ただ、OA枠に関して言えば過去の活用例を見ても海外クラブからの参加は04年アテネ五輪の小野伸二(当時フェイエノールト)、12年ロンドン五輪の吉田麻也(当時VVV)、21年東京五輪の吉田(当時サンプドリア)、遠藤航(当時シュツットガルト)のみ。延べ13人のOA枠選手の中で4人しかいないことからも分かるように、招集が難しいのは今回に限った話ではない。

 また、クラブ事情の急変で出場辞退となった16年リオデジャネイロ五輪の久保裕也(当時ヤングボーイズ)のケースでは、バックアップとしてブラジルに帯同していた鈴木武蔵(当時新潟)を、登録変更期限の前日である初戦の2日前に正メンバーとして入れ替えた。しかし、パリ五輪のレギュレーションではクラブ事情による入れ替えは認められず、ケガや体調不良時のみ可能。直前の混乱というリスクを回避するためにも、より手堅いメンバー選考が必要だった。

全選手が自らの手で勝ち取ったパリへの切符

 前置きが長くなったが、パリ五輪に出場する大岩剛ジャパンは決して期待感が小さいわけではない。まず、Jクラブなら協力してくれた可能性があるかもしれないと考えれば、今回決まった18人は“JリーグからOAを選ぶ”という選択を消したメンバーだと言える。〈※北京五輪は候補だった大久保嘉人(当時神戸)はクラブが許可せず、遠藤保仁(当時G大阪)は体調不良で内定辞退〉

 Jリーガーは18人中12人。その全員が4月から5月にかけてカタールで開催されたU23アジアカップ兼パリ五輪アジア最終予選に出場し、パリ五輪切符を自分たちの手で掴んでいる。試合を重ねる毎に一体感を増したことは、彼ら自身にとっても大きな手応えとなっている。

 アジア最終予選以降の“競争”も彼らを成長させている。アジア最終予選時のメンバーは23人だったが、パリ五輪は18人。OAの3枠を除けば15人しか生き残れない状況であり、なおかつ久保や鈴木彩艶、鈴木唯人はもちろん、斉藤光毅(ロンメル)や三戸舜介(スパルタ・ロッテルダム)といった海外組の実力を考慮すると、最終予選23人の中でパリに行けるのは10人前後になる可能性があった。

短期決戦で求められるポリバレント性

 そういった状況で、Jクラブの選手たちは7月3日のメンバー発表まで6月の米国遠征もこなしながら全力でアピールしてきた。J1で8得点を挙げている藤尾翔太と平河悠は町田のJ1首位に貢献。川﨑颯大(京都)や西尾隆矢(C大阪)は所属でキャプテンマークを巻いてチームを牽引している。

 海外組もアジア最終予選で抜群のキャプテンシーを見せた藤田譲瑠チマ、リーダシップを取れる山本理仁のシント=トロイデンコンビは大岩ジャパンで中核を担うだけの信頼を積み重ねてきた。

 16人のフィールド選手を見ると、複数ポジションをこなせる選手が目を引くだけでなく、実際に大岩ジャパンでさまざまな起用法を試されてきたことが強みになる。

 4-3-3をベースに考えると、前線では藤尾が1トップと右ウイング、平河は左右ウイング、三戸舜介が右ウイングとインサイドハーフ。川﨑はインサイドハーフやアンカーのほか、ダブルボランチとしても機能するし、京都ではウイングもやっている。途中出場で安心してどのポジションも任せられる選手でもある。

 守備陣では半田陸(G大阪)が左右両サイドバックをこなし、右サイドバックが本職の関根大輝(柏)はセンターバックも可能。高井幸大(川﨑F)はセンターバックとボランチができる。

 大岩剛監督によるチームマネジメントも期待を膨らませる。大岩監督はアジア最終予選でキャプテンに藤田を選んだのと同時に、副キャプテン4人を指名した。卓越した統率力を持つ藤田を軸としつつ、負担が1人に偏らないようにし、4人に責任感も持たせた。4人のうち、内野貴史(デュッセルドルフ)と松木は選外となったが、山本と西尾は肩書きは別としてパリでもリーダシップを発揮するだろう。

56年ぶりのメダル獲得が期待される大岩ジャパン

 グループDの大岩ジャパンは24日にパラグアイ、27日にマリ、30日にイスラエルと対戦する。難敵が揃うが、どの相手にも勝利できる力はある。

 初戦の先発予想は、GKがアジア最終予選で日本を何度も救った小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)。4バックは右から関根、高井、木村誠二(鳥栖)、大畑歩夢(浦和)。アンカーに藤田、インサイドハーフは山本と荒木遼太郎(FC東京)。1トップは細谷真大(柏)、左ウイングに斉藤。右ウイングは三戸が濃厚だが、サイドで体を張れる藤尾も考えられる。佐藤恵允(ブレーメン)や平河は守備でも貢献できる。

 中2日のグループステージ3連戦はアジア最終予選で経験済み。23人がいたアジア最終予選では積極的にターンオーバーしたがパリ五輪は18人。各試合の先発選びも含めて大岩監督にとっては手腕の見せ所となる。

 GK野澤大志ブランドン(FC東京)も含め、18人がまず目指すのは1968年メキシコ五輪以来、56年ぶりのメダル獲得。その先にある最終目標の金メダルに向けて一丸となって戦っていく姿を見届けたい。


矢内由美子

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。ワールドカップは02年日韓大会からカタール大会まで6大会連続取材中。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。