新たなウェアに身を包んだ三浦。マイクを握るとこう挨拶した。

「Onは勢いのあるブランドですし、自分自身も刺激を受けています。契約できることはすごく光栄に感じますし、これが自分の新しい競技人生のスタートになると思っています。Onはデザインでも最先端を行っているんじゃないかなと感じていますし、様々な面で手厚いサポートをしていただけるのが魅力です。Onとともにレベルアップを目指していきたいです」

 On アスリートマネジメントのスティーブ・デコーカー氏も三浦との契約に笑顔を見せていた。

「Onはアスリートによって作られた会社ですし、トップアスリートとパートナーシップを組んで協働していくことを大切にしています。三浦選手は世界でもベストアスリートの一人。またSUBARUチームとパートナーシップを結んでいますので、今回の契約を持って、チームとの関係性も強化することができると考えています」

 Onは2010年にスイスで生まれて、急成長を遂げてきたブランドだ。国内ではタウンシューズとしての人気が急上昇しているが、近年はトップアスリートの着用も目立つようになってきた。

 デコーカー氏によると、「Onにとって日本は非常に重要な市場で、大きな成長の可能性がある」と感じているという。そのため日本人トップアスリートとパートナーシップを組む必要性があると考えており、トラックだけでなく、駅伝でも大活躍する三浦に大きな期待をかけたようだ。

「三浦選手と新しく組みたいと思ったのは、日本国内だけでなく、世界の舞台でも実績を証明しているからです。Onとしては三浦選手が陸上競技における最終的な目標を達成することを支援していきます。三浦選手の勝利は我々の勝利でもあるんです。そして三浦選手とともにベストパフォーマンス・プロダクトを作っていきたいと考えています。また日本で次世代のアスリートが目標を達成することにインスピレーションを与えていき、そのプロセスを支援したいと考えています」

 三浦はOnのプロダクトについてフィードバッグをするようで、彼の意見が新たなモデルに生かされることがありそうだ。

 ランニングシューズに関しては、「僕のなかでは反発が高いイメージがあって、ジョグをしていても自然とペースが上がります」と三浦は感じている。さらに「フィッティングも良いですし、安定性も優れているんじゃないかなと思います」という感想を口にした。なお普段のジョグは「なめらかなライド感」が特徴の『クラウドサーファー2』というモデルをよく着用しているという。

 スパイクに関しても、「僕のフィーリングとしては凄くいいなと率直に思います。3000m障害のレースでも期待感が持てるのかな」と好感触を持っている。

 三浦は3月23日の順天堂大競技会1500mでトラックのシーズン初戦に出場。鋭いスパートでトップを飾り、3分43秒59をマークしている。3000m障害は4月26日に開催されるダイヤモンドリーグ厦門大会で〝スパイクデビュー〟を果たすことになる。

 その後は5月3日のダイヤモンドリーグ上海・柯橋大会、5月18日のセイコーゴールデングランプリ東京に出場予定。パリ五輪入賞者は参加標準記録(8分15秒00)を突破した時点で9月の東京世界陸上が即時内定する。「ダイヤモンドリーグは記録も望めますし、ここで世界陸上の参加標準記録を切って、内定を決めたいなと思っています。タイムだけでなく、順位もしっかりと上を狙っていきたいなと思っています」と高い目標を掲げた。

 またOnは北米、欧州、豪州にOAC(オン・アスレチッククラブ)を立ち上げており、そこを拠点に世界トップクラスの契約選手たちがトレーニングを積んでいる。日本人では佐藤圭汰(駒大)が練習に参加しているが、今後は三浦もOACでトレーニングする機会があるかもしれない。

 そして今年は9月に東京で世界陸上が開催される。2年前のブダペスト世界陸上で6位、昨年のパリ五輪で8位に食い込んでいる三浦はどんな目標を掲げているのか。

ティーブ・デコーカー氏(左)と三浦龍司(右)が共に会見へ登壇

「世界陸上は自国開催ということでアピールできる場面が大きいのかなと思っています。具体的な目標については、表彰台、メダル獲得を継続的に掲げていますし、プラスして記録も更新していきたい。そのために集団のなかで勝ち切る力をもっとつけていきたいです」

 記者発表会が行われた国立競技場は2021年に開催された東京五輪の舞台。三浦は予選で日本記録を塗り替えると、決勝でも7位入賞を果たして、我々を驚かせた。当時は「勢い任せで走っていた部分があった」という三浦は無観客のなかをがむしゃらに駆け抜けた。

 あれから4年。様々な経験を積んだ三浦は「メダル」という目標を堂々と口にできるだけのキャリアを築いてきた。今度は大声援が三浦のスパートを後押しするだろう。また世界大会のメダルだけでなく、日本記録(8分09秒91)を保持する三浦には記録面での野望もある。

「今年の目標は世界陸上のメダル獲得ですが、その先でいえば8分を切ることが目標です。そして将来的には金メダルを目指していきたい。これまで叶えられなかった高い目標をOnとともに達成したいと思います。さらなるレベルアップに向けて新たな挑戦が始まります」

 三浦龍司が描く世界一を目指すストーリーをOnがサポートしていく。


酒井政人

元箱根駅伝ランナーのスポーツライター。国内外の陸上競技・ランニングを幅広く執筆中。著書に『箱根駅伝ノート』『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。