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 良い引退試合、良い1日でした。青木は1番センターでフル出場して2安打。1本目(第2打席)はレフト前で、今までに何本見たんだろうっていうぐらい青木らしいヒットだったし、2本目のライト線への二塁打(第4打席)では引っ張る姿も見れた。最近、代打で出てる時は軽く振っているように見えたんだけど、この日はフルスイングで若い頃のスイングに近かったと思います。たぶんそういった姿を最後にファンに見せたかったのかなっていうようなスイングで、良いヒットでした。

 相手の広島もまだクライマックスシリーズ進出の可能性を残していて負けられない試合だし、ある程度の緊張感もあった中で先発の高橋奎二がすごくいいピッチングをしました。7回途中からは本来、先発の石川(雅規)が中継ぎで登板。今のメンバーでは青木と一緒にプレーする時間が一番長かった選手だし、これまでお互いに支え合ってきたと思う。たぶんこの2人にしか感じられないこととか、この2人だからこそ分かり合えることもたくさんあったんじゃないかな。

 その中で石川も投げながらいろんなことを感じただろうし、青木もこの試合は久しぶりのセンターで、そこからの景色でいろいろなことが思い返されて守りながらいろいろ感じてたのかなと思う。石川がマウンドに上がる時に、センターの守備位置から駆けつけたのも青木らしかった。ああいうところが愛される理由だし、プレーでもそうじゃないところでも青木らしさを感じることができたので、僕にとっても本当に良い1日でした。

 僕はメジャーに行くまで6年(2004~09年)と、ソフトバンクからヤクルトに復帰して引退するまで2年(2019~20年)の計8年、青木と一緒にプレーしました。彼は入団1年目はほとんど2軍だったんだけど、2年目の1軍キャンプで古田(敦也)さんが「あいつは絶対来る」って言っていたのをすごくよく覚えている。前の年は2軍で首位打者を獲っていたし、それなりにやるんだろうなと思ってはいたけど、レギュラーでバリバリやるっていうのはちょっと想像していなかったかな。

 それがいきなりその年に202安打、打率.344で、新人王だけでなく最多安打に首位打者。そこから日米通算2730安打ですから、スゴいですよ。それもあの小さな身体(身長175センチ、体重80キロ)でね。やっぱり身体が大きくないと、体力的には難しい。だから青木の場合は練習量だと思います。若いうちから練習して、ああだこうだと考えながらやり続けた。やっぱりそれだけの練習をこなせたからこそ、長い間活躍し続けられたんだと思います。

 彼は身体こそ小さいけど、たとえば外角の球を右手で逆方向に持っていく場合でも、ボールをとらえてそこから右手だけでも押し込む、そのひと押しが強いなと思う。当てるだけじゃなく、しっかり振るんです。それが彼のスタイルであり、そのひと押しが青木の野球と向き合う姿勢とすごく通じるものがあるように思う。「負けないぞ!」とか「ここで何とかするぞ!」みたいな彼の気持ちと、バットの最後のひと押しっていうのが、僕の中ではすごく重なるんですね。

 青木は早稲田(大学)にはスポーツ推薦ではなく指定校推薦で行ってるし、ヤクルト入団はドラフト4位。メジャーに行った時も契約前にブルワーズの施設でプレーチェックを受けていて、言ってみれば常に逆境からのスタートなんだけど、それをポイント、ポイントで力に変えてきた男。そういうターニングポイントで、自分を信じて「できるぞ!」っていう思いで、結果を残してチャンスをモノにする。それがさっきの「ひと押し」に繋がると思います。

 プレーヤーとしての青木は、ひと言でいうなら「やんちゃでわがまま」。もちろん良い意味で。野球に対してはとにかく貪欲に、わがままにやる。自分の練習の邪魔はさせない、目的を達成する邪魔はさせないというような空気があった。そういう強さってプレーヤーとしてはとても大事。野球で成績を残すためにはどうするかというのがど真ん中にあって、じゃあ他の面でもわがままかって言ったら全然そうじゃない。素直だし人間味もあって、めちゃくちゃ可愛い後輩です。

 ただ、野球をやっている時は、そばで見ていても悩んでいる時間のほうが長かったんじゃないかなと思ってました。自分を追い込んで、何か良いものを、自分に合うものを探しながら、その試合での反省を次に生かすということを常に、徹底的にやった選手なのかなと思う。成績だけ見たら華やかな数字に見えるけど、僕は彼がそんなに満足しているようには感じなかった。だからこそあれだけの成績を残せたんでしょうね。

 青木の引退は寂しいの一言に尽きます。いつか来ると分かっていても実際にそうなると、一生懸命にプレーしてた姿とか練習に取り組んでる姿を僕は見てきたので、そういった姿が見られなくなるのはやっぱり寂しい。なので引退試合の中継では、話しながらもちょっと言葉に詰まるというか、出なくなってしまうこともありました。

 正直、僕はまだ現役でいけるんじゃないかなと思うし、まだやってもらいたいなっていう気持ちもあるけど、そこは本人が決めること。彼はオフシーズンもけっこう練習で追い込む選手で、それはなぜかというと次のシーズンにしっかりと活躍するため。それがたとえば来年は代打になってしまうだろうな、スタメンは多くないだろうなって考えると、じゃあオフのトレーニングのモチベーションを保つことができるのかっていうところで、いろんな角度から自分を見つめて下した判断だったのかなと思います。

 今はまず、青木にはゆっくり休んでもらいたいです。引退試合が終わったばかりで、今頃はくったくただと思うので(笑)。何かやりたいことが見つかれば、彼にはそこから先に突き進む力がある。今は家族と過ごして、これまでとは少し違った景色を味わいながら、ゆっくりしてもらいたいな。21年間、本当にお疲れ様。

聞き手:菊田康彦


菊田康彦

1966年、静岡県生まれ。地方公務員、英会話講師などを経てメジャーリーグ日本語公式サイトの編集に携わった後、ライターとして独立。雑誌、ウェブなどさまざまな媒体に寄稿し、2004~08年は「スカパー!MLBライブ」、2016〜17年は「スポナビライブMLB」でコメンテイターも務めた。プロ野球は2010年から東京ヤクルトスワローズを取材。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』、編集協力に『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』などがある。