」でコメンテイターも務めた。プロ野球は2010年から東京ヤクルトスワローズを取材。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』、編集協力に『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』などがある。